元の記事:夏休みの体験学習の仕方 (5538字)
森川林(nane)
2013/06/13 17:35:49 6221 13
1、希望者は結構多いはずですが、「宿題をここで済ませられればいいや」という安易な気持ちで来る人が多いと思います。
だから、その後の受講には結びつきにくいです。。
ただし、公立中高一貫校の作文入試を考えているような人は、継続すると思います。
2、感想文を指導によって無理なく書けるのは、小3のよくできる子ぐらいからです。
小1や小2では、感想文はまず書けないと思います。
だから、小2以下は、感想文ではなく作文で指導していくといいと思います。
3、小3~小4の感想文指導のもとになる教材は、物語文がいいです。
例えば、こんな文章。(下記参照。ワードなどに貼り付けて利用してください)
4、2日間でやるとして、
(1)1日目は、書き方の説明。
家で似た例を考え、お母さんやお父さんに取材してくるように言う。
桃太郎の見本などを使うといいと思います。
https://www.mori7.com/as/1314.html
(2)2日目は、実際に書かせる。(時間制限をして、書ききれない分は自宅で書くように言うとよい)
(3)書き終えた作文は、その場でじっくり見ることはできないので、きれいなシールか何かを貼って、ざっと読んで返却するぐらい。
そのかわり、デジカメで作文を撮っておく。
(4)あとで、デジカメに撮った作文を見ながら、保護者に電話で講評を説明する。(だから、募集のときに電話番号を聞き、講評は電話で入れる旨了解を取っておくといいです)
★(感)うちがまわるはなし
【1】やれやれ、と、ほっとした母は一どにつかれがでたのでしょう。その日は朝から、おきてきませんでした。
「きょう一日、休ましてもらうべえ。あしたっからは、また正月のしたくにかからねえばなんねえから――。」
と、いいわけでもするように、ふとんの中でいっていました。
【2】父とあには、どこかへでかけていたのでしょうか。家には、母とわたしのふたりだけしかいませんでした。
ひるちかくになったら、ねどこの中から、母がわたしをよびました。
「あついにこみうどんがくいてえが、ひろにできべえかなあ。」
やってみてくれやい、というようにいったのです。
【3】「ああ、おらが、うんまくつくってやるよ。」
わたしは、はずんでこたえました。
いままででも、手つだいなら、よくしていました。それでも、じぶんだけでなにかをつくってみたことは、まだ一どもありません。【4】わたしは、きゅうにおねえさんにでもなれたような気がして、うれしくなっていました。
戸だなの中には、母がゆうべつくった、うどんの玉がいくつかのこっていました。おつゆをこしらえて、にるだけでいいわけです。
【5】「かつぶしをかくのは、あぶねえから、けずりぶしでいいぜ。たんといれてなあ、うんまくつくってくれやい。」
母は、ねたままでさしずをしました。
「だまっていてもいいよ。つくりかた、しってるもん。」
わたしは、おしえてもらいたくなかったのです。【6】じぶんだけでやって、「できたよー」と、いってみたかったからです。
いちばん小さいなべに、水をいれると、じざいかぎにかけて、いろりの火をかきたてました。
だしはうまくとれたのです。いよいよあじつけです。【7】ながしだいの下に、ぶどうしゅのあきびんにつめたおしょうゆが、三本ならんでいました。いちばんてまえのレッテルのあたらしいびんが、つかいかけのようです。それをもってきて、おたまに一つだけ、いれてみました。
【8】そして、小ざらにとって、あじをみました。まだまだ、うすくてちっともきいていません。
こんどは、二ついれました。からくしすぎたかな――。しんぱいしながら、またあじをみました。まだ、だめです。
おかしいなあ……。【9】でも、おたまの中へでてくるいろは、たしかに、おしょうゆです。
ことしは、できがわるかったのかなあー。そうおもいながら、またおしょうゆをたしました。それから、あじをみました。∵
なんかいあじをみたでしょう。【0】あじをみながら、四合びんに、はんぶんいじょうもあったおしょうゆを、みんないれてしまったのです。
おつゆは、だんだん、きみょうなあじになっていきました。そしてわたしは、なんだか、からだがだるくなってきたのです。頭がおもいような、ねむいような、おかしな気ぶんになってきました。
いったい、このおつゆは、どうなってしまったのでしょう。しんぱいになってきました。
