いろはにほへと ちりぬるを
みなさんは、この続きを知っていますか?
ゴールデンウィークに、家族で栃木県の日光へ行ってきました。昨年修学旅行で訪れたばかりの長男は、みんなを案内するのだとお手製のガイドブックを片手に大張り切り。私も日光へ行くのはしばらくぶりなので、わくわくしながら出かけました。
神奈川の自宅を出てから4時間程で日光市街に到着し、華厳の滝と中禅寺湖を目指していろは坂にさしかかりました。いろは坂とは、カーブごとに「いろは・・・」の文字が順番に表示されている急坂で、秋には木々の紅葉が美しいことで有名です。
「いろは坂と呼ばれるようになったのは昭和初期で、カーブが48カ所あることから、ロープウェイのガイドがアナウンスで呼んだことが始まりだそうです。」
長男は、得意満面でガイドブックを読み上げます。カーブが近づく度に、小さな看板に記された「い1」、「ろ2」、「は3」の文字を見つけては「い〜〜っ!」「ろ〜〜っ!」、「は〜〜っ!」と絶叫する次男もとても楽しそうです。
紅葉のシーズンには大渋滞で身動きが取れなくなるという道も、新緑のこの時期には車の数も少なく、主人はカーレーサーのように快調にコーナリングを決めていきます。
「あれ、ガイドさん、説明の続きはどうしたの?」
「・・・オレ、ちょっと気持ち悪くなっちゃったよ!」
どうやら右に左にと体を揺さぶられて、車酔いをしてしまったようです。私は、長男の気分を紛らわせようと、こんな話を始めました。
「いろは歌には、全ての仮名文字が使われていて、ちゃんと意味がある歌なのよ。」
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐ(い)のおくやま けふ(きょう)こえて
あさきゆめみし ゑ(え)ひ(い)もせす ん
(色は匂えど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日超えて
浅き夢見じ 酔いもせず)
「香りよく咲き誇っている花も、やがては散ってしまう。この世に生きる私たちも、いつまでも生き続けられるものではない。人生という険しい山道を、今日もまた1つ超えて。はかない夢は見たくないものだ、酔いもせずに。」
「へぇ〜。お母さん、よく知っているね!!」
と、息子たちは目をまんまるくして驚いています。
実は、その昔両親といろは坂を通ったとき、母が教えてくれたことです。「こうやって、家族と一緒にささやかな幸せを感謝して楽しむことが大事と言っている歌なのよ。」と、母がしみじみと話していたことを思い出します。
「でも、お父さんもお母さんも、酔いもせずに、は無理だよねぇ。」
「そうだよね、2人ともお酒大好きだもんね!」
と、くすくす笑う2人の横顔を見ながら、次に息子たちと一緒にここを通るのはいつになるのかなと思いました。
もしかしたら、今度はガールフレンドと、または奥さんや子供と一緒に行くからお母さんはいいよ、と言われるのかもしれません。きっと、当時の母も同じような気持ちでいたのでしょう。
その時が来たら、またいろは歌の話を思い出してくれるといいなと心の中でそっと思いました。
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枝 6 / 節 13 / ID 12450 作者コード:itoyu
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