先日,都内某私立大学で開催された【1968――肉体の反乱とその時代】というアート・アーカイヴ資料展に接する機会をもちました。といっても私は,お客さんとして赴いたわけでもなく芸術の「げ」の字もよく理解していないわけですが,ひょんなことから監視員として連日展示会で睨みをきかせる(フリをして舟を漕ぐ)ことになったのです。一方この催し自体はこじんまりとしたものでお客さんで溢れかえるなんてことはありませんでしたので,私自身も折りにふれて席を立って(なんのこっちゃ分からないままですが)展示に見入っていました。
この展示会の目玉となったのは,【土方 巽】(ひじかた たつみ / [1928年3月9日 - 1986年1月21日] / 舞踏家・振付家 / 暗黒舞踏という新しい舞踊形式を確立した人物 / ジャンルを超えて様々な芸術家たちに影響を与えた…【ウィキペディア】より抜粋。)に関連する資料群の公開でした。なかでも,土方氏が1968年に発表した【肉体の反乱】と題する舞台の模様を記録したフィルムの映写は,来訪者の目を釘付けにしていました。
次にみなさんが興味をひかれるのは,この【肉体の反乱】が一体どのような作品であるのかということですね。しかしながら,冒頭でも申し上げたとおり作品の概要を噛み砕いてお伝えできるような教養は私にはございません。ただし,とにかく不思議な空間で異様な踊りが繰り広げられていたのは確かです。人によっては「奇をてらっている」という見方もできるかもしれませんし,一方で私は「なんかけったいな動きしとるなぁ。せやけど見てて飽きへんなぁ」とニヤニヤしていた次第です。
したがって,芸術で心を豊かにすることができないのが私です。しかし,連日同じ映像を繰り返し見ていると閃いたことがあったのです。それは,土方作品を展示会のタイトルにもある「1968」年の目線で見たらどうなるんだろう,という考えです。つまり,現在ではなく,当時の時代のコンテクスト(背景)において彼の作品がどのような意義をもっていたのかを問題とすることです。この学級新聞を読んでくれている生徒さんは,学校の先生やおじいさん・おばあさんに聞けば当時の状況を知ることができるでしょう。実際のところ世界的にも,また国内的にも重大な事件が政治・経済・社会の各領域で相次いで起こり,とくに若い世代の人びとは,現状を打破するために今までにない新しい価値観を生み出そうとしたのが1968年前後だったのです。このような目線で土方作品を捉えなおすと,彼のとにかく力強くて激しい動きが「ストン」と理解できるものになりました。また,フィルムの映写の際には「新世界(ド・ヴォルザーク)」が流されていましたが,加えて土方氏自身もこの曲を好んで用いたということから,彼自身の舞踏家としての活動の動機をもうかがい知ることができました。
このようにみてくると,読書でも同じことがいえるのではないでしょうか。例えば,古典とされる名著には,読み解くには難解なものも数知れず存在します。ここで必要とされる読解力には,単なるボキャブラリーだけでなく,それらの言語が生み出された時代背景や社会状況を知っていることが挙げられるでしょう。もちろん必要とされるのは,歴史的知識だけに限られません。日々大量の情報が提供される新聞記事を読むうえでは,現代的な時事問題を敏感に感じていることや,場合によっては個々の専門知識に習熟していることが求められます。したがって,国語力とは勝れて総合性を帯びた学習分野ではなかろうか,というのが私の考えです。
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枝 6 / 節 15 / ID 12775 作者コード:kanera
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