今回は、次女の学校のPTAで出会った、すてきなお母様のお話をします。
次女の学校では、毎年秋分の日に、大きなイベントを開催します。このイベントでは、保護者と先生が協力して、一日子どもたちに楽しんでもらいます。バザー、ゲーム、そしてたくさんの食べ物。子どもたちが、最も楽しみにしているイベントです。そのときに、毎年、手作りのケーキやクッキー、パンを焼いてきてくださるのが、Uさんです。手作りと言っても、ただの手作りではありません。その腕前は、プロ並みです。Uさんのクッキーやケーキを楽しみにしている人もかなりいるようです。ときには、ご自宅に親しい人を招いて、お教室も開いています。そのすばらしい腕前をこのままにしておくのはもったいないので、友人とインターネットを通じて販売をしてみたらどうかとすすめてみたことがあります。でも、Uさんの答えは、ノーでした。
そのUさんはとても元気で活動的なのですが、数年前、ガンにかかり、死を意識した時期があるのだそうです。手術後もつらい治療が続き、そのつらさにたえきれず、自殺まで考えたこともあると聞き本当に驚きました。現在の前向きで行動的な姿からは、そんなことがあったなんてとても想像できなかったのです。でも、その困難な状況からUさんを救ったのが、パンやケーキを作ることだったのだそうです。
発病する前から趣味としてパンやケーキを作っていたUさん。研究熱心な性格なので、レシピ本を見て自分で作ってみるだけでは満足できず、いろいろなお教室に通っていろいろなコツをつかみ、そのころにはかなりの技術を身に付けていました。そこで、入院中にお世話になった方々に、お礼としてケーキやパンを差し上げることにしました。もちろんプロ並みのおいしさですから、誰からもとても喜ばれたことでしょう。そして、そのうちに入院していた病院内で、入院している方々を相手にお教室を開くことになりました。そのとき、Uさんは、人を喜ばせることのすばらしさを実感したのだそうです。かつての自分のように、病気に負けそうになり暗い表情をしていた患者さんが、粉やたまごをまぜながら、どんどん明るい表情になっていくのを見て、自分の力が少しは役に立つことがわかり、とてもうれしかった。だから、自分の目的は、お金をもうけることではなく、あくまでも誰かを元気にしたり喜ばせたりすることなのだと、輝くような笑顔で話してくれました。
Uさんの話を聞いて、私は人と人との出会いやつながりについて、あらためて考えました。人間のつきあいというのは、決して一方通行のものではありません。お互いに理解しあい、相手のことを考える姿勢が必要です。また、社会の中で生きている自分を考えたとき、自分が周囲に対してできることは何かを見つめることも大切です。これからだんだん大人になるみなさんは、住む世界がしだいに広がっていきます。多くのことに興味を持ち、たくさんの人と出会い、知識を高め、そのうちに自分が周囲に対して、また社会に対してできることは何かを見つけてほしいと思います。
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枝 6 / 節 10 / ID 11104 作者コード:inoko
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