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点数の教育から、文化の教育へ as/1229.html
森川林 2011/04/09 22:27 
修 削


 未来の教育の大きな戦略目標として、「受験の教育から、実力の教育へ」、「学校の教育から、家庭の教育へ」と書いてきました。今回は、「点数の教育から、文化の教育へ」という話です。

 教育は、個人の側から見れば、自己の向上です。社会の側から見れば、社会の再生産です。その両者の出合うひとつの形が点数です。社会は、社会自身を再生産する方向に向かって100点を用意します。個人は、自己の向上のバロメータとして、その100点に近づくことを向上の目標とします。

 ところが、教育の目的が、実力をつけることから受験に合格することに狭められることによって、この点数による評価が極大化したというのが現代の教育の特徴です。点数が評価の中心になるにつれて,逆に、点数化しやすいものが教育の中心になっていきました。

 例えば、小学校から高校にかけての教科には、国語、数学、英語、理科、社会、音楽、美術、体育などがあります。このうち、音楽、美術、体育などは、点数化しにくいので、一般的な受験勉強の中心にはなっていません。理科や社会は、点数化しやすい教科ですが、そこで求められる知識は比較的平板なものなので、記憶力を中心としたものになります。国語、数学、英語は、理科や社会に比べると、知識が立体的な構造を持っているので、記憶力以外に思考力が必要になります。そのため、国語、数学、英語が受験勉強の主要な3教科になり、そこに、理科、社会を付け加えて5教科の勉強が教育の中心になるという体制になっています。



 教育とは、社会の再生産ですが、その再生産が点数化されやすいものに絞られることによって、自己の向上も点数化されやすいものに絞られるようになってきました。点数が教育の評価の中心になることによって、社会と自己の両者がともに質の低い目標に甘んじるようになってきたというところに、現代の教育のひとつの問題があります。

 例としては少し飛躍しますが、例えばドッグショーという犬の評価があります。そこで評価されるものは、姿形や血統が中心です。外面からは判断しにくい、性格のよさや頭のよさは評価の中に出てきません。そして、そういう内面的なものが出てこないばかりか、外面的なものが極端に重視されると内面的なものが低下する面も出てくるのです。人間の教育も似ています。点数化しやすいものによる評価は、ある程度までは有効ですが、それが極端に重視されるようになると、かえって人間の成長と社会の発展を妨げる面も出てきます。



 社会も人間も、その多くは、点数化されにくいものによって運営されています。例えば、江戸しぐさのような文化があります。座る場所が混んでいたら互いにちょっと詰めてあげるというような文化です。道でときどき出会う人には、相手のことをよく知らなくても会釈を交わします。災害のあった場所でもそれをいいことにして物を略奪するようなことはしません。見知らぬ人どうしでも分け隔てなく相手の立場に共感してものを考えます。自然と一体感を感じ、自然を味わうことに喜びを感じます。こういうことは、すべて社会の中で再生産されている文化です。しかし、これらの中で点数化されるようなものはほとんどありません。

 こういう例は、挙げればきりがありません。例えば、言葉だけで列挙すると、親孝行、自然への信頼、祖先への尊敬、日本語脳、よい姿勢、早寝早起きの習慣、清潔に対する感覚、色彩を表す表現、昔話に伝わる文化、助け合いの文化、譲り合いの文化、自己主張のない文化、誠実さや正直さに対する価値観、道を追求する文化、八百万(やおよろず)的な考え、オープン性、平和志向、静かな文化、清貧の思想、明るさに対する価値観、手先の器用さ、謝ればすぐに水に流す文化など、こういう日本の社会に伝わる文化のほとんどは、点数による評価とは無縁のものです。

 しかし、これらの文化は、点数評価を中心とした社会の中では、軽視されるどころか否定されてしまうこともあります。例えば、テスト勉強のコツとして、子供たちが、「時間がなかったら、選択問題はとにかくわからなくても埋めておけ」というようなことを教えられたとします。しかし、これは、日本文化の中にある正直さや潔さ(いさぎよさ)に対する価値観とは対極にある考え方です。



 日本文化は、以前、無の文化だと書いたことがあります。(「新たな知のパラダイム」)。それは、西洋における有の文化とは正反対の哲学に立脚しています。西洋の有の文化とは、個人のエゴを社会の構成原理としている文化です。そして、このエゴ的なものほど、点数化されやすいという傾向があります。

 点数は、どこができていたらプラス何点で、どこができていなかったらマイナス何点だというふうに、特定の場所を基準として誰にとっても共通に客観的に採点されるので説得力があります。無味乾燥な説得力というのが、点数文化の特徴です。

 それに対して、点数化されない文化は、全体の雰囲気の中で承認や共感を受ける形で評価されます。未来の教育のひとつの大きな方向は、この「点数の教育から、文化の教育へ」という流れの中にあるのだと思います。



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