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一つの集団は
アジサイの広場
武照あよ高2
 動物園のチンパンジーは固体数が増え過ぎるとどうするか。ここに興味深い
報告がある。まず力の強い固体のまわりに数匹が集まり小集団を作る。その小
集団は暗くなる頃を見計らって毎晩「いじめ」をするようになる。ひどい場合
体に数匹がのって足踏みするので死んでしまうこともあるという。そして数匹
の犠牲者が出たあとまた何も無かったかのようにチンパンジー達は平和に過ご
しはじめる。このような「いじめ」はペンギンや家畜のニワトリでも知られて
いる。
 
 「高等な」人間の社会にはこのような事例は当てはまらないと考える人もい
るかもしれないがそんな事はない。人間の社会もまた少数の「裏切り者」を想
定し、少数の犠牲者を出すことによって成り立っているのである。近頃話題に
なっているダイオキシンであるが、ニュースステーションで久米宏が発表した
内容に不備があったとして週刊誌等で徹底的に非難されていたことを覚えてい
る人も多いであろう。実際のところ久米宏は与えられた情報を発表したに過ぎ
ない。ダイオキシン問題を足がかりとして一人の「裏切り者」が生み出された
良い例であろう。この事が正しいかどうか判断を下すのは個人の自由だが、社
会はこの「裏切り者」を作り出す事によって結束しているという事は認めねば
ならない。この「裏切り者」をいかに無害に作り出すかがその社会の課題とな
るであろう。
 
 その一つの方法として「替え玉」を作る事がある。社員が不正を犯して捕ま
った場合や、教員が問題を起こした場合など、公に対してはその問題とは直接
関係の無い社長や校長が謝ることが多い。この「替え玉」を作る事によってそ
れを見るものに「裏切り者」を想定させ、非難を巧みにそらせているのである
。以前「にくい上司の呪い方教えます」という怪しい本を見た事があるのだが
、頭の中に「替え玉」を想定する事によって「裏切り者」を作り出している良
い例であろう。現代ともなって占いが流行っているのは、意外とそれが犠牲者
を出さずに「裏切り者」を作り出す知恵だからかもしれない。
 
 現代の社会ではそれだけでなくヴァーチャルな世界に「裏切り者」を想定す
る事が行われているように思われる。新聞を見ていると思うのだが社会問題は
多くの場合作り出された物であるということである。一時少年犯罪が社会問題
として取り上げられた。しかし冷静になって考えればそんなに短期間で人間が
凶悪化するであろうか。案の定というべきかその後発表された数値によればそ
の年の少年犯罪は戦後四番目に少ない年であった。自殺の多発や学級崩壊など
三ヶ月程度で消えていく「社会問題」というものはヴァーチャルな世界に作り
出された「裏切り者」の一つなのであろう。
 
 「敵の敵は味方」という言葉が示すように、社会には「裏切り者」を想定す
ることによって共同体が維持されている事は事実である。そこで「裏切り者」
をいかに作らないかではなく、いかに犠牲者を出さずに「裏切り者」を作り出
すかがその社会の質を決定するであろう。そしてまた、我々の社会はまだチン
パンジーの社会を程度の問題はあるにしろ完全には脱していないことは心に留
めておかねばならないように思われる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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