秋も深まり、先生のうちの庭木も色づくものや、葉が残り少なくなっていくものもあります。先日、飼っている二匹の猫が庭に面した窓を一生懸命見ているので、「ああー、猫も秋を惜しんでいるのかなあ…」 などと思ったら、なんでもない! 結構大きめなカマキリが窓の外にへばりついていました。小さな猫のほうが、先生の顔を見て、「とってー」 と鳴きました。(ホントかな?!) そこで一句思い出しました。
「名月を とってくれろと 泣く子かな」 小林一茶
10月の下旬にNHKの番組「クイズ 日本の顔」 に、みんなも知っているかなあ? 映画字幕翻訳者の戸田奈津子さんが出演していました。彼女は、映画「タイタニック」 「スターウォーズ」 「ハリーポッター 賢者の石」 など、数多くの映画の字幕を作っている人です。その字幕を作り出すまでの工程を冒頭に放送していましたが、単に映画出演者のセリフを訳しているだけではないんだね。その画面が変わらないうちに、セリフを観客に読ませてしまわなければならないので、時間との戦いみたいでした。まずは、その場面が何秒のものなのか、すべてチェックし、どんなに英語のセリフが長くても、私たちが読めるぐらいの訳にしなければならない。時間と文章量の厳しい制約が課せられる仕事でした。「ああーなるほど! そんなふうに字幕を作っていくのか」 と映画を観る際、字幕に頼りきっている先生は、感心しながらテレビを見続けました。彼女に対する質問に回答者が答えるというかたちで番組が進んでいくのですが、一つおもしろい質問がありました。
映画タイタニックの中で、
「You let go,and,I gonna have to jump in there after you」 はどのように訳したでしょうか?
という質問です。直訳すると非常に長くなってしいます。字幕では短く訳さなければ読みきれない。通常なら、afterがあるので「君の後に飛び込む」 と訳してしまいますが、戸田さんは「タイタニック」 では「一緒」 という言葉がキーワードになると考え、「飛び込むなら僕も一緒に」 と訳したそうです。 「タイタニック」 のお話を知っている人には、これが後の展開に大きくつながるのが想像できるでしょう。
戸田奈津子さんの字幕翻訳の特徴は、スピーディなストーリー運びを損なわない大胆な「意訳」にあるといわれています。このようなたいへんな制約の中で一定水準以上の翻訳を締め切り時間内にまとめ上げる手腕は高く評価されています。こうした意訳が、ときに「セリフの意味が通らない」 などと批判の対象ともなっているみたいですが、先生が彼女から感じたことは、彼女は英語に秀でているのでなく、日本語をじょうずに使える人だということです。たくさんの日本語を知っていて、人の気持ちを読み取れる心を持っていないと翻訳はできないのだろうと、彼女から知らされました。そして、彼女は多くの日本語の本を読んで育ったに違いないと確信を持ちました。
深まる秋には多くの時間があります。テレビを消して、本を読んで過ごしてみてましょう。
|
|
枝 6 / 節 19 / ID 10482 作者コード:sarada
|