私は今アゲハのさなぎがいる飼育ケースを横に置いて、この学級新聞を書いています。実は羽化の瞬間をみたいがために、この二日間は夜中の2時から起きてるんです。図鑑には、羽化は明け方にはじまることが多い、と書いてあるの。われながらなんでこんなに夢中になるのか少しあきれてるんだけど、蝶の完全変態をどうしても見届けたい、という好奇心が抑えられないのです。
羽化が近づくと、羽がすきとおってみえるんだって。たしかに側面のところが、黒っぽくなってきてアゲハのあの美しい羽をたたんでいることをうかがわせます。今夜こそ「そのとき」がくるかもしれない!
さなぎくんへ(お手紙)
とても寂しいんだ。まもなく蝶になって、君は飛び立っていくんだもの。君を世話したひと月あまり、たくさんの感動と驚きを経験したんだ。今のさなぎの姿も背中から見ると、まるで両手を胸のところであわせている童女のようだね。なんてかわいいのだろう。
私は君に夢中だった。特に君のあしが大好きだったんだよ。胸の部分についている胸脚と、腹の部分についている腹脚の二種類があるんだよね。君はこの腹脚で、葉っぱのへりや、また食べつくした葉っぱの芯をしっかりとはさみながら上手に移動していたね。どんな細いところも踏み外さず渡りきったね。君は実にくいしんぼうだったから、葉っぱをきれいに食べつくしてしまうんだ。みかんの葉っぱって広葉樹だよ。でも君の食べた後の葉っぱはみんな針葉樹みたいになってしまったね。葉っぱの芯しか残さないんだ。
そんなあやういところの方向転換をする様はすごかったね。君はどうやら後退はできないらしい。枝の先まで行き着いて、さてこれからどうするのか、と見守っていると君は頭を自分のしっぽの方へうんと振りかえるように伸ばして、まず上体を胸脚でしっかりと支えたね。体がこんなに曲がったり、伸び縮みすることにも驚いたけど、体がUの形になりJの形になり見事に方向転換してIの形になったときは、思わず拍手したよ。すばらしい芸当をみせてくれたね。君の脚は手の役目もするし、どんな無理な体勢になっても、きちんと足場をはさみこむという仕事をわすれないんだね。
そして、これほどの仕事をする脚はデザインも優れていたね。白い線がでていたけど、あれはナイキのマークを意識していたのかな。シューズをはいているみたいでかっこよかったよ。君の成虫になったときの羽の模様はとても素敵だけど、実は青虫のときからおしゃれには気を使っていたんだね。
さなぎになっている今も、君はかつての一番後ろの腹脚で体をしっかり支えているじゃないか。細い糸とそのかつての腹脚の一点のみで10日間もじっとしている。最後の最後まで君の脚は役に立つんだね。
君はまもなく美しいアゲハになるんだ。もうすぐお別れだから手紙を書いたよ。楽しい思い出をありがとう。脱皮、がんばってね。
はつこより
青虫の飼育を経験したおかげで、図鑑は調べるためだけの本だと思っていたけど、物語のように読めることが分かったの。青虫の成長は神秘的で、ドラマチックで、手品のようで、でも全て現実、ノンフィクションなのです。
ね、育ててみたくなったでしょ?ゲームやテレビよりずっと面白いよ!
|
|
枝 6 / 節 17 / ID 8199 作者コード:souyo
|