言葉の森新聞2009年8月2週号 通算第1090号
文責 中根克明(森川林)

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■■今週は8月2週号と3週号を一緒にお送りします
 8月2週と8月3週は、言葉の森新聞をまとめてお送りします。

■■8月10日(月)〜15日(土)は休み宿題(再掲)
 予定表に書いてあるとおり、8月10日(月)〜15日(土)は休み宿題になります。
 先生からの電話はありませんが、自宅でその週の課題を書いて作文を提出してください。
 ほかの日に教室に来るか教室に電話をして、その週の説明を聞いてから書くこともできます。
 休み宿題のときに、電話の説明を聞かずに自分で作文を書く人は、ホームページの「授業の渚」か課題フォルダの「解説集」を参考にしてください。
 「授業の渚」 http://www.mori7.com/nagisa/index.php
 「ヒントの池」 http://www.mori7.com/mine/ike.php


■■振替授業について(再掲)
 振替授業の受付時間は下記の通りです。
 (月〜金) 9時〜19時50分 
 (土)   9時〜11時50分
 振替授業の予約はできません。作文が書けるときに直接教室にお電話ください。なお、夏休み中は、混みあうことがあるため、20分くらいお待ちいただく場合があります。
 8月10日(月)〜15日(土)は、教室が夏休みのため、振替授業もありません。


■■夏休み中は作文の返却講評が遅れることも(再掲)
 夏休み中は、教室が休みになる週と担当の先生が休みをとる週があるため、作文の返却や講評が一時的に遅れる場合があります。ご了承ください。

■■ナイフとフォークの教材からお箸の教材へ
 現代の日本のような豊かな社会では、勉強するための教材も至れり尽くせりのものが多くなっています。

 教材以外にも、現代は、次々と目新しいものが人の興味を引くという状態が普通の生活になっています。コマーシャルなどを見ると、その流行りすたりのテンポの速さがよくわかります。また、余分なアクセサリーも多く、自動車や勉強机や携帯電話など日常の商品に様々なオプションが用意されています。

 一方、勉強の基本は、同じことの反復です。貝原益軒は、100字の暗唱100回という勉強法を提唱しました。実際に100字を100回読んでみると、約30分かかります。岸本裕史氏は、算数の分野で100ます計算という方法を開発しました。要するに簡単な計算問題を100題やるということです。

 このように同じことを同じやり方で飽きずに続ける力というのが勉強の力です。食事でいうと、おかずは日々変わってもよいが、主食であるお米だけは毎日飽きずに食べ続けるということです。主食は、例えば玄米であれば、お米だけで完全栄養食品になるので、それさえしっかり食べていれば、おかずはおまけのようなものでいいということなのです。

 100字100回の暗唱という勉強は、主食となる勉強です。この主食を補強するおかずとなる勉強が、いろいろな問題集を解く勉強です。

 勉強の中身が同じことの反復であるように、勉強の方法も同じやり方を続けるのが基本です。子供が飽きないようにと新しいやり方を次々に用意してあげると、勉強の中身が身につかないばかりか、勉強の方法も身につきません。

 勉強の中身によってやり方を変えるような教材をナイフとフォークの教材と呼ぶとすると、どの勉強も同じやり方で取り組むような教材は、お箸の教材と呼べるでしょう。

 ナイフとフォークの延長には、スプーンがあり、大きいスプーンがあり、小さいスプーンがあり、グレープフルーツ用のスプーンがありと、次々と道具は細分化されていきます。細分化を文化の豊かさと考えることもできますが、ナイフとフォークの文化に属してしまうと、それらの道具がなければ物が食べられなくなってしまいます。教材がないと勉強できないというのが、ナイフとフォークの教材の特徴です。

 それに対して日本の食事文化では、お箸だけで、つまむ、はさむ、切る、指す、様々な料理に対応できます。お箸の文化に属していれば、山登りをするときでも、1組のお箸で間に合います。

 教室や先生がいなければ、または教材を買わなければ、勉強できないというのでは、飽きずに長期間続ける勉強はできません。

 そのような教材ではなく、一つの方法さえ覚えていれば、どこでも、だれでも、いつでも、無料でできるというのが理想の勉強法です。

 これまでの社会で、ナイフとフォークの教材が主流だったのは、教育の中心が読む学力だったからです。読む学力は、他人と比較して評価する学力であり、競争し合う学力です。それは、ある一つの順位や点数を奪い合う学力とも言えます。

 これに対して、書く学力は、比較する学力ではなく、発表する学力です。そして、競い合う学力ではなく、表現し合う学力です。それは奪い合う学力ではなく、認め合う学力です。

 しかし、その先に作る学力というものがあります。作る学力は、表現するだけではなく、創造する学力です。それは、認め合う学力にとどまらず、与え合う学力になります。リナックスというOSは、多くの人が無償で自分の新しい創造を付け加えることによって、商用製品よりも優れた面を持つようになりました。

