言葉の森新聞2011年10月3週号 通算第1196号
文責 中根克明(森川林)
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■■10.4週から清書の処理方法が変わります
10.4週から、清書の処理方法を次のように変更する予定です。
全体の流れはほとんど変わりませんが、大きく変わる点は、手書きの清書をパソコンで入力し直すことを原則とすることです。
◆表はウェブでごらんください。
https://www.mori7.com/mori/mori_web.php?ki=20111003#16712
これまで手書き清書のパソコン入力化は、希望者が家庭で行う形でしたが、これからは原則として全家庭で行っていただくようにしたいと思います。これは、パソコン入力によって、森リンの点数表示が出るようにし、子供たちの作文の進歩がわかるようにするためです。
家庭でパソコン入力ができない場合、講師が有料(1文字1円を予定)でパソコン入力し直しの作業を行いますが、できるだけ家庭で行ってくださるようお願いします。
■■国語の読解力、記述力のつけ方
国語の読解力をつけるための基礎は、小学校中学年までの読書量です。しかし、ただ物語的な読書だけの量が多くても、それがそのまま国語力に結びつくわけではありません。入試に出てくる問題文は、子供が通常読むような本のレベルよりも高いので、そういう難しい文章に慣れておく必要があります。
入試問題の文章に慣れるためにいちばんいいのは、やはり昨年の入試問題です。天声人語のような新聞のコラムの文章は易しすぎます。塾のテキストや市販の問題集などの問題文でもいいのですが、入試問題にはその時代の特徴が反映されます。古い問題集では、たとえその文章自体の質がよくても時代的に合わない面も出てきます。例えば、二酸化炭素と地球温暖化は、科学的な裏づけに疑問が持たれるようになってきました。一昔前なら必ずどこかで出た文章ですが、これからはもう出ないと思います。
小学校中学年までに本をよく読んでいた子は、入試問題集のような難しい文章を読み始めると、そういう文章を読む力もすぐにつけます。本をよく読んでいる子は、難しい文章も読み慣れるのが早いのです。読書が大切だというのは、読書がそのまますぐに国語の学力に結びつくからではありません。読書力がある子は、難しい文章を読む力もつけやすいからです。
小6になって国語の成績が伸び悩む子によくあるのが、問題を解くスピードが遅いというケースです。テストの問題で、前半はよくできているのに後半は×が多いというのは、読むのに時間がかかっているからです。こういう子は、できなかった問題を家でもう一度やってみると正解になるということがあります。読むスピードは、国語力の重要な要素です。これも、入試問題集のような文章を読み慣れることでついてきます。
読解問題を解くとき、ほとんどの子は、感覚で答えを選んでいます。言葉の森の教室で読解問題を解く子の、問題用紙と解答用紙をときどき見ると、最初はほとんどの子が傍線などを引かずに、きれいなまま読んでいます。
こういう読み方では、答えが合っていても間違っていても、あとから反省に生かすことができません。その問題のどこをどう考えたのかということがわかるように、線を引いたり印をつけたりしておくことが大事です。
問題文をきれいに読み、傍線を引かないというのは、小中学生ばかりでなく、高校生でもかなりあります。問題文を読むときに傍線を引くようにさせ、国語を感覚ではなく理詰めで解かせるようにすると、どの子も成績が急上昇します。
国語の記述力をつけるための基礎も、小学校中学年までの読書量です。ただ、これも通常の読書のレベルでは、入試問題に対応した語彙がないので、入試問題集のような文章を読む練習をしていく必要があります。これも、新聞のコラムや塾や市販の問題集よりも、実際の昨年の入試問題集の方がいいことは言うまでもありません。
国語というのは、他の教科と違い、学年に関係がないので、中学入試問題集の問題文であっても、小6になってすぐに読むことができます。同様に、高校入試の問題集は中1になってすぐに読むことができ、大学入試の問題集は、高1になってすぐに読むことができます。しかし、中学入試の問題集を小5で読むのはかなり苦しいようです。
入試問題集を読むことによって、記述に必要な語彙が身についてきます。しかし、理解するための語彙と表現するための語彙は違います。読めるからと言ってその語彙がすぐに使えるわけではありません。そこで、問題集の文章の内容を、身近なお父さんやお母さんに説明する練習をします。記述で実際に書く練習は時間がかかりますが、口頭で説明する練習は短い時間でかなりの量をこなせます。
