ログイン ログアウト 登録
 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 2180番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/12/4
小学校低学年の音読長文に、難しすぎるものがあるのはなぜか as/2180.html
森川林 2014/07/09 20:03 


 言葉の森の課題集の長文は、この7月から大幅に変更しました。これまでの暗唱長文と読解マラソン長文を一緒に組み込んだため、長文の中には、かなり難しいものも入るようになりました。
 低学年のお母さんから、「子供も読んで理解できないし、親でも理解できないような難しい長文を読むのはなぜか」という質問がありました。この質問は当然です。
 そこで、まずこの言葉の森のホームページの記事で、「なぜ難しすぎる長文を読ませるのか」という説明を先に書いておきたいと思います。

 読書については、子供の好きな易しい楽しいものをたくさん読むというのが基本です。自分の好きな本の多読というのが、読む力と書く力の基礎になります。
 易しい本であっても、本をたくさん読んでいる子は、文章を読むことが速くなりますし、また文章を書くときもリズム感のある滑らかな文章を書くことができます。
 難しくためになる本を少ししか読まないよりも、易しくちょっとくだらないと思われるような楽しい本をたくさん読んでいる方が、読解力も表現力もつくのです。

 しかし、読む力には、多読のほかにもう一つの読み方が必要です。それが精読です。
 その学年の子供にとっては難しい内容と表現の盛り込まれた文章をじっくり読むという読み方も必要なのです。しかし、この精読というのは、個々の単語の意味を調べて、書かれていることを逐一理解してじっくり読むということではありません。そういう勉強的な読み方をしても、時間がかかってくたびれるだけで、読む力はつきません。
 精読とは、ただ繰り返し読むことです。別の言葉で言えば、精読とは、難読の復読という読み方なのです。

 易しく楽しい多読と、難しい精読とが、読む力をつけるための読み方の両輪です。
 ところが、この難しい文章というのは、低学年には低学年なりに難しい文章があり、中学生や高校生にはそれなりに難しい文章があり、大学生や社会人になってもそれなりに難しい文章がある、というふうに果てしないものです。
 そして、大学生になって、その大学生なりに難しい文章を読める人は、考える力がつきます。しかし、ほとんどの大学生は、そういう難しい本は読みません。同じように、中学生や高校生も、その中学生や高校生なりに難しい本を読むような生徒はほとんどいません。しかし、中学生や高校生は、入試問題という手頃な難しさの文章があるので、勉強として読んでいくことができます。
 この難しい文章を読むときに大事なことは、「わからない言葉があっても、理解できないところが多くても、何しろ最後まで読んで、その文章に慣れる」という姿勢で読むことです。
 ほとんどわからない文章でも、最後まで読み切ると、必ずその人なりに理解できたという核のようなものができます。その核がたとえ小さくても、自分なりにわかったところがある、ということが大事なのです。

 低学年の子の文章力についても同じことが言えます。
 多読で易しく面白い本を楽しく読んでいくということが、まず基本です。
 しかし、その一方で、難しい文章を繰り返し音読して、意味の理解できないところがあっても、その全体像に慣れるということも大事なのです。ただし、低学年は長時間の勉強をするべきではありませんから、読むのに時間がかかる場合は、1ページ全部読むのではなく、番号で3番までとか、行数で10行までとか、句点の数で3つまでとか、あらかじめ制限を決めておいてもいいです。大事なことは、難しい理解できない言葉があっても、それを気にせずに、最終的にすらすら読めるようになるまで繰り返し読むということです。

 湯川秀樹は、幼児年長か小1のころに、四書五経の素読をさせられました。これは、その時期の子供にとっては、難しいどころが、全文意味不明の呪文のようなものだったと思います。しかし、この素読の目的は、書いてあることを理解することではなく、ただ繰り返し読んですらすら読めるようになることでした。しかし、書かれているのは日本語ですから、どんなに難しい文章であっても、すらすら読めるようになると、その文章に流れている雰囲気が頭の中に浮かび上がります。こういう読み方が、子供の考える力のもとになっていったのです。
 考える力は、易しい本の多読では身につきません。難しい文章の復読によって身につくものなのです。

