先月号で書いた実家での「伝説のリカちゃんさがし」のとき、なつかしい本を見つけました。宮川ひろさんが書いた『るすばん先生』(ポプラ社)と、『先生のつうしんぼ』(偕成社)です。『るすばん先生』は、小学生のころ、いちばん好きな本でした。『先生のつうしんぼ』は、“第22回青少年感想文全国コンクール・課題図書”とシールが張ってあります。皆さんのお父さんお母さんの中にも、小学生のとき、夏休みにこの本で感想文を書いた方がいらっしゃるかもしれません。(あぁ、歳がばれますね。^^;)
るすばん先生は、赤ちゃんを産むためにお休みをする先生の代わりに来た先生です。担任するのは3年3組。小学生だった私にとって、本の中の子たちは同級生のような存在でした。
じつは私も2年生のときに、2回、先生がかわったんです。初めの先生は顔も覚えていないほど短い期間でした。代わりにやって来たのが、とてもやさしいおばあちゃんで、まるで本のるすばん先生のような先生だったのです。とても絵が上手で、花まるの他にもいろいろな絵の丸をかいてくれました。休み時間には、みんな教卓の先生のまわりに集まって、丸のかきかたを教えてもらったり、お話をしてもらったりしました。
ところが、そのおばあちゃん先生ともお別れしなければならなくなりました。体調をくずされて、先生を続けられなくなってしまったのです。最後の日、先生は「先生は絵が大好きです。ですから、今日は先生の顔を描いてください。」とおっしゃいました。クラス全員、窓際に座った先生を描きました。描き上がった絵を一人ずつ先生に渡しに行くと、それぞれの絵と、その子のいいところをほめてくださいました。
『先生のつうしんぼ』でも、先生の顔の絵を描く場面があります。担任の男の先生がお見合い写真の代わりにみんなの絵を相手に渡すというのです。おばあちゃん先生の次に私たちの担任になった先生は、この「先生のつうしんぼ」の先生に似た若い男の先生でした。
新しい先生は、本当の先生になるために勉強中でした。ですから、何をやっても上手ではありません。とくにオルガンが苦手で、つっかえつっかえです。でも、文句を言う子は誰もいませんでした。歌で先生を引っぱります。「ピアノを習い始めたんだ。」と、懸命に練習する先生を、みんなではげましました。
私たちは、先生が何度もかわって不安だったのかもしれません。いつでも先生にまとわりついていました。先生はそんな私たちといつも一緒にいてくださいました。2年生最後の日には、「本当の先生になって、また学校に来てね。きっとだよ。」と、何度も言ったことを覚えています。
『るすばん先生』の最後のページに「先生、こんどはるすばん先生じゃなくってさあ、ほんとの先生になってまたきてよ。」というセリフがあります。私がこの本を特別に好きなのは、きっと、同じ経験があるからです。『先生のつうしんぼ』が好きなのは、本の中のにんじんが食べられない先生のように、完ぺきではない先生のことが大好きだったからです。
読んでもおもしろく感じない本は、経験が足りないということかもしれません。自分の中で共感したり、比べたりできないからおもしろくないのです。ただがむしゃらに読んでも本を好きにはなりません。本を楽しく読むためにも、さまざまな経験を積むことが大切なんですね。
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枝 6 / 節 19 / ID 8409 作者コード:yuta
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