 未来の社会で求められている学力は、読む学力から書く学力へ、書く学力からさらに作る学力へと進歩していきます。その学力を育てるツールは、これまでのようなナイフとフォークの教材ではなく、もっとシンプルなお箸のような教材になっていくと思います。


■■作文の成功体験を重ねること―質問に答えて
●「電話があるので、作文に取り組める」という声に対して(小2保護者)

 電話があることが勉強の取り掛かりやすさになっていると思います。
 この状態を維持するために、電話のあとすぐに始めるといやり方をこれからも続けていってください。
 何か用事があって、電話のあとすぐに書くのが難しいときも、「あとでじっくりやろう」とはせずに、「短くてもいいから今やろう」としていくといいと思います。

●「先生の子供に対する配慮が行き届いている」という声に対して(小2保護者)

 言葉の森の指導の方針は、明るく楽しく、いいところを褒める、です。
 褒めていると、子供は不思議とその褒め言葉に合うように上手になっていくようです。

●「作文を書いていて行き詰ったとき親がどうアドバイスをしていいかわからない」という声に対して(小2保護者)

 行き詰って10分ほどたっているようでしたら、教室にお電話ください。追加の説明をするので、すぐに書けるようになります。教室の受付時間外でしたら、次のようにしてください。
 小学2年生の字数の目標は200字から400字です。
 行き詰ったときは、「何しろ200字までがんばろう」と言って、200字のところに線を引いて目標にしてください。
 そして、アドバイスは、
「そのときの会話を思い出してみよう」
「『どうしてかというと』と続けてみよう」
「『もし……だったら』と考えてみよう」
などです。
 この場合、文章の流れが多少不自然になっても全くかまいません。
 それでも書けない場合は、大人が続きの文を言ってそのとおりに書かせます。少し書き出すとそれが呼び水になって、そのあと自分で書いていくことができます。
 そして、目標の200字まで行ったら、「せっかくここまで書いたんだから、もう少しがんばってみよう」などとは決して言わずに(笑)、「わあ、すごい。できた! よかったね。お祝いしよう!」と親子でおいしいものでも食べるといいと思います。
 どんなやり方でもいいので、成功体験を積み重ねるのがコツです。

●「長文暗唱の300字の区切りをわかりやすくしてほしい」という声に対して(小2保護者)

 できるだけ使いやすい教材をめざしていきますが、言葉の森の教材の考え方は、言葉の森以外のものにも利用できる「お箸のような教材」です。
 言葉の森の長文で300字の暗唱ができるようになったあと、子供が別の本や、あるいは将来英語の本を暗唱するようになったとき、同じ要領でできるように、300字程度を自分で決めるというようにしています。
 というのは、文章によっては、100字や300字でちょうど区切られないものもかなりあるからです。1日目は80字ぐらい、2日目は120字ぐらい、3日目は文の区切りが悪いので、読点までで終わりにするというような臨機応変な対応の仕方をする勉強も兼ねていると考えて取り組んでいってくださるようお願いします。


■■作文の上達は、読む力を育てることを通して―質問に答えて
●「通学教室に通って意欲を持たせたい」という声に対して(小2保護者)

 現在、通学教室を全国に作る方向で考えています。(が、まだ時間がかかると思います)
 小学2年生の子が自宅で意欲的に取り組むようにさせるには、
1、毎日の暗唱や音読の自習を続け、言葉の森で作文の勉強をしているという意識が1週間続くようにする
2、暗唱や作文の結果について、お父さんと打ち合わせをしてときどき褒めてあげる
 「おっ、なかなかうまいなあ」「やっぱり声を出して読んでいるからだね」「こんなによくがんばった」「本を読むのが好きなんだね」など簡単な一言で。
3、子供が「やりたくない」と言ったときも決して迷わずに、「この勉強だけは絶対に続けるんだから」とはっきり言っておく
 そのうちに、ほかの人や学校の先生などから褒められる機会があると、子供はだんだん自信を持つようになってきます。
 自信を持たせるために、よく書けた作品はときどき小学生新聞などに応募されるといいと思います。

●「読み手の気持ちを考えて書けるようになってほしい」という声に対して(小3保護者)

 年齢としては、小3から小4にかけての時期に、読み手を意識した作文を書くようになります。
 ただし、その土台となるのは読む力です。語彙力が増えて、自分の言いたいことが自由に表現できるようになると、書くことが楽しくなります。
 この時期は、コンクールなどにもどんどん応募して、表現の機会を増やしてあげるといいと思います。
 しかし、作文の指導は、性急にやろうとすると、子供にとっては負担になります。
 例えば、「書き出しの工夫」や「たとえ」や「声顔動作の様子」などは、表現の工夫の練習ですが、語彙力がまだ十分についていないうちは、どうしてもありきたりの書き方になります。
 このありきたりの表現を個性的な表現にするのは、読む練習ですから、長い時間がかかります。作文指導の上だけで直そうとすると、子供は負担を感じるようになります。
 子供にしてみると、言われていることはわかるが、どうしたらいいかわからないという状態だからです。
 作文の力をつけるのは、スポーツや音楽の練習と同じで、長い時間がかかります。よいところを褒めて、暗唱や読書の自習を積み重ねていくことがいちばん近道になります。
 できれば、もっとゆったりと見ていただけるといいと思います。
 ただし、以上は、一般論です。
 具体的なアドバイスは、作文そのものを見ないと何とも言えません。
 よろしければ、作文を事務局にファクスで送っていただければ、より詳しいアドバイスができます。
 FAX 0120−72−3987(24時間)

