ログイン ログアウト 登録
 競争の教育から、独立の教育へ2 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 1251番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/23
競争の教育から、独立の教育へ2 as/1251.html
森川林 2011/05/01 12:17 



 これまでの工業時代における消費産業においては、消費したいものを消費者が買うので、その物財が売れることによって生産者が豊かになり、それが労働者の賃金という形で消費者に再び還元されるという仕組みでマネーが回っていました。

 これからの創造産業においては、そうではありません。まず創造したいものを創造者が作るので、その創造物の価値を賞賛するために、他の創造者がその創造物を買うという形でマネーが社会の中を回ります。マネーの流れの源泉が、欲求をもとにした消費から、新しい価値の創造をもとにした賞賛に変わってくるのです。ちょうど、文化祭の模擬店で、面白いものを買ってあげるためにチケットを使うというような形に似た経済と考えるといいでしょう。

 そして、その面白いもの、つまり新たに創造されたものが、新しい需要を作り出します。つまり、既存の需要を奪い合う社会から、新しい価値の創造によって新しい需要を創造する社会へ向かう途上に、現在の日本はあるのです。

 その新しい社会がまだ実現していないのは、お金を持っている人が、その使い道がないために、マネーの流れをとどめているからです。そして、そのことによって日本中が互いに貧しくなっていることに多くの人が気づいていないからです。

 だから、まずお金のある人が、新しい価値の創造を賞賛するために、そのお金を使うことから始めなければなりません。



 ケインズ経済学の本質は、供給力の過剰によって社会にたまったお金を、社会が再び使わざるを得ない仕組みを作ることにありました。ケインズは、有効需要を作るためには、ピラミッドを作ることでも、大きな穴を掘ってそれを再び埋めることでも何でもよいと言いました。需要が新たに作られさえすれば、それが無駄な需要であってもかまわないと考えたのです。しかし、その延長に、「その無駄は戦争であってもいい」ということも成り立ちました。



 日本がこれから目指す新しい需要は、そのようなものではありません。ケインズが、有効需要は無駄な需要であってもよいと考えたのは、当時の欧米の社会では、大衆はそれぐらいしかできないと思われていたからです。これに対して、日本では、ブルーカラーの労働者も職場でのカイゼンに参加するだけの知的創造性を持っています。社会全体の知的平均値が高いというところに、日本で世界初の創造産業社会が誕生する条件があるのです。



 これまでの社会では、生産技術の未発達による生産力の不足が、需要-生産-労働のサイクルを作り出し、それが、不足に対する競争を生み出していました。その競争の仕組みが、社会のすべての分野に浸透していた結果、教育も競争の中で行われるようになっていたのです。

 しかし、その結果、勉強の目的が競争に勝つことになり、何のための競争かということよりも、どれだけ激しい競争で相手に勝つかということが重視されるようになりました。

 勉強の真の目的は、自分を向上させ、社会に価値ある創造を付け加えることによって社会に貢献することであるにもかかわらず、勉強の過程で競争が重視されるようになった結果、受験のための教育や点数のための教育が広がるようになっていったのです。

 この競争教育は、ふたつの問題を生み出しています。

 ひとつは、競争に勝つような優れた能力を持った人たちの勘違いです。優れた能力を持つ人は、その個性を生かして社会に役立つ仕事をしようとするのでなければなりません。それが、できるだけいいイスを取って自分が安泰に暮らすための人生を送ることを目標にするようになってきたのです。このことが,社会全体の大きな損失を生み出しています。

 もうひとつは、競争に負けたと思う人たちの自信喪失です。人間は本当はだれでもが自分の個性を生かした創造ができる存在です。にもかかわらず、自信を持たない人は、自分でその可能性を閉ざし、消費と労働の世界に安住してしまうのです。ここにもまた、社会全体の大きな損失があります。

 競争教育は、競争に勝った人の私利私欲の価値観と、競争に負けた人の早めの自信喪失を生み出しています。

 多くの人は、月曜から金曜までは我慢して働き、土日は休んで英気を養うというような日々の送り方をしています。土日の休養と消費生活のために、月曜から金曜の労働があるという生活です。

 競争に勝った人も、同じ罠にはまっています。だれもが、より豊かな消費生活とより多い休養のために、いかに割りのよい労働に携わるかということを人生の目標にするようになっているのです。



 競争ということを考えるとき、私は、30代のころ、房総半島の磯で見た光景を思い出します。激しく波の打ち寄せる岩場で、たくさんの小さな海草が岩場にしがみついていました。ある海草は、波の穏やかな日当たりのいい場所に根をはっていました。ある海草は、波の荒い日陰に小さく根をはっていました。しかし、それぞれの海草が、自分の今いる場所で自分にできるかぎりの光合成という創造を営んでいました。

 人間社会も、本来はそうであったはずです。人よりもいい場所を取ることを目的にするのではなく、自分の今いる場所で自分なりの新しい価値を創造することが本当は自然な生き方です。

 ところが、今まさに、そういう社会が生まれる条件ができつつあるのです。(つづく)



同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
日本(39) 

コメント欄

コメントフォーム
競争の教育から、独立の教育へ2 森川林 20110501 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
しすせそ (スパム投稿を防ぐために五十音表の「しすせそ」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
日本(39) 
コメント1~10件
読解問題の解き Wind
面白かった 10/11
記事 4027番
長文の暗唱のた たろー
この世で一番参考になる 9/30
記事 616番
「桃太郎」を例 匿名
役に立った 8/15
記事 1314番
日本人の対話と 森川林
ヨーロッパの対話は、正反合という弁証法の考え方を前提にしてい 8/6
記事 1226番
日本人の対話と よろしく
日本人は上に都合がよい対話と言う名のいいくるめ、現状維持、そ 8/5
記事 1226番
夢のない子供た 森川林
「宇宙戦艦ヤマトの真実」(豊田有恒)を読んだ。これは面白い。 7/17
記事 5099番
日本人の対話と 森川林
 ディベートは、役に立つと思います。  ただ、相手への共感 7/13
記事 1226番
日本人の対話と RIO
ディベートは方法論なので、それを学ぶ価値はあります。確かに、 7/11
記事 1226番
英語力よりも日 森川林
AIテクノロジーの時代には、英語も、中国語も、つまり外国語の 6/28
記事 5112番
創造発表クラス 森川林
単に、資料を調べて発表するだけの探究学習であれば、AIでもで 6/27
記事 5111番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習