ログイン ログアウト 登録
 「地方消滅 創生戦略篇」(増田寛也・冨山和彦著 中公新書)を読み、寺子屋オンエアとの関連を考える Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 2408番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/22
「地方消滅 創生戦略篇」(増田寛也・冨山和彦著 中公新書)を読み、寺子屋オンエアとの関連を考える as/2408.html
森川林 2015/08/29 05:20 


 「地方消滅 創生戦略篇」に書かれている内容は、2人の著者の実体験に裏打ちされた具体的な現状分析や提案です。
 読後感は、かつて読んだ、湯川秀樹と梅棹忠夫の対談「人間にとって科学とはなにか」と同じような、知的な相互交流の魅力です。対談によって、ひとりで考えるよりもはるかに多くのことが広く深く語られたという印象でした。

 この本には、次のようなことが書かれていました。
・地方には、若者を引きつけられるような生産性の高い仕事がない。
・都会は今後高齢化が進行すれば、介護がパンクする。
・都会の高齢者が動けなくなる前に地方に移住して、地方で新しい生活ができる仕組みを作るべきだ。

 この議論の対極にあるのが、増田悦佐(えつすけ)さんの「高度成長は世界都市東京から」だと思います。
 増田悦佐さんは、次のような考えを述べています。
・都会への集中が、高い人口密度の中で新しいサービス産業を生み出す。
・地方からの人口流出は、技術革新のニーズを生み地方の労働生産性を高める。
・官僚や政治家が制度を作るのではなく、大衆の自由な創意に任せるべきだ。

 いずれにしても、今後、趨勢的に進む少子化、高齢化の中で、都会と地方のあり方が解決すべき大きな問題として問われる時代になっているのです。
 しかも、時間的な余裕はあまりありません。

 都会と地方の問題を考える際に考慮に入れなければならない重要な要素は、第一に今後の技術革新、第二に世界のマネー経済の行き詰まり、第三に人間の意識の変化あるいは進化、です。
 この中でも特に、技術革新は、予測できないブレークスルーを生み出す可能性があります。
 その技術革新の方向は、未来へのビジョンによって大きく方向づけられます。

 問題は、現在の目で見るだけでは解決できません。問題は、未来に向けた行動によって解決されるものだからです。
 その解決が新しい問題を生み、それが再び行動によって解決され、その解決が更に新しい問題を生み、という形で、行動が問題を解決し続けていきます。
 行動に必要なのは、未来に対するビジョンです。今後、私たちがどういう日本(世界はそのあとで考えるとして)を作っていくかということが大事なのです。

 日本の未来を考えるとき、まずいちばんの前提になるのが、真に価値あるものは創造だという考えです。
 話は大きくなりますが、植物は地球環境の中で重要な役割を果たしています。しかし、植物自体に価値があるのではなく、最初にあった光合成の発明に価値があったというのが、「創造=価値」の考え方です。現在の植物は、その最初の創造的発明のコピーにすぎません。

 人間の生産活動でも同様です。目の前にある工場群は、確かに工業製品という富を生産しています。しかし、価値があったのは、その生産物を作るための最初のいくつもの発明だったのです。

 日本の製造業の技術は、新興国にコピーされて広がっています。そして、新興国で低コストで生産された工業製品がそれらの国の発展を生み出し、日本の製造業の相対的な凋落を生み出し、そして全体的には世界の豊かさを生み出しています。
 だとすれば、日本の役割は、コピーされるものを守ることではなく、新たに、コピーされ得るものを創造することです。

 創造は、人間が本来持っている性質です。動植物に生まれながらの繁殖力があるように、人間には生まれながらの向上心と創造性があります。それを引き出すのが、創造をよしとする文化と、創造をよしとする教育です。

 日本が発展してきたのは、進んだ欧米先進国の科学技術を見て、それをコピーして満足するのではなく、独自に自国でもその技術を創造しようとしたからです。
 今、日本の産業でふるわない分野があるとすれば、それは楽なコピーにとどまっているからです。

 今後、日本は、先に進んでいた国からコピーするものがなくなる時代に突入していきます。
 工業製品に限らず、社会制度にしても、多数決民主主義や三権分立などの制度は、欧米のコピーでした。これらの文化も、今後は単なる正確なコピーにとどまらず、新たに日本的に創造する時代に来ているのです。

 この創造を価値とする未来の日本を展望した上で、過疎化する地方と、高齢化する都会と、その背景にある少子化の進行という問題の対策を考えていく必要があります。
 私が考えるのは、子供たちの創造的な教育を目的とした、インターネットの活用による、都会と地方の連携です。

 地方の過疎化を考える場合、いちばんの問題となっているものは、地方で生産性の高い産業を生み出せていないということです。
 農業も、観光も、トータルな生産額は大きくても、個々の生産者にとっては低い生産性で、つまり低い時給で経営されています。医療や介護や福祉が、今後生産性の高い産業になると考える人もいますが、それらは後ろ向きの産業です。

 生産性の高い未来の産業として、子供たちの教育産業を地方で作り出し、インターネットによって地方性を克服するという方向が考えられます。
 その際の教育は、受験教育ではありません。受験教育は、受ける個人にとっては意味あるものですが、日本の社会全体にとっては(全体の学力を向上させるという効果はあったとしても)、何も新しいものを生み出していません。

