ログイン ログアウト 登録
 吉田松陰「留魂録」を伝えた信頼関係 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 1161番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/12/4
吉田松陰「留魂録」を伝えた信頼関係 as/1161.html
森川林 2011/02/05 12:21 


 吉田松陰の「留魂録」は、松陰が処刑される前日に、門下生に向けて書いた約5000字ほどの手紙のような書です。半紙を四つ折りにして十九面に細書きしてコヨリでとじて冊子にしてあります。

 この書の初めに、松陰の和歌が書かれています。「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留置(とどめおか)まし大和魂」。

 この書は、内容ももちろん心を打ちますが、私はそれ以上に、これを十数年も守り続けた囚人沼崎吉五郎(ぬまざききちごろう)の生き方に感銘を受けました。

 松陰と同じ獄舎にいた牢名主の沼崎は、処刑の前日、松陰に次のように頼まれます。「自分は、(この書を)別に一本郷里に送るが、無事に届くかどうか危ぶまれる。そこで、(あなたが)出獄したらこの書を長州人に渡してもらいたい」と。

 松陰の「留魂録」は、門下生らによって郷里の萩に送られ、ひそかに回覧されますが、やがて所在が不明になってしまいます。

 もう一本の書を預けられた沼崎は、その後三宅島に流されます。十数年後、幕府が倒れ、沼崎は流人の身から解放され本土に戻ることができましたが、既に老人になっていました。

 神奈川県の権令(ごんれい)という役職にいた野村靖という松陰の門下生のところに、沼崎が突然訪れたのは、松陰の処刑から十七年もたったころでした。

 沼崎は、野村に、「貴殿が長州人と聞いたので」と、変色した「留魂録」を渡すと、そのまま静かに去っていきました。



 私は、ここに、目先の損得や欧米流の合理主義とは異なる、人間どうしの義を重んじる生き方の強さを感じました。

 日本は、今、不況に沈み、格差は拡大しています。子供たちの教育も、果たして確実に行われているのかどうか不安が残ります。

 しかし、日本が今後復活するための最も確実な土台は、経済力よりも、学力よりも、何よりも国民一人ひとりが、相手の信頼に応えるという、この義の精神を失わないことだと思いました。



 では、なぜ、「経済力よりも」なのかというと、経済力は今後の工夫次第で必ず発展させることができるからです。それも、中国依存や移民拡大というような方向ではなく、日本独自の工夫で内需の拡大ができるようになるはずです。

 また、なぜ、「学力よりも」なのかというと、学力は、よりよい社会を作るための必要条件ではないからです。もちろん、将来の日本は学力の大国にしていかなければなりません。それは未来の子供たちの教育にかかっています。しかし、今の若者たちの学力に不安があるとしても、学力の不足は信頼感さえあれば補うことができます。

 「葉隠」の中で、山本常朝は、人間に必要なものとして「勇・知・仁」の三つを挙げ、「知」とは、「人に相談することだ」と述べています。社会の中に信頼感さえあれば、学力の不足は克服できるのです。

 日本の社会の治安のよさは、先進国の中では群を抜いています。タクシーの中に置き忘れた財布が、無事に持ち主のところに戻るだろうとほとんどの人が思っている国は日本だけです。

 私たち大人の役割は、この信頼感を確実に守り、その土台の上に、新しい経済力と学力の花開く国を作っていくことだと思います。





同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
未分類(378) 

コメント欄

mino阿弥 2012年9月12日 13時5分  
「遥かなり三宅島」吉田松陰「留魂録」外伝(永富明郎著)
吉田松陰先生の真筆「留魂録」を世に伝えた人は、松陰先生が投獄された折の牢名主沼崎吉五郎であった。
「留魂録」を託されてから17年後、門人野村靖に「留魂録」を手渡し松陰先生との約束を果たした。
沼崎吉五郎は、至誠の人であり、松陰先生にとって恩人でもある。
この沼崎吉五郎に対する長州人の「惻隠の情」の欠落を嘆き、小説として取り上げたものであり、松陰先生没後153年、著者永富明郎氏が長州人として沼崎吉五郎の厚志に報いた書でもある。


森川林 2012年9月12日 15時17分  
 mino阿弥さん、貴重な情報をありがとうございます。
 こういう形で、歴史に残らずに自分の義務を貫いた人が維新の時代には数多くいたのでしょうね。
 

コメントフォーム
吉田松陰「留魂録」を伝えた信頼関係 森川林 20110205 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
せそたち (スパム投稿を防ぐために五十音表の「せそたち」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
未分類(378) 
コメント1~10件
読解問題の解き Wind
面白かった 10/11
記事 4027番
長文の暗唱のた たろー
この世で一番参考になる 9/30
記事 616番
「桃太郎」を例 匿名
役に立った 8/15
記事 1314番
日本人の対話と 森川林
ヨーロッパの対話は、正反合という弁証法の考え方を前提にしてい 8/6
記事 1226番
日本人の対話と よろしく
日本人は上に都合がよい対話と言う名のいいくるめ、現状維持、そ 8/5
記事 1226番
夢のない子供た 森川林
「宇宙戦艦ヤマトの真実」(豊田有恒)を読んだ。これは面白い。 7/17
記事 5099番
日本人の対話と 森川林
 ディベートは、役に立つと思います。  ただ、相手への共感 7/13
記事 1226番
日本人の対話と RIO
ディベートは方法論なので、それを学ぶ価値はあります。確かに、 7/11
記事 1226番
英語力よりも日 森川林
AIテクノロジーの時代には、英語も、中国語も、つまり外国語の 6/28
記事 5112番
創造発表クラス 森川林
単に、資料を調べて発表するだけの探究学習であれば、AIでもで 6/27
記事 5111番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
Re: 標準新 森川林
 これは、確かに難しいけど、何度も解いていると、だんだん感覚 12/2
算数数学掲示板
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習