そのとき、
「どうだ、できそうか。」
と、おかあさんが、声をかけてきました。台所があんまりしずかなので、だまっていられなくなったのでしょう。
「ことしのおしょうゆは、おかしいよ。いくらいれたって、いっこうしょっぱくならねえだもの。」
もう、しかたなしに、わたしはからっぽになったびんをもって、見せにいこうとしました。
たちあがると、なんだか、目がまわって、よろよろしました。
「ああ、うちがまわる。」
わたしは、ざしきの入り口で、うずくまりました。おどろいた母が、とびおきてきました。
それから、気がついたときは、母のふとんの中で、目をさましていました。
おしょうゆとおもいこんだ、あたらしいレッテルのそのびんだけは、まだほんもののぶどうしゅがはいっていたのだというのです。
『はずかしかったものがたり』「うちがまわるはなし」(宮川ひろ)より
★(感)かなしいゆびわ
【1】わたしが一年生になったばかりのころのはなしです。そのころの小学校のつくえには、ひきだしがついていました。ふでいれかなにかをいれるための、はばが十センチもないような小さなひきだしです。【2】とってのかわりに小さなあながあいていて、そこへゆびをとおしてひきだすようになっていました。
ある日、わたしは先生のはなしをききながら、そのひきだしをだしたり、いれたりしてあそんでいました。
ところが、たいへんなことになってしまったのです。【3】というのは、右手の人さしゆびがひきだしのあなにはまったまま、ぬけなくなってしまったのです。
ゆびはつけねまであなにはいってしまって、いくらぬこうとしても、かんせつがじゃまをして、どうにもなりません。
【4】わたしはあわてました。もう先生のはなしをきくどころではありません。ひきだしにいれてあったものを、ぜんぶつくえの上にとりだし、ひきだしをつくえからひっぱりだすと、ひざとひざにはさんで、ゆびをひきぬこうとしました。【5】でも、だめでした。むりにひっぱろうものなら、ゆびがもぎとれそうなほどいたいのです。
ひきだしをまわしながら、だましだまし、ひきぬこうとしましたが、それもだめでした。ゆびは赤くふくれあがり、びくともうごかないのです。【6】まるでスッポンにかみつかれたみたいです。ひきだしのあなは、わたしのゆびにしっかりくいついて、もうぜったいにはなすまいとしているようです。そんなふうにひきだしとかくとうしているわたしを、先生が見つけないわけがありません。
【7】「長崎、なにをしてるんだ。」
はなの下にりっぱなひげをたくわえた、中年の先生でした。
先生は、きょうだんからおりてくると、わたしのそばへやってきました。
わたしはなきべそをかいて、下をむいてしまいました。【8】先生は、わたしの手くびをつかむと、ぐいともちあげました。わたしのかわいそうな人さしゆびは、ほそ長い小ひきだしをつるさげたまま、組じゅうの目にさらされたのです。
「なんだ、こりゃあ。」
先生はあきれました。みんなはどっとわらいました。【9】わたしは、はずかしさにほおをまっかにして、小さな声でいいました。
「ぬけなくなっちゃったんです。」
「じゅぎょう中にいたずらしてるから、こんなことになるんだ。ばかっ。」
先生はにやにやしながら、わたしのおでこをこづきました。
【0】わたしの目にあふれていたなみだが、つーっとほおをながれお∵ちました。
先生は、ひきだしをひっぱって、ぬこうとしました。だが、そうかんたんにぬけるはずがありません。
そこで、先生はりょう手でひきだしをつかみ、
「いいか、ちょっとがまんせい。」
といって、おもいっきり、ぐんとひっぱりました。ところが、いたいのなんのって、とてもがまんなんかできません。
「いたたた……。」
わたしはなきさけびながら、先生のほうへかけだしてしまいました。
組の友だちは、たちあがったり、のびあがったりしながら見ていましたが、げらげらわらいました。
「しょうのないやつだ。」
先生はしたうちすると、せいとたちに、
「みんな、すこしのあいだ、しずかに本を見ておれ。いいな。」
といって、わたしをうながしてきょうしつをでました。わたしは、組の友だちのあざわらう声をせにしながら、先生のあとについていきました。
じゅぎょう時間ちゅうのろうかは、しーんとしずまりかえっていました。その長いろうかを、わたしはなきじゃくりながらあるいていきました。ひきだしをつるさげている人さしゆびが、やけつくようにあつく、ずっきん、ずっきんとみゃくうっていました。
