日本語脳というのは、自然の音や感情の動きを、左脳という言語脳で処理する仕組みを持った脳のことです。世界中で、日本人とポリネシア人だけがこの日本語脳を持っているため、日本の文化は世界のどの文化と比べても異質な面を持っています。
ところが、この日本語脳は、遺伝的なものではなく、子供時代に日本語の環境にいたかどうかで決まってくるものであり、その適齢期が6歳から8歳であることがわかってきました。
ここから、日本語脳と暗唱の学習について、いくつかの仮説が考えられます。
まず第一は、6歳以前の学習には意味がないということです。幼児期に英会話を習う人も増えていますが、6歳以前に習得したものは、たとえそれが外国の環境で習得したものであっても、環境が変われば数ヶ月でなくなってしまうようです。日本に住んでいながら、外国語の学習をするとなると、その効果は更に一時的なものになると思います。6歳以前は、勉強という知的なことをするよりも、もっと感覚的、身体的なことを身につける時期なのだと思います。
第二に、日本語脳が形成される6歳から8歳の時期の過ごし方です。この時期は、日本にいる日本人の子供にとっても、暗唱の適齢期のようです。言葉の森でも、暗唱の練習が最もスムーズにできるのが、この小1から小3にかけてです。これは、日本語脳が形成されるという成長の時期と、暗唱の学習がぴったり合っているからだと思います。
今後増えることが予想される外国人移民の子供の教育についても、この6歳から8歳の時期にいかに日本語脳を形成させるかという観点から取り組む必要があると思います。
一方、日本人でありながら、この時期海外で暮らさなければならない子供は、かなり大きなハンディを背負うことになります。6歳から8歳の3年間をたまたま海外で過ごしたために、コオロギの声や風の音を雑音としてしか処理できない感性の持ち主になってしまうからです。
それは、逆に言えば、論理と感情をすっきり使い分ける西欧語脳を身につけることにもなりますが、日本人の親で、自分の子供がそのような西欧的な人間になってほしいと思う人はまずいないと思います。
そこで、私は、日本語脳の形成を助けるのに、暗唱の学習が使えるのではないかと考えています。日本語脳と西欧語脳を分けるものは、日本語に含まれる母音という音声です。6歳から8歳の子供がアメリカで暮らしていれば、学校でも地域でも、友達と話す会話は英語です。その英語の量を上回るほどの日本語を家庭で話すことはまずありません。日本人はもともとおしゃべりではないので、家庭での日本語に接する方法は、主に読書などになると思います。そのため、海外で暮らす日本の子供は、家庭でいくら日本語を使うようにしても西欧語脳になってしまうのです。
これをカバーするためには、母音のある日本語を、英語よりも数多く音声として使うことです。暗唱は、普通の会話よりも短時間で密度の濃い日本語音声との接触の機会になります。また、暗唱は意味を理解して読む必要は特になく、音声だけを自分で言って聞けばいいのですから、6歳から8歳でまだ日本語の読書が不自由な子でも十分に取り組めます。
言葉の森では、今後、アメリカで通学指導を行う予定があるので、早速暗唱の自習がアメリカ在住の子供たちにどれぐらい効果があるのか確かめてみたいと思っています。この実験の結果、6歳から8歳の日本人の子供が、海外にいながら日本語脳を形成することができれば、海外に赴任する同じ年齢の子供たちを持つ親にとって朗報となると思います。
しかし、この実験を行う際、脳の機能をイメージングする機器や技術者が必要になります。ご協力いただける方がいらっしゃいましたら、ご連絡くださるようお願いいたします。
さて、第三に、バイリンガルになるための最適な年齢は何歳かということです。6歳から8歳の日本語脳を形成する時期に日本人が例えばアメリカで英語を身につけてしまうと、西欧語脳のバイリンガルになってしまいます。日本語以外はすべて西欧語脳になるからです。6歳から8歳の時期は確実に日本語脳を形成し、そのあとに英語や他の言語を習得する必要があります。すると、その時期は9歳ないし10歳から、13歳ないし14歳にかけてになると思います。
逆に言うと、海外にいかなくても、日本でもこの時期に集中的に外国語を学ぶことが大事だということです。そして、言語は音声ですから、英語の文章の暗唱などが小学校高学年から中学生の時期にかけて効果があるのではないかということが考えられます。
第四に、では、14歳を過ぎてからの、音声による脳機能の変化はないかということです。塙保己一は18歳で般若心経の暗唱を始めました。本多静六がドイツ語の文献の集中的暗唱をしたのは20歳前後でした。話はかなりさかのぼりますが、空海が虚空蔵求問持法の暗唱を始めたのも20歳前だったと思います。これらを見ると、この時期の集中的な暗唱が脳の機能に影響を及ぼすのではないかということが考えられます。しかし、これはまだ実験データがないので、これからの研究課題にしたいと思います。
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枝 6 / 節 11 / ID 15402 作者コード:
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