記述力で大事なことは、迷わずに一挙に必要な字数まで書く力をつけることです。書いている途中で考えたり、消しゴムで消して書き直したりすると時間が大幅にかかり、ほかの問題を解く時間に影響します。そのためには、志望校の入試の記述問題で出る字数に合わせて、実際に書く練習をすることです。
例えば、150字の記述問題があったら、大体3文か4文でまとめると見当をつけ、頭の中で文章を考え、書き出したら迷わずに指定の字数ぴったりまで書くようにします。実力のある子は、2、3文字の差で字数ぎりぎりにまとめることができます。
記述問題でよくあるまとめ方は、ただ「Aがよいと思う」という書き方ではなく、「BではなくAがよいと思う」「確かにBもよいがAがよいと思う」などと、説明や感想の輪郭がわかるように対比をはっきりさせて書くことです。
しかし、国語の力でいちばん大事なのは、こういうテストに対応した読解力や記述力ではありません。国語の成績をよくすることは、ある意味で表面的な学力です。
将来も役立つ国語力とは、さまざまな問題を自分なりに考えそれを表現する力です。考える力と書く力があるというのは、評価として測定しにくいものですが、それが大人になってからも役立つ本当の学力なのです。
■■意欲のきっかけとしての小さな実行
物体の摩擦には、動き出してからの摩擦(動摩擦)よりも、止まっているところから動き始めるときの摩擦(静止摩擦)の方が大きいという法則があります。
人間の行動も似ています。何かを始めてからの抵抗よりも、始める前の最初の抵抗の方が大きいのです。
これを勉強のきっかけに生かすことができます。止まっているところから動き始めるときに大事なことは、小さな動きでもよいとして何しろ動くということです。
例えば、読書の習慣をつけるのに、朝の10分間読書という方法があります。どんな本でもいいから何しろ10分間読む、という小さな動きが、子供たちに本を読む習慣をつけたのです。
この方法は、家庭でも使えます。どんな本でもいいから10ページ読むという目標であれば、だれでもすぐにできます。この毎日10ページの読書を続けていると、読むことが苦にならなくなります。そして、やがて面白い本にめぐりあうと、それが10分で終わらなくなりいつの間にかじっくり本を読む力がついてくるのです。
多くの親は、最初から難しい本をたくさん読ませようとして、静止摩擦係数を大きくしています。最初は、どんな本でもいいから毎日10ページ読むだけ、という小さな目標にしておくことです。
もちろん、その目標を決めたら、親もそれを守ることが大切です。「どんな本でもいいから毎日10ページ」と言っておきながら、子供の読んだ本を見て、「もう少しちゃんとした本を読んだら」とか、短時間で10ページ読み終わると、「もっとたくさん読んだら」などと言っては、約束を守ったことにはなりません。また、毎日と言っておきながら、読まない日があっても見過ごすという例外を作るのもよくありません。どうしても読めそうもない日があったら、5ページでも1ページでもいいから読むというのが、毎日ということの意味です。
読書というものは、毎日読んでいれば、必ずその面白さに目覚めるものですから、例外の日を1日も作らないということが大事です。
作文の場合のスタートも、小さな動きでいいから実際に動く(書き出す)ということが大切です。子供がなかなか作文の勉強を始められないときは、最初から長い字数の作文を書くことを求めるのでなく、「とりあえず100字まで書けばいいということにしよう」などと、短い目標の字数を決めるのです。
それでも書き出せない場合は、お父さんやお母さんが、「じゃあ、言ったとおりに書いてごらん」と言って、子供が書く内容を口で言ってあげて、そのまま書かせるのです。それでは、子供が自分で書いたことにならないと思うかもしれませんが、親に言われたとおりに数行書いた子は、ほとんどそのまま、その続きを自分で書いていきます。最初の静止摩擦のところだけ動かすのを手伝えば、そのあとは自分で書いていけるのです。
暗唱の自習のスタートも、小さな動きで実際に動く(音読する)ところから始めれば誰でもできるようになります。
暗唱は、その文章を覚えようとするから負担になるのです。文章を覚えようとすると、その目標ははるか遠くにあるように見えます。
しかし、30回音読するというような目標にすると、目標自体がぐっと身近になります。言葉の森では、30回紙を折る形で数えているので、回数が更に実感できます。そして、15回から20回音読を繰り返したところで、いつの間にか自分がほとんど暗唱できていることに気づきます。
最初の小さな動きさえ開始すれば、そのあと続けるのは簡単にできるのです。
ときどき作文の提出がたまってしまう子がいます。何か用事があったために、先週の作文を書いていないうちに、今週の作文の課題の日になってしまったという場合です。
