一つの集団は |
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一つの集団は |
□ 磯野久美子 |
一つの集団は、一人の裏切り者と、一人の犠牲者を生み出す事によって完成 |
される。キリストとユダの伝説は、奇妙な関係の中に十三人がいた中で、ユダ |
が裏切者として発明されることによって、キリストが発明された、つまり裏切 |
り者を生み出すことによって集団の中で対人関係が論理的に構成されることに |
なった、という良い例である。裏切り者が生まれることによって初めて、集団 |
は不安定な心情や状況を緊張しあう安定なものに自己完結することができるの |
だ。 |
このようなことは日常生活で知らないうちによく起こっていることである。 |
例えば、おばさんのおしゃべりな集団などは、その仲の良い人の中の誰かの悪 |
口を言うことで、同じ意見を持ち、ますます楽しくおしゃべりを続けるもので |
ある。別にその人が特に何か悪いことをしたというわけでもないのだが、ある |
人を裏切り者、つまり相手との間で、同じ位置を占めるものとしての役割を与 |
える事で、安心感を持たせるのである。いじめなども、このような心理から生 |
まれるに違いない。 |
このようなメカニズムは、人間の、生き物としての習性にも関係している。 |
人間も、元は今普通に自然の中でで生活している生き物と同じように、野生だ |
ったわけであるが、その時の習性として、平和すぎる時期があると、意識的に |
、絶対安全であると同時に、ある程度の危険を伴うような状況に身を置きたが |
る、という説があるのである。安全は確保しておきながらも、危険な経験をす |
ることで、平和ぼけした、生きる上では不安定といえる自分を、安定な状態に |
戻すのである。その例が、今はやっているホラー映画や、みんながよく行く遊 |
園地のジェットコースターなどである。ここでは、言ってみればこの「恐怖を |
体験している時」が平和な自分に対しての「裏切り者」というわけである。 |
このように、人間はすべてが同じ、という状態を嫌い、意識的に裏切り者を |
作って自分を安定した状態にしようとするのだが、この裏切り者は、決して集 |
団や自分より強いものではあり得ない。これは当然のことであるが、このこと |
を考えると、「裏切り者」にされたのが「人」だった場合、この人にとっては |
たまらないことである。例えばさっきも例に挙げたいじめなどは、いじめる側 |
にとっては集団の中での自分の地位は安定するかもしれないが、いじめられる |
人の人権を全く無視したものである。私の意見では、どんな場合でも人が意識 |
的に裏切り者に仕立て上げられるようなことがあってはならないと思う。裏切 |
り者の存在によってしか成立しないような団結などは、真の団結ではないので |
はないか。「自国に対する賞賛が他国に対する軽蔑によって支えられているの |
であってはならない」という有名な言葉もあるように、団結という美しいはず |
のものが、裏切り者を作るという汚い行為によって成り立っているのであって |
はならないと思う。そして、私は自分の経験上、背後に裏切り者のいない、こ |
の美しい団結というものが存在すると信じているのだ。 |