1年ぐらい前のしろくま通信で書きましたが、私は、「ごはん」という名前の日本スピッツを飼っています。日本スピッツは、今ではすっかりめずらしくなってしまいましたが、私が子どものころは、ちょうど今のダックスフンドのように人気のある犬でした。真っ白のふさふさとした豊かな毛並み。三角にピンととがった耳が特徴です。そして、ふさふさの立派なしっぽも、スピッツのかわいらしさの一つです。
犬のしっぽには、どんな役割があるのでしょう? ちょっと調べてみたところ、走ったりジャンプをしたりするときに、このしっぽでバランスをとるのだそうです。犬を飼っている人は、走っていて急に止まるときに、しっぽがどのように動いているかよく観察してみるといいでしょう。また、冬には、尻尾はマフラーの代わりになります。寒いときは、鼻先をしっぽでカバーして、冷たい空気を吸い込まないようにするのだそうです。しっぽには、こんなすごい役目があるのですね。
さて、犬はうれしいときにしっぽをふることは、みなさんもよく知っていると思います。ごはんのしっぽは、ふだんはくるんと上の方に丸まっているのですが、ちょっと気が乗らないときは、しっぽも元気なくだらんとしています。でも、ちょっと何かに期待しているときは、控えめにフリフリしています。そして、とてもうれしいときは、まるでチアガールのポンポンのように激しくゆれるのです。犬のしっぽというのは、自分で動かそうと思って動かすのではなく、自然に動いてしまうのだそうです。つまり、しっぽの動きに、その犬の気持ちが表れてしまうというわけです。ですから、自分の気持ちを知られないようにしたかったら、ひとりでに動いてしまうしっぽを止めようと、力をしぼらなければならないということになります。でも、犬は素直な動物ですから、そんなことをする犬はいないでしょうね。しっぽは、犬の心をうつす鏡なのですね。
では、もし私たち人間に、しっぽがあったらどうでしょう? イヤな人と話しているとき、ぴくりともしないしっぽ。そこに、だいすきな人がやって来て、押さえようと思ってもふさふさのしっぽが大きくゆれてしまう。顔の表情でいくら取り繕おうとしても、正直なしっぽは言うことを聞いてくれません。想像しただけで、冷や汗が出るようですね。
私たち人間の社会というのは、何でも自分の思い通りになるわけではありません。すべての人が、自分勝手に行動していたら、人間の社会はめちゃくちゃになってしまいます。腹立たしい気持ち、イヤだと思う気持ち、うれしい気持ちを押さえて行動しなければならないこともありますね。その結果、互いに理解し合えるようにもなるのですが、もし、心が表れてしまうしっぽがあったら、人間関係がなかなかうまくいかないかもしれません。ごはんくんのしっぽを見ながら、「やれやれ人間にしっぽがなくて良かった。」と、あらためて思いました。(でも、あんなふさふさのしっぽは、ちょっとうらやましいのですが……。)
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枝 6 / 節 12 / ID 11474 作者コード:inoko
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