上位の学校を狙う子の学力は、どの子も既に備わっているはずですから、入試の合否を決めるのはほぼ百パーセント、入試問題で訓練した力です。そして、そういう訓練力は1年間もあれば大きく成長します。だから、中3のとき学力が上の子よりも、そのとき学力は下でも、高校生になって入試訓練力を伸ばした子の方が、大学入試に勝つことができるのです。
学力と訓練力の差が最も大きいのが数学です。私(森川林)は、上の子が中3のとき、高校入試のための勉強を見てやったことがあります。ところが、そのとき試しに自分で近くの普通の私立高校の数学の入試問題をやってみたところ、ほとんど0点だったのです。それで、1冊の問題集を買って、子供には自学自習で勉強させ、できなかった問題は解法を見て子供自身で理解させ、解法を見てもわからない問題だけ一緒に考えることにしました。
私は、高校時代は公立高校の理系のクラスでした。数学は好きではありませんでしたが苦手ということは全くなかったのです。それが、いくら現役から時間がたっているとはいえ、たかが高校入試問題でほぼ0点とは……(笑)。
しかし、今更じっくりやっている暇はありませんから、とりあえず子供が解法を見ても理解できない問題を一緒に考えることにしました。すると、夏休みの約40日間、1日に1題か2題そういう難問の解法を見ているうちに、入試問題のパターンが頭の中に入ってきました。そして、やがてどんな問題を見ても解き方の見当がつくようになったのです。子供も、もちろん夏休みの間に数学が得意科目になりました。
今考えると、それは数学の学力がついたのではなく、数学の入試問題の訓練力がついたのだということです。学力はもともとそれほど変化はしません。しかし、訓練力に関しては、わずかの期間に大きく上昇するのです。
高校入試の数学の得点力は、わずか1か月ほどで大きく変化します。だから、中学生時代のうちは、学力と訓練力の差はそれほどはっきりしません。そのため、秋田の子は、中3になっても学力は東京の子よりも高いのです。
しかし、大学入試では、訓練力の上昇には、もっと長期間かかるようになり、次第に学力と訓練力は、かけ離れたものになっていきます。これを裏づけるのが、知能テストの成績と数学の成績の相関です。
▽学年ごとの知能テスト(言語因子)と数学の成績の相関(倉石精一郎京都大学教授の調査による)
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┃小4┃0.76┃
┣━━╋━━┫
┃小6┃0.66┃
┣━━╋━━┫
┃中1┃0.82┃
┣━━╋━━┫
┃中3┃0.55┃
┣━━╋━━┫
┃高2┃0.03┃
┗━━┻━━┛ つまり、小中学生のころは、知能テストの成績のいい子は、算数・数学もよくできます。しかし、高校生になると、知能テストと数学の成績の関連はほぼなくなってしまいます。(相関が0.03というのは無関係というのとほぼ同じです)
国語や理科の教科では、大学入試と知能テストの成績は比較的高い相関があります。しかし、数学に関しては、知能テストと入試の成績は、全く関係がないと言ってもいいほどです。数学に次いで、知能テストと入試の成績の関係が薄いのが英語です。そして、入試では、数学と英語の得点力が合否に大きく影響します。
つまり、ここから言えることは、小学校、中学校と学力の高かった秋田の子は、高校に入ってからも学力は高いだろうということです。しかし、首都圏の学力の高い子が、高校に入ってから入試の訓練力をつけていくのに対して、秋田の子は入試の訓練力というものをあまりつけない高校生活を送っているのだと思います。これが、入試の結果の差になって現れてきます。
だから、小中学校のころ日本一だった秋田の子の学力が低下したわけではありません。入試訓練力を新たにつける機会が少ないだけなのです。
このように考えると、子供たちの勉強の理想の姿がわかってきます。それは、大きく四つの段階に分けられます。
第一は、基礎技能を身につける時期です。数学で言えば計算練習です。
第二は、学力を身につける時期です。数学の例を続けると、教科書の単元を積み重ねていく時期です。
第三は、入試訓練力を身につける時期です。教科書を超えた入試問題を解く訓練をしていく時期です。
そして、第四は、創造的な研究をしていく時期です。これは、入試の訓練のように答えのあるものを早く見つける学習ではありません。自分の力で新しい問題を発見する学習です。
大事なことは、それぞれの段階は、前の段階の延長にはないということです。四つの段階は、質的に異なったものなのです。つまり、計算練習がいくら速く正確になっても、それで自然に学力がつくわけではありません。また、教科書の進度がいくら進んでも、それで入試が突破できるわけではありません。また、入試の成績がいくらよくても、それでその分野の独創性のある研究者になれるわけではありません。
勉強というものは、それぞれが前の段階を前提にしていながら、それでいて質的に異なるものだと自覚して進めていくことが大切なのです。
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枝 6 / 節 10 / ID 17796 作者コード:
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