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「それでは、これから劇『浦島太郎』をはじめます。」 |
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ナレーターの声によって、観客は静まりかえった。ナレーターが続けた。 |
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「昔々、ここは浦の島。ことの始まりは、竜宮城のカメが・・・」 |
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ナレーターの台詞と同時に、一匹のカメがのそのそと出てきた。そして、そのカメが海に飛び込み、泳いでいった・・・わけはない。 |
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十二月二日、土曜日。学校で、お祭りをやっている。お祭りと言っても、文化祭のようなもので、各クラスがそれぞれ、いろいろと出店している。僕のク |
ラス、六年一組の出し物はステージ発表で、劇「浦島太郎」だ。今まで、どのクラスも地道に準備を進めてきた。六年一組は、九月に行われた、ミュージカ |
ル発表会でやった浦島太郎をもとにして、この日まで準備をしてきた。九月のミュージカルは、なかなか好評だったが、そこにふれあいというテーマを加え |
た。一応、僕は主役だった。浦島太郎の役をやった。緊張しながらも、何とか劇の前半をおえた。劇の中盤、浦島太郎がもてなされているとき、みんなでパ |
ラパラを踊ることになっていた。しかし、ハプニングが起こった。CDがかからなくなってしまったのだ。その時、僕の緊張は頂点に達した。僕はどうしよ |
うかと思ったが、浦島太郎を、待つことの嫌いな性格にした。そして、それを理由にパラパラを後回しにした。僕はとても緊張していたが、いい考えが浮か |
んだので、人間、いざ緊張して追いつめられると、いい考えが浮かぶんだなと思った。 |
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その後、お祭りの、出し物が良かったクラスにメッセ—ジを書くことになった。ハプニングがあり、少しぎこちない演技をしてしまった六年一組は、メッ |
セージカードが少ないのではないかと思ったが、以外にカードの量は多かった。中には、こう書かれていたものまであった。「劇の途中で、CDがかからな |
くなってしまったけれど、アドリブの演技が上手くて、わざとCDをかからなくしたのかと思いました。」こう書いてあり、ピンチを切り抜けた僕は、とて |
もうれしく思った。 |
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「火事場の馬鹿力」という言葉があるが、それはもっともだと思った。何故なら、緊張して後がなくなったときに人間は、すごい力を発揮するということ |
が今回の劇で分かったからだ。人間にとって、程よい緊張とは、能力を出すために、ある程度必要なものだ。・・・お祭りが終わり、何日もたった今でも、 |
劇の終わったときの拍手の音は、僕の耳に残っている。 |
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