ログイン ログアウト 登録
 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 1345番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/29
無の文化と教育5 as/1345.html
森川林 2011/09/02 18:45 


 暗唱は、暗唱の対象よりも、むしろ暗唱するという方法そのものに意味があります。暗唱という方法で、根の吸収力を高めるというのが、この方法の特徴なのです。

 有の文化では、吸収すること自体を教育の目標とします。そのために、スモールステップで、吸収しやすいような教材作りをします。無の文化では、吸収力を高めることを目標とします。吸収力が高まれば、スモールステップなどがなくても丸ごと吸収できると考えているからです。



 本多静六は、家が貧しかったために、家の仕事を手伝いながら勉強をしました。その勉強法は、米をつきながら、暗唱した文章を繰り返すというものでした。

 机に向かって数学の問題を解くというような時間を取れなかったため、今の大学入試にあたる入学試験では、数学は全くできませんでした。しかし、作文だけは得意だったので国語の点数で合格することができたようです。

 入学後、数学はやはり全然できず、1年目についに落第という結果になりました。深い挫折感のあと一念発起した静六は、数学の問題を解法ごと丸暗記する勉強に取り組みました。

 数学に詳しい先生であれば、これは最悪の勉強法だと考えるでしょう。数学でつまずいたら、カリキュラムをさかのぼり、わからなくなったところまで戻るというのが勉強の基本です。しかも、数学は考えて理解する勉強ですから、問題と解法を丸暗記する勉強で力がつくわけがないと考えるのが普通です。

 しかし、静六はひたすら丸暗記を続け、ついに数学が学年でいちばんできるようになり、卒業するころには、数学の先生から、数学の天才とまで呼ばれるようになったのです。

 スモールステップ法が、山のふもとからこつこつ積み上げていく方法だとすれば、解法丸暗記法は、山の頂上から丸ごとカバーしていく方法です。目指すところは同じですが、積み上げ方式が誰でもできる方法であるのに対して、丸暗記法は、丸暗記の力がなければできません。

 本多静六が、数学の丸暗記を実行できたのは、それ以前に文章の暗唱という吸収力を高める練習をしていたからです。数学の丸暗記も文章の暗唱も、共通するのは、同じものを反復するという方法です。

 丸暗記というと、ほとんどの人は覚えることに意味があるように考えると思いますがそうではありません。暗記は目的ではなく結果です。では、何が目的かというと、何度も繰り返し反復することによって、比喩的に言えばその数学の問題と一体化することなのです。



 ところで、この反復という方法には、重要な条件があります。それは、細分化された部分を反復するのではなく、全体を丸ごと反復するということです。

 全体の丸ごと反復という点で、バイオリンのスズキメソッドを連想する人も多いと思います。スズキメソッドの特徴は、一曲丸ごと反復するという全体性にあります。部分の組み合わせで全体があるのではなく、最初に全体があり、そのあと必要に応じて部分に分けることができるという考えなのです。


 絶対音感の教育では、単音を聞かせるのではなく、和音を聞かせることが最初になります。和音という全体が先にあり、それを丸ごと把握することによって、やがて必要に応じて単音を把握することができます。決して個々の単音をマスターしてからそれを組み合わせて和音という全体を聞く力をつけるのではありません。

 文章の暗唱も同じです。最初に、内容のある全体があります。その文章の中には、まだその学年で習っていない漢字や、その学年では理解しにくい難しい内容が盛り込まれているかもしれません。しかし、それらの漢字を覚えたり、内容の解説を聞いたりするよりも先に、まず全体をすらすら読めるようにすることが暗唱の方法です。

 このように、全体を丸ごと反復するという方法だから、特別な教材もカリキュラムも先生も学校も要らないのです。(つづく)

この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

濱田美津子 20110906  
個人的にほぼ毎日少しずつ読んでいる本があります。2千頁強あるので、暗記は無理だと思っているのですが、あの辺にあんなことが書いてあったなくらいは分かります。中根さんの文章を拝読して、これは続けて意味のあることなのだなと安心致しました。

森川林 20110906  
 新しい本を次々と読むと知識は増えますが、自分の考えの芯のようなものにはならないようです。
 一方で繰り返し読むような精読の本があり、他方で次々と読むような多読の本があるというのがいいのでしょうが、繰り返し読む本はなかなか見つけにくいようです。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
日本(39) 無の文化(9) 

記事 1344番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/29
無の文化と教育4 as/1344.html
森川林 2011/09/01 20:21 



 もし、私たちが今突然、学校も先生もいない中で、もちろんお金もなく、一日中働きながら子供の教育をしなければならなくなったらどうするでしょう。私だったら、自分の頭の中にある文章を、子どもにも同じように唱えさせる形で子供の教育を行っていきます。

