ログイン ログアウト 登録
 無の文化と経済 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
Onlineスクール言葉の森・サイト Onlineスクール言葉の森
記事 1339番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/23
無の文化と経済 as/1339.html
森川林 2011/08/26 18:10 


 陰陽の文化というものも、無の文化を前提にして生まれています。

 有の文化と無の文化の違いを簡単に説明すると、有の文化は、その言葉のとおり、ある物事が「有る」というところを出発点にした文化です。

 デカルトの「我思う。ゆえに我あり」は、意識における有の思想ですが、物理的な物事に関しても、ある物を定義するのに、それが何かということを分析し細分化します。すべての「有る」にさかのぼる発想をするのが有の文化です。

 現代の日本人も、学校教育の中でこのような有の文化の洗礼を受けるので、ごく自然に、ある物事を考えるときに、それを分析する立場から見ようとします。

 しかし、日本の文化に本来あったものは、無の文化です。無は、物事を「無い」ものと見るところから出発します。ある物事が「無い」のに、それが物事として成立しているのは、その物事の周囲がその物事をその物事たらしめているからだという考えです。

 例えば、ドーナツの本質は、穴があることです。では、穴とは何なのでしょうか。それは、何も無いことです。しかし、単に無いのではなく、穴以外のものに取り囲まれていることによってその「無いこと」が穴として存在しています。

 ある物事が、その物事の「有」によってではなく、その物以外の「有」によって、つまりその「物」自体の無によって規定されるというのが無の文化の発想です。

 この無の文化がアジアの文化の背景にあり、そして、それは、この日本で最も深く根づいていたのです。



 陰陽の考え方も、この無の文化から来ています。陰は、陰だけで単独に存在するのではなく、つねに対比されるものとの関連で陰になります。だから、場合によっては他のものとの関連で陽になることさえあります。

 陰が極まると陽になるというのも同じです。過ぎたるは及ばざるが如しというように、ある「有」は、それを追求していくと、有の極まったところで無に転化します。しかし、その無を突き詰めていくと、再び無の極まったところで有に転化します。

 木火土金水の五行の関係も同じです。例えば、木は、単独で木であるのではなく、水からは生じられる関係で、金からは剋される関係で初めて木として存在します。

 風水も同じです。ある土地や物自体がよかったり悪かったりするのではなく、その土地や物が周囲の場所や状況との関連でよくなったり悪くなったりします。

 ところが、欧米の有の文化の発想は違います。問題になるのは、常にその物自体であり、他との関連は二義的です。まして、その物自体は「無い」のに、他との関係だけが「有る」というようなことは考えつきません。



 この欧米の有の文化が、世界の標準の考え方になってきたのは、わずかここ2、300年です。産業革命が成功し、市民革命が成功し、その圧倒的な軍事力と策略の力で、思想的な面でも、世界中の文化を有の文化に変えることができたのです。

 ところが、日本は、明治の開国と、太平洋戦争の敗北によっても、有の文化は社会に浸透しませんでした。日本人のものの考え方の根底には、今も、無の文化が生きているのです。



 欧米の有の文化は、世界に広がり発展するにつれて、次第にその限界を見せてきました。

 経済学の分野では、アダム・スミスが述べたように、「個人の利益を追求することが、社会全体の利益にかなう」という考え方が、実際に有効だった時代もありました。しかし、やがて、個人の利益という「有」がガン細胞のように際限のない増殖を始め、社会全体の利益に反するばかりか、自身の存立基盤をもむしばむようになったというのが、現代の金融資本主義という有の文化の行きついた姿です。

 それは、運営の仕方がたまたま悪かったためでも、民主的な規制ができなかったためでもなく、有の文化そのものが持つ限界だったのです。

 とすれば、現在の世界の政治的経済的行き詰まりを打開できるのは、日本及びアジアに残る無の文化ではないでしょうか。

 無の文化における経済の目的は、個人の利益という「有」を追求するためにあるのではありません。個人の利益を「無」と考え、相手の利益を豊かにすることを第一の目的とすることによって、初めて現代の人類の豊かな生産力をコントロールすることができるようになるのです。

 そういうことが果たしてできるのでしょうか。それができることを示したのが、日本の3.11の経験でした。



 日本は、世界で唯一と言ってもいいほど、無の文化が社会の隅々にまで息づいている国です。しかし、そうでありながら、欧米の有の文化の成果である科学技術、政治経済、学問教育の分野でも、本家の欧米以上の成果を達成しています。

 単に欧米の有の文化を否定するのではなく、自身の中にもある有の文化を生かしつつ、それをより大きな無の文化に包摂するというのが、世界史におけるこれからの日本の役割なのです。



コメント欄

コメントフォーム
無の文化と経済 森川林 20110826 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
けこさし (スパム投稿を防ぐために五十音表の「けこさし」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
無の文化(9) 
コメント1~10件
読解問題の解き Wind
面白かった 10/11
記事 4027番
長文の暗唱のた たろー
この世で一番参考になる 9/30
記事 616番
「桃太郎」を例 匿名
役に立った 8/15
記事 1314番
日本人の対話と 森川林
ヨーロッパの対話は、正反合という弁証法の考え方を前提にしてい 8/6
記事 1226番
日本人の対話と よろしく
日本人は上に都合がよい対話と言う名のいいくるめ、現状維持、そ 8/5
記事 1226番
夢のない子供た 森川林
「宇宙戦艦ヤマトの真実」(豊田有恒)を読んだ。これは面白い。 7/17
記事 5099番
日本人の対話と 森川林
 ディベートは、役に立つと思います。  ただ、相手への共感 7/13
記事 1226番
日本人の対話と RIO
ディベートは方法論なので、それを学ぶ価値はあります。確かに、 7/11
記事 1226番
英語力よりも日 森川林
AIテクノロジーの時代には、英語も、中国語も、つまり外国語の 6/28
記事 5112番
創造発表クラス 森川林
単に、資料を調べて発表するだけの探究学習であれば、AIでもで 6/27
記事 5111番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン