私は毎週、皆さんから送られてくる作文を添削して返却する際、封筒には特殊切手を貼っています。切手はいつもまとめて何十枚かずつ購入しているのですが、この特殊切手、ほぼ2、3週間に1回の割合で新しいものが発行されていることを知っていましたか? もともと私は、切手収集の趣味はないので、「きれいだなぁ」「使うのがもったいないなぁ」と思いながらも、記念に保存することなく、いつも作文返却用に全部使いきってしまうのですが(笑)、ともかく、毎回様々な行事や文化、そしてアニメなどを題材とした美しい切手を購入して、皆さんへの封筒に貼ることがひとつの楽しみになっています。
一番最近購入したのは、5月23日に発行された「第1回野口英世アフリカ賞記念」の切手です。もちろん、皆さんの手もとにも2、3通は届いていますよね。10枚つづりで購入したこの切手は、野口英世の肖像が5枚とアフリカ地図と顕微鏡の絵に野口英世のサインが書かれているものが5枚という組み合わせでした(切手を貼るとき、きちんとチェックしていないので、皆さんにはどちらか一方のデザインしか届いていないかもしれませんが、あしからず)。そしてどちらのデザインにも料金表示の下に、この切手の名称が小さく印刷されています。
ところが、ふと思いました。「はて、このアフリカ賞ってなんだろう?」 野口英世はたしか黄熱病のワクチンを開発したからアフリカなのでしょうけれど、アフリカ賞って何? 恥ずかしながら、私はこの切手の名称である「野口英世アフリカ賞」の意味がわからなかったのです。これはまずいと思い、さっそくこの賞について調べてみました。
「野口英世アフリカ賞」の正式名称は、「野口英世博士記念アフリカの医学研究・医療活動分野における卓越した業績に対する賞」というのだそうです。アフリカでの感染症などの疾病対策のために活動し、その功績がアフリカに住む人々の保健と福祉の向上に貢献した人に授与される賞で、2006年に創設され、今年5月、横浜で開催された第4回アフリカ開発会議において、第1回の授賞式が行われたということです。
野口英世については、たくさんの著書や伝記が出版されています。学校の図書室にも必ず1冊はありますよね。言葉の森でも小学校高学年向けですが、推薦図書として「人間 野口英世」(秋元寿恵夫著 偕成社文庫)を紹介しています。世界的に偉大な医者であり、細菌学者であった野口英世は1876年、福島県の現在の猪苗代町に生まれました。1歳の時、いろりに落ちて左手にやけどを負い、その後15歳で左手の大手術をうけたことをきっかけに医学の道を志すことになります。20歳の若さで医師の資格を取り、その後細菌学の研究に取り組むのですが、その活躍の場は中国、アメリカ、ヨーロッパ、南米と世界に渡りました。そして梅毒や黄熱病の研究によって、多くの人々の命を救うことになったのです。しかし1928年、黄熱病の研究のためにおもむいた西アフリカのガーナにおいて、自ら黄熱病に感染し、研究半ばで51年の生涯を閉じました。
今年は、ちょうど野口博士の没後80年にあたります。アフリカでは今もHIV/エイズ、マラリア、結核、ポリオなどの感染症がまん延しており、多くの人が亡くなったり苦しんでいます。HIVについては、毎日8800人が感染し、6600人の感染者が死亡しているとも言われるそうです。これはとてもショッキングなことです。日本で平和に暮らしている私達にとっては想像を絶するものですが、アフリカではこうした感染症の他にも、戦争やかんばつなどの被害により、人々の生活は日々脅かされているのです。こうした現状をふまえて、アフリカにおいてもその功績が称えられている野口博士を記念した賞が、アフリカの人々に希望をもたらし、人類の繁栄と世界の平和に貢献することを目指して創設されたわけです。
世界では、時々刻々と様々なことが起きています。まずは、こうした事実を私たちはしっかりと認識しなければいけないと思います。それについて、自分に何ができるのか、何をすべきなのかは、すぐに答えが出ないかもしれませんが、「知る」ということなら、今すぐにでもできることはたくさんありますよね。きっかけはどこにでもあります。私の場合、今回は切手でした。そんな身近なものでも、これまで知らなかった大きな世界を知るきっかけになるのです。ささいなことでも、ふと疑問に思ったり、気になったりしたら、ぜひ皆さんも調べてみてください。心にひっかかった好奇心のかけらを見過ごさないで下さいね。
参考資料:政府インターネットテレビ22ch「野口英世アフリカ賞〜ドゥ!JAPAN」(2008年2月12日)
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枝 6 / 節 15 / ID 12546 作者コード:naruko
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