こういうとき、ほとんどの子は、がんばって両方やろうとします。すると、静止摩擦係数がぐっと大きくなるのです。
これまでの例で言うと、1日に続けてふたつの作文を書ける子はほとんどいません。たいていは、ひとつ書き終えた時点でくたびれてしまうからです。
そうすると、いつか時間のあるときに、ふたつ書こうと思うようになり、更に負担が増していきます。
だから、授業のある日に書けなかった作文は、もう書かないと決めて、そのかわり、最新の課題にしっかり取り組むというようにするといいのです。
動き出すコツは、小さな動きでいいからまず実際に動いてみるということです。
■■意欲を育てる仲間意識
子供たちの勉強の意欲をどう育てるかということで、これまで、我慢する力をつけることと、小さな実行から始める方法を書いてきました。今回は、仲間意識を生かすことについてです。
人間は、集団生活をする動物です。だから、仲間に所属したいという気持ちを常に持っています。
勉強の能率を上げるためだけなら、集団で勉強をしても個人で勉強してもあまり変わりはないはずですが、学校のような集団の中で勉強した方がやりやすいと感じられるのは、クラスという集団で勉強が共有されるからです。
子供たちも、高校生以上になると、勉強の能率を考えて、集団の中で勉強するよりもひとりで勉強する方を好む子が増えてきます。しかし、中学2年生のころまでは、友達との競争や協力の中で勉強した方が意欲がわくので勉強の能率も上がるのです。
意欲を高める手段として、競争や賞罰という方法がありますが、これも、その前提に所属する集団があって初めて生きてきます。仲間意識がある中での競争や賞罰であれば、小さなきっかけであっても熱中できるからです。
子供たちが主に所属する集団は、年齢によって変わってきます。一般に、小学校4年生ぐらいまでは、子供たちが最も強く所属している集団は家族で、その主な仲間は父親と母親です。子供たちは、学校のクラスにも所属していますが、この時期は、クラスの友達よりも大人である先生の方が重要な結びつきの関係になっています。
子供たちが小学校5年生以上になると、所属する集団は学校や塾やスポーツチームなどになり、その際の主な仲間は同年代の友達になります。両親や先生という大人よりも、友達との関係の方が強くなるのがこの時期です。この場合の意欲は、友達にどう見られるかということと深く関連しています。塾などで友達との競争に最も燃えるのがこの時期です。
子供たちが中学3年生以上になると、所属する集団は、身近なクラスのようなものから、もっと抽象的なものに移っていきます。それにつれて、友達との競争よりも、自分自身に勝つというような自主独立の勉強の仕方が主流になってきます。したがって、子供が高校生になると、勉強は自分の自覚でやるようになるので、親があれこれ言う必要はなくなります。
問題は、小1−小4のころの意欲づけと、小5−中2のころの意欲づけの方法です。
作文の勉強においては、ここで家族の対話が生きてきます。子供たちが作文の勉強に意欲を持つのは、自分の書く作文が家族という集団の中に位置づけられているときです。
その方法は、事前の対話と事後の対話です。
事前の対話とは、作文の課題の予習です。題名課題の作文の場合は、子供が両親に自分が何を書くつもりかを説明します。感想文課題の場合は、もとになる長文を読んでやはり両親にその長文の内容を説明します。子供が書こうとする内容を両親と共有することで、作文を書くことが家庭という集団に所属して自分の役割を果たすことにつながるのです。
事後の対話とは、返却された作文を見ての対話です。しかし、この事後の対話で大事なことは、勉強的な見直しをしたり推敲をしたりすることではありません(受験コースの場合は推敲が必要ですが)。子供の書いた作文を家族で共有することによって、子供が作文を書くことが家族という集団にとって意味あるものだという感覚を持たせることです。
小学校4年生までは、他人との競争ということを意識せずに、両親が子供の作文に関心を持つことだけで、子供の勉強は意欲的になります。
しかし、小学校5年生以上は、子供の中に友達との競争という意識が強くなってきます。そこで、両親の関わり方は、子供の作文について直接の対話をするだけでなく、同年代の友達への所属感を生かした対話にしていく必要があります。
しかし、この小5から中2の時期に競争という刺激に適応させると、高校生になってからも競争に勝つという目標で勉強をするようになります。競争や勝敗という刺激で行う勉強は、高校生以上ではかえって意欲の低下につながります。だから、小5から中2の勉強は、子供の持っている競争意識を活用しながらも、競争を超えた目的を常に意識させて進めていく必要があります。
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