『はずかしかったものがたり』「かなしいゆびわ」(長崎源之助)より
★わたくしのおにんぎょう(感)
【1】それは、「わたくしのおにんぎょう」というだいで、いまもおぼえていますが、こんないみのことを書いたのです。
「わたくしのおにんぎょうは、いつか、るすをしたごほうびに、おかあさんから、かっていただいたのです。【2】きれいなフランスにんぎょうで、赤いぴかぴかしたようふくをきています。きせかえあそびもできるのです。あんまりかわいいので、ときどき、だいてねることもあります。
わたくしは、このおにんぎょうがだいすきです。【3】これからも、いつまでもだいじに、かわいがってやろうとおもっています。」
じぶんでも、はじめにしては、わりとじょうずにかけたとおもいました。じっさい、あとでかえしてもらったのを見ると、大きな三じゅうまるがついていたのです。【4】そのときからずっと、つづりかたは、わたしのいちばんとくいな科目になったのでした。
さて、はじめてつづりかたを書いた日から、なん年かたったある日のこと。【5】うちへ友だちがあそびにきたので、トランプかなにかをさがして、つくえのおくをかきまわしていたら、だいじにしまっておいた、このふるいつづりかたが、でてきたのです。友だちは、おもしろがって、それをよみました。
【6】「へーえ、いいにんぎょうがあったんだね。このにんぎょう、いまもあるの?」
「うーん、あるような、ないような……。」
「なによ、あるような、ないようなって……。あるの、ないの、どっち?」
【7】やれやれ、どうも、このへんで、はくじょうしなくてはならないようです。
「えヘヘ。じつは、それ、うそなの。」
「うそ? あらやだ。あんたったら、はじめてのつづりかただっていうのに、うそを書いたの?」
【8】「うーん、まるっきり、うそでもないよ。あのねえ……。」
わたしは、おもちゃばこのすみっこにおしこんであった、おんぼろの、小さなにんぎょうをとりだしました。
「ほら、これ。」
「これ? こんなちっぽけなの? これがフランスにんぎょう?」
【9】「しらない。だけど、まあ、スカートがぱっとひろがってるから、フランスにんぎょうにしとくの。」
「ふうん。ええと、赤いようふく……は、たしかに、きてるわね。だいぶ、いろがさめてるけど。」
「ほらね、まるっきり、うそでもないでしょ。」
【0】「まあね。だけど、きせかえもできるって書いてあるわ。きせかえなんて、できそうもないじゃない。」∵
わたしは、だまって、にんぎょうのかぶっている大きなぼうしをスポッとぬがせました。ぼうしといっしょに、金いろの、カールしたかみの毛も、みんなスポッととれて、つるつるのぼうず頭があらわれました。
「あーら、やだあ。これで、きせかえのつもり?」
「そう。ほかのぼうしをかぶせれば、きせかえって、いえないこともないでしょ。」
「あきれた、あきれた。こんなの、だいてねてたの?」
「まさか。こんなの、ごつごつしてつめたいばっかしじゃないの。だいてねたのは、こっち。」
わたしは、おもちゃばこから、もう一つ、手のもげた、ぬいぐるみのだきにんぎょうをだして見せました。
「なあんだ。二つのにんぎょうを一つのことにしちゃったんだね。じゃあ、るすばんのごほうびにもらったのは、どっちなの?」
「あれ、うそ。だいいち、そんな小さいときに、ごほうびをもらうほど、長いるすばんなんて、したことないもん。」
わたしがけろっとしていったので、友だちは、あきれかえった顔になり、それから、ふたりいっしょに、わっとわらいだしてしまいました。
と、いうわけで、わたしのはじめてのつづりかたは、ほんとは、大うそだったんです。どうして、あんなうそを書いたのか、じぶんでもわかりません。
でも、ふしぎでした。うそをつくのはわるいことだとしっていたのに、つづりかたにうそを書いたことは、ちっともわるいとおもわなかったのです。もしかしたら、わたしは、つづりかたと、おはなしをつくることとを、ごっちゃにしていたのかもしれません。それからあとも、はなしをおもしろくするためなら、人にめいわくをかけないていどで、ちょいちょい、つづりかたにうそをまぜていたのですから。
そんなら、このはなしも、うそじゃないのかって?
いえいえ、そんなことありません。これは、ほんとにほんとのはなし。わすれられない、はじめてのつづりかたのおもいでです。
「ほらふきうそつきものがたり」(椋鳩十(むくはとじゅう)編 フォア文庫より)