 実は、これが古代からどの民族も行ってきた原初的な教育法なのです。古代の民族は、口から口へと伝承を伝える形で子供たちの言語教育、つまり人間として成長するための教育と、民族の文化教育を行ってきました。伝承するテキストは、ひとつはその民族の昔話で、もうひとつは宗教の教典でした。

 有の文化の教育が成立する前は、どこでも自然に無の文化の教育が行われていたのです。

 ところが、有の文化の発想は、反復するという方法よりも、何を反復するかという教材の方に目を向けます。しかも、その教材が宗教の教典になると、教典の内容を覚え理解することが教育の目標のようになってきます。

 そのようにして、世界の無の文化の教育の多くは、有の文化の教育によって駆逐されていきました。しかし、広大なインドや中国の一部と、海によって隔てられた島国の日本には、無の文化の教育がそのまま残っていったのです。



 それでは、無の文化の反復する教育には、どのような効果があるのでしょうか。それは、有の文化の理解し身につける教育よりも効果があるのでしょうか。

 寺子屋時代の教育風景を当時の絵で見ると、子供たちはふざけて遊んでばかりいたようです。教える先生は、自分の好きな本を読んでいるだけで、特に教えたり注意をしたりすることはありません。このような雑然とした教育環境で、素読と手習いという反復学習が行われていました。

 これに対して、当時の欧米の教育風景は、子供たちが真面目な顔をして並び、先生は手にムチを持っています。

 この光景の違いを見ると、欧米では日本よりも教育の仕方が徹底していたように見えます。しかし、実際は正反対で、日本の子供たちの方がはるかに優れた教育を受けていたのです。

 優れたというのは、ひとつは量的にということです。江戸時代の日本人の大多数は読み書きができました。しかし、当時のヨーロッパ人の大多数は逆に読み書きができませんでした。しかし、それとともに大事なことは、日本の教育にはムチが必要なく、どの子も笑顔で教育を受けていたということです。



 同じものを反復するという教育法が、さまざまなものを身につけるという教育法よりも優れているのは、比喩的に言えば、反復の教育が根を育てる教育であるのに対して、理解し身につける教育が花を咲かせる教育だからです。

 反復する教育は、反復して何かを身につけるというところに目標があるのではありません。反復することによって曇りを取るというところに目標があります。だから、反復する教材は、特に固定したものでなくてもよいのです。

 塙保己一は、青年のときに般若心経を千日間暗唱する誓いを立てました。しかし、暗唱する教材は般若心経でなくてもよかったのだと思います。

 空海は、青年期に虚空蔵求聞持法の真言を暗唱しました。しかし、これも実は、暗唱する言葉は何でもよかったのです。

 有の文化の見方で見ると、暗唱する教材そのものに何か意義があるように見えますが、実は暗唱するという方法にこそ意味があるのです。(つづく)

この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

Sogame 20110901  
暗記することだったんですね。暗記するということは、潜在意識に入れるということでしょうか。習うより慣れろという結論でよろしいのでしょうか。

森川林 20110902  
 暗記というのは結果なので、暗記自体が目的ではなかったようです。
 目的は、反復することだったのだと思います。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
日本(39) 無の文化(9) 
コメント91~100件
……前のコメント
合格しなくたっ 森川林
 英語辞書さん、その心意気が大事です。  本気で取り組む人 12/11
記事 4000番
合格しなくたっ 英語辞書
2024年度受験生です。私は偏差値59で都立国際高校を目指し 12/10
記事 4000番
読書力はすべて 森川林
「なぜ文系も理系も「東大現役合格」は現代文が得意なのか」とい 12/10
記事 4880番
受験勉強などは 森川林
 子供たちに、あとまで残る勉強は、読書と作文と対話です。 12/9
記事 4879番
創造発表クラス 森川林
中学生以上の子供たちは、ChatGPTを活用して探究学習を進 12/7
記事 4875番
小4~小6の 森川林
オンライン授業と対面式授業を比較する人がいますが、その発想は 12/4
記事 4871番
音読の宿題は、 森川林
ブンブンどりむの監修者である齋藤孝さんは、よく知りもしないで 12/3
記事 4870番
サービスの多い 森川林
「東京、カッペね」の広告。 https://www.mor 12/2
記事 4869番
小学456年生 森川林
 言葉の森は、これまでは作文指導がメインでした。  その後 12/1
記事 4868番
齋藤孝さんの「 森川林
国語読解力をつけるためには、読む力と解く力を分けて考えること 11/30
記事 4867番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習