 創造教育によって、将来新しい価値を創造するような子供たち、つまり受験秀才の量産ではなく、ノーベル賞級の天才の量産を目指していくことが、日本がこれから世界のリーダーとして指し示す先進国のモデルなのです。
 ノーベル賞級の天才を生み出すためには、創造の幅広い裾野が必要です。その裾野は、例えば、工場のカイゼン運動などで出されるような身近なところから始まる創造です。
 誰もが創造に関心を持ち、身の回りの問題を創造によって解決し、その創造を周囲が評価するという文化があれば、その文化の中で突出した創造が生まれてきます。

 身近な創造が社会を変えた例として私が思いつくのは、水車の発明です。水車によって、水流を動力として利用するだけでなく、川の水を低いところから高いところに移すという仕組みができました。これがその地域の農業の発展に果たした役割は、かなり大きなものだったと思います。
 しかし、その発明者が誰だったかは誰も知りません。このような無数の無名の発明が、人間の社会を発展させてきました。
 こういう創造を教育の第一の目的とし、その創造教育を社会の主要な産業として育てていくことが、これからの先進国の発展する方向です。

 言葉の森が今行っている寺子屋オンエアは、以上のような文脈で考えている新しい教育の提案です。
 そこで目指しているものは、子供たちのトータルな学力の教育、勉強以外の人間性や文化性の教育、表現・発表・創造の教育です。そして、その教育を支えるための、女性と高齢者の知的資産、経験的資産、文化的資産の活用です。
 これらをインターネットの利用によって、都会と地方の連携の中で展開していく仕組みを作れば、この新しい教育は、日本の国内にとどまらず、海外の日本人の子供たちにも広げていくことができます。

 日本の未来を切り開くものは創造です。これからの教育は、その創造を第一の目的としていく必要があります。
 その教育の中心になる場は家庭学習で、家庭学習はインターネットによって高度化していくことができます。その高度化する仕組みが寺子屋オンエアです。

 寺子屋オンエアを支える人材は、豊富な知的資産を生活の中で充分には生かしていない女性と高齢者です。
 そして、このインターネットを利用した、人間的なつながりのあるインタラクティブな教育が、地方の生産性を高め、都会と地方の問題を同時に解決するひとつの展望ともなっていくのです。



同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
新しい産業(23) 教育論文化論(255) 寺子屋オンライン(101) 政治経済社会(63) 

コメント欄

森川林 2015年8月29日 8時32分  
 田舎で暮らしたいという人が増えています。
 しかし、田舎には仕事がありません。それは、人口密度が低いからです。
 仕事がないということは、その仕事が提供する商品やサービスがないということですから、田舎には消費者が買いたいものもないのです。
 そんな田舎では暮らしたくないから、ますます人口が流出し、ますます田舎は田舎になっていきます。

 これを解決する道は、インターネットの活用です。インターネットは、世界がマーケットです。そして、消費者は、世界中から買いたいものが買えます。

 現に言葉の森は今、本部が横浜にありますが、明日から南アルプスの山奥に引っ越すことになっても、クロネコヤマトの宅急便さえ通っていれば、仕事の90パーセントは支障がありません。(通ってないか)

 そのインターネットの活用を、真の価値の創造に結びつける工夫がこれから必要になってくるのです。
 

森川林 2015年9月8日 9時39分  
 文章が長すぎるが(笑)。
 これからの日本の未来を考える場合、適度な都市と、適度な地方の共存ということが大事だと思う。
 そして、働く場さえあれば、それぞれの人が自分の好みに応じて適度に分散していくのだから、要は新しい働き口を作ることがまず大事なのだと思う。

コメントフォーム
「地方消滅 創生戦略篇」(増田寛也・冨山和彦著 中公新書)を読み、寺子屋オンエアとの関連を考える 森川林 20150829 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
そたちつ (スパム投稿を防ぐために五十音表の「そたちつ」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
新しい産業(23) 教育論文化論(255) 寺子屋オンライン(101) 政治経済社会(63) 
コメント1~10件
読解問題の解き Wind
面白かった 10/11
記事 4027番
長文の暗唱のた たろー
この世で一番参考になる 9/30
記事 616番
「桃太郎」を例 匿名
役に立った 8/15
記事 1314番
日本人の対話と 森川林
ヨーロッパの対話は、正反合という弁証法の考え方を前提にしてい 8/6
記事 1226番
日本人の対話と よろしく
日本人は上に都合がよい対話と言う名のいいくるめ、現状維持、そ 8/5
記事 1226番
夢のない子供た 森川林
「宇宙戦艦ヤマトの真実」(豊田有恒)を読んだ。これは面白い。 7/17
記事 5099番
日本人の対話と 森川林
 ディベートは、役に立つと思います。  ただ、相手への共感 7/13
記事 1226番
日本人の対話と RIO
ディベートは方法論なので、それを学ぶ価値はあります。確かに、 7/11
記事 1226番
英語力よりも日 森川林
AIテクノロジーの時代には、英語も、中国語も、つまり外国語の 6/28
記事 5112番
創造発表クラス 森川林
単に、資料を調べて発表するだけの探究学習であれば、AIでもで 6/27
記事 5111番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習