●「文学作品の暗唱も載せてほしい」という声に対して(小3保護者)

 言葉の森の教材は、物語文よりも説明文に重点を置いています。
 その理由は、物語文は普段でも読む機会が多いが、説明文はあまり読む機会がないからです。
 そして、国語力の中心は、文学的な文章よりも論説的な文章の方にあるからです。
 ただし、日本の国語の試験では、伝統的に物語文で心情を問うスタイルのものが多いので、文学的な文章を読む力ももちろん必要です。
 教材については、今後バランスを考えていきたいと思います。
 暗唱は、暗唱する教材も大事ですが、それ以上に暗唱の仕方を学ぶということが重要だと考えています。
 言葉の森の長文で暗唱の仕方を身につければ、その方法で、自分の好きな文章を暗唱することもできます。また、中学生になれば、英語の教科書を暗唱することも抵抗なくできるようになります。
 無理に覚えようとするのではなく、回数を決めて繰り返すことが暗唱のコツだと子供さんが実感できるようになれば、それが暗唱のいちばんの成果になると思います。


■■発表する文化の先にあるもの
 王様は言いました。「おいしいものが食べたい」。そこで、腕に自信のある国中の調理人が様々な料理を作りました。ところが、優勝したのはめざしでした。という漫画を昔読んだことがあります。

 ラーメンとカレーとチャーハンで、どれが一番かと問うことはできません。好き嫌いという主観的なことは言えますが、どれが最もすぐれているかという順番をつけることはできません。

 芸術作品も同じです。「久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」と「かにかくに渋民村は恋しかりおもいでの山おもいでの川」と、どちらがすぐれているかという問いは、普通はしません。

 もちろん、何のために評価をするのかという目的が明確であれば、その目的に沿った評価や点数化はできますが、目的がないときの点数化というのはできないのです。

 しかし、このような芸術作品にも、ある方法で順位をつけることができます。それはその時代の人気投票によるものです。例えば、好きな料理でカレーが350票、ラーメンが320票と票が入れば、順位が決まります。つまり、主観が集積したものが客観性になるというのが投票の理論です。

 作文も似ています。ある目的に沿った評価として見れば作文にも点数がつけられますが、感動する作品を客観的に評価することはできません。できるとすれば、人気投票のような形です。作文には、それぞれ味があるからです。

 これは、読む学力の評価と書く学力の評価の違いと考えることができます。読む学力は、目標が限定されているので、テストで点数化することができます。書く学力は、テストや点数化にはもともと不向きで、ただ発表することが書くための動機になります。読む学力は、いい点数をとることが、書く学力は、人に見てもらうことが、その動機となっているのです。

 これまでの社会では、テストの文化が大きな比重を占めていました。しかし、これからの社会では、発表の文化が大きく広がっていきます。しかし、実は発表の先にもう一つ別の文化があるのです。

 なぜ花はきれいに咲き、なぜ鳥は美しく歌うかといえば、それは昆虫や仲間を引き寄せるためという目的があるでしょうが、それだけでは説明しきれないものがあります。花が咲き鳥が歌うのは、生存のためという目的を超えて、美を表現すること自体が嬉しいからなのです。それは、自分が花や鳥の気持ちになるとわかります(笑)。

 「葉隠」に、剣術の修行の段階についての話があります。まず、弱くて自信がないとき。これは、使えません。次に、ある程度強くなり自信もつき、人の長所や欠点がわかるようになり、いろいろ批評もしたくなる時期。このころになると、役に立ちます。しかしその先に、人の長所や欠点だけでなく、自分の長所や欠点もわかるようになり、自信はあるが黙っている時期があるそうです。

 普通の人はここまでですが、さらにその先に、どこまでいっても無限に進歩の先があることが分かり、ひとりで進歩し続ける境地があるというのです。

 読む学力は、テストや点数で評価できます。これは、剣術で言えば、人の欠点もわかり批評もしたくなる時期でしょう。しかし、その先の書く学力は、評価ではなく発表自体が動機になります。剣術で言えば、自分の長所や欠点もわかり自信はあるが黙っているという時期でしょう。しかしさらにその先に、無限の進歩があるというような境地に達するような時期がやってくるのだと思います。それが、テストの文化、発表の文化のあとに来る道の文化です。

 カレー、ラーメン、チャーハン、それぞれに個性があるというのは発表の文化です。その先に、カレー道、ラーメン道、チャーハン道という無限の進歩をめざす境地があります。

 王様の料理コンテストで優勝しためざしの先に待っているものもまた、めざし道という道の文化なのだと思います。


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