授業の渚 wa-06-4


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ワ 森リンの点数アップ「接続語を使う」

 森リンの得点で、思考語彙という点数があります。
 これは、作文の中で、どれだけ考えて書いているかということを示すものです。
 作文のジャンルによっては、考える言葉をあまり使う必要のないものがあります。例えば、「遠足に行ったこと」というような生活作文のテーマで書くときは、事実の描写が中心になりますから、考える言葉はあまり出てきません。「私の家族」というような説明文では、事実の描写と説明が半々に出てきます。「あだなはよいか悪いか」というような意見文では、事実の描写が減って、説明や意見が多くなります。更に、「需要と供給の関係における技術革新の意義」などというテーマになると、説明と意見がほとんどを占めるようになります。
 ちなみに、話は脱線しますが、「需要と供給の関係における技術革新の意義」とは、次のようなことです。世の中の多くの出来事は需要と供給の関係で静的に決まっているように見えます。つまり、需要が多くなれば物の値段があがることで、供給が盛んになるとともに需要が抑えられ、需要と供給は均衡するということです。この現象だけを見ていると、人間の行動は需要と供給というグラフの上をただ移動することしかできないように見えます。例えば、原油が枯渇してくると供給が減るので、ガソリンの値段が上がります。すると、車で出かけるというガソリンの需要が減ってくるので、相対的に供給が増える形になり、ガソリンの値段がやや下がります。このようにして供給と需要の均衡したところにガソリンの価格は落ち着きます。これが通常の価格です。ところで、ガソリンスタンドでは、その通常の価格よりも値段を下げると、そのスタンドでガソリンを入れる人が多くなるので利益が出ます。しかし、ある程度以上値段を下げると、原価との差が少なくなるのでかえって利益が出なくなります。逆に、通常の価格よりも値段を上げると、上げた分だけ利益が出ます。しかし、上げすぎるとそのスタンドでガソリンを入れる人が少なくなるので利益は逆に出なくなります。こうして、需要と供給の均衡したところで、そのスタンドのガソリンの価格は落ち着きます。これが需要と供給の関係です。
 しかし、ここでもし、ガソリンとは全く別の新しいエネルギー源が開発されたとしたらどうなるでしょう。それまでの需要と供給のグラフの均衡はすべて取り払われて、新しいエネルギー源のもとでのグラフが描かれるようになります。小さな目で見ると、世の中は需要と供給のグラフで動いているように見えますが、大きな歴史の目で見てみると、世の中は技術革新で動いているのです。
 さて、以上のような話になると、事実を描写する言葉はほとんど出てきません。無理に書こうとするば、「さあ、天気がいいからドライブに行こうか、とお父さんが言いました。しかし、ガソリンの値段が上がっているそうなのでちょっと心配です。お父さんは、車のエンジンを入れました。ブルルル。ぼくたちは出発しました。」などという無駄の多いことを書かなければなりません。身近なテーマでは、思考語彙が少なくても書けますが、抽象的なテーマになると、思考語彙は自然に多くなってくるのです。
 ということは、逆に言うと、事実文や身近な説明文、身近な意見文であっても、切り口によってはいくらでも思考語彙を増やして書けるということです。例えば、「遠足に行ったこと」という事実文であっても、高校生であれば、思考語彙を盛り込んで書くことができます。
 「僕たちは動物園に行きました。最初に見たのはペンギンです。ペンギンは、南半球に生息する鳥類で、海中での生活に適応するために独特の体型を持つようになりました。僕は、ペンギンの泳ぎを見ながら、なぜペンギンが海中での生活を選択するようになったのかを考えてみました。動機は二つの方向から考えられます。ひとつは、空中での生活がしにくくなったこと、もうひとつは、海中での生活がしやすくなったことです。ペンギンが鳥類であることを考えると、もともとは空中を飛び、現在の海鳥のように魚をつかまえて暮らしていたと思われます。」
 この調子で書いていくと、事実文でありながら考える語彙の多い文章になっていきます。
 さて、もっと簡単に、思考語彙をどう増やすかというコツを二つ説明しましょう。
 第一は、文の頭に、考える接続語を使うことです。「しかし、例えば、なぜなら、すなわち、つまり、言い換えれば、したがって」などという言葉は、文頭の考える接続語です。文頭の考えない接続語とは、「そして、それから、それで……」などです。
 第二は、文の途中に、考える接続語を使うということです。「……なので、……であれば、……の場合、……であると、……ならば、……のために」などという言葉が、文中の考える接続語です。文中の考えない接続語とは、「……して、……が、……で」などです。
 考えない接続語でつないだ文はこんな形になります。「僕は、ペンギンを見て、それから、キリンを見て、そして、ゾウさんを見て、お弁当を食べて、みんなで遊んで、それで、楽しく帰りました。」
 高校生で、もうこのような文章を書く人は少ないと思いますが、よくあるのが、事実や感想をただ並べるだけの書き方です。
 実例を豊かに書く一方で、実例だけにならないように、説明や意見などの考える言葉を入れて書いていきましょう。