 では、今回の課題集の長文が具体的にどのくらい難しいかというと、それは、次のようなものです。
====
 スカートやズボンを買うときは、まずウエストのサイズを確かめます。では、地球のウエスト、つまり円周はどうやって測るのでしょう。
 現代の科学者たちは、メジャーの代わりに人工衛星を使います。北極と南極を通る二つの衛星で、地球を外がわから測るのです。そのようにして算出された数値は、約四万八千キロメートル。大変なウエストサイズです。
 しかし、今からおよそ二千二百年前、すでに地球を測った人がいたのです。エラトステネスは、ギリシャの数学者で天文学者(てんもんがくしゃ)でもありました。彼の時代には人工衛星などないので、地球が丸いことさえ知らない人がたくさんいました。もちろん、地球を測ることのできるほど長い巻尺もありません。エラトステネスが使ったのは、一本の棒きれでした。
 エジプトのシエネという都市にいたときのことです。エラトステネスは、一年でいちばん昼間の長い夏至の正午に、太陽が真上に来ることに気づきました。太陽の光が影を作らずに井戸の底まで届いていたからです。しかし、そこから北に八百五十キロメートルほど行(い)ったところにあるアレクサンドリアでは、同じ夏至の日の正午に影が見えたのです。そこで、エラトステネスはあることを思いつきます。
 彼はまず、アレクサンドリアにまっすぐな棒を立てました。正午にその棒が作る影を観察するためです。影の角度を測ったところ、垂直方向に対して七・二度でした。エラトステネスは地球が丸いことと円周の全体が三百六十度であることを知っていました。三百六十を七・二で割ると五十ですから、棒の角度七・二度は円周の五十分の一になります。ということは、シエネとアレクサンドリアの間の距離も、地球の円周の五十分の一と等しいはずです。そこで二つの町の距離を五十倍し、地球の円周は、約四万キロメートルから四万六千キロメートルだという結論に達したのです。それは、驚くほど正確な数値でした。

「エラトステネスさん、棒で測るなんて、いつ思いついたんですか。」
「ぼうっとしているときにね。」 
====
 この長文の中の「三百六十を七・二で割ると五十ですから、棒の角度七・二度は円周の五十分の一になります。ということは、シエネとアレクサンドリアの間の距離も、地球の円周の五十分の一と等しいはずです。」などというところは、大人でも図を書いてみないとよくわかりません。
 低学年の子供が、この文章を読んで自力で内容を理解できることはまずありません。しかし、子供は、この文章を繰り返し読んで、次のように思うのです。「昔の人で、地球の長さを測りたかったという人がいたんだ」「その方法として、棒の影の長さを測るということを思いついたんだ」「大きくて測れないようなものでも、小さいもので測ることができる方法があるらしい」「しかも、それが数字で表せるぐらいに正確な方法らしい」。こういう理解が、その子供にとっての理解なのです。
 しかし、もちろんここで、お父さんかお母さんが登場して、図を書いて具体的に説明してあげれば、子供はやはりその説明を正確には理解できないかもしれませんが、大人の世界にはこういう不思議な学問的な方法があるらしいということを理解します。こういう学問の世界に触れることが、考える力のもとになっていくのです。

 今の教育は、理解を前提にしているので、子供の理解度に応じて、甘く柔らかく煮込んだようなものしか与えていません。そのひとつの例が、その学年で習っていない漢字を使わないというような国語の教科書です。
 人間は、将来たったひとりで世界に立ち向かっていかなければならないのですから、習っていようが、まだ習っていまいが関係なしに、まず世の中にあるものの全体にぶつかってみるという経験をしていくことが大事です。だから、難しい文章は、極端に言えばわからなくてもいいのです。しかし、できれば、お父さんやお母さんが、その難しい文章をおもしろおかしくわかりやすく説明してくれればなおいいのです。その際、大事なことは子供に理解させることではなく、お父さんやお母さんが、そのわかりにくい文章を説明しようとしてくれているという姿勢です。

 言葉の森の長文は、このような意味で、ときどきかなり難しい文章が入っていることがあるのです。

この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
国語力読解力(155) 

記事 2179番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/12/4
8月の実行課題を募集中 as/2179.html
森川林 2014/07/09 14:48 


 小学校低学年の生徒向けの「8月の実行課題」を募集しています。

 実行課題集とは、低学年の子が、家庭で取り組めるような遊びや行事のことで、その取り組みを作文の題材に生かせるようにしています。
 毎月4週目の「山のたより」に、小2以下の課題の生徒(0i, i, kiの課題)に実行課題集を送っています。

 これまでの実行課題集は、こちらです。
https://www.mori7.net/jk/
 このページは、誰でも利用できるように、言葉の森の生徒以外でも見られるようにしています。

 この実行課題集の材料を募集しています。
 遊びや行事に関する面白い記事又は画像を投稿してください。
 採用されたものについては、文章は1文字約1円相当、画像は1枚100円相当の謝礼があります。ただし文章も画像も著作権の問題のないものでお願いします。
(謝礼は、ギフト券という形になります)

 実行課題集は、ひとつのテーマ(1ページ分)について、300字程度の記事×3本、画像5枚で構成されています。
 投稿は、ひとつのテーマの記事と画像を全部入れても結構ですし、300字程度の記事1本、又は、画像1枚だけを入れる形でも結構です。また、ほかの人の投稿に、関連した記事や画像を追加するような入れ方でも結構です。

 記事の内容は、行事や遊びに関するもので、
(1)親子で実行できるようなことをできるだけ含むこと(それを作文の題材にしてもらうために)
(2