何かを見たとき、聞いたとき、体験したとき、私たちはいろいろなことを感じます。作文では、その感じたことをどのように表現するかということが、とてもおもしろいものです。たとえば、何かを見たときどう思ったか。見る前の気持ち、見た瞬間の気持ち、あとになって思ったこと。ずっと気持ちが一定しているとは限りませんから、気持ちの変化を書くことができますね。聞いたときや体験したときも同じです。自分が知っている言葉をいろいろ使い、またたとえなども考えると、自分の気持ちがよりくっきりと表現できるのです。
でも、みなさんとお話をしていて、
「そのとき、どんな気持ちだった?」
と聞くと、
「別に。普通。」
などと、具体的な言葉が返ってこないことが意外に多いものです。
これでは、自分の思ったことは書けないと思うかもしれませんが、決してそうではありません。「別に。普通。」と思った人も、まったく心が動いていないわけではないですね。まず、自分の気持ちをよく見つめてみましょう。もしかしたら、自分が気づいていない気持ちの変化があったかもしれません。それでも、「別に。普通。」としか思えなかったら、自分がそれほど感動も驚きもしなかったことを文章にすればいいのです。実は、私自身も、あまり感動したり驚いたりしないタイプの生徒でした。ですから、遠足に出かけても、運動会があっても、何をどう書いたらいいかわからなかったことがあります。でも、あるとき、大きく感動しない自分を周囲の人と比べたり、どうして心が大きく動かないかを自分なりに分析したりして文章にしてみようとしたら、書くことが苦痛ではなくなりました。さらに、それまでは、なぜか喜んだりうれしかったりしたことしか書いてはいけないと思いこんでいましたが、ちょっとイヤだなと思ったり腹が立ったりしたことを加えてみたら、書きたいと思うことがどんどんあふれてくるようになりました。
作文というと、どうしてもいいことしか書いてはいけないのかと思ってしまいがちです。しかし、決してそんなことはないのです。前向きな気持ちばかりではなく、下や横を向いた気持ち、ときには少し後ろ向きの気持ちでも、どんどん言葉にすればいいのです。なぜなら、それらの気持ちは、すべて自分の素直な心の動きだからです。作文を書きながら、「さて、このときはどんな気持ちかな?」と自分の心に問いかけながら、自分の素直な心の動きを追いかけてみましょう。
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枝 6 / 節 12 / ID 10794 作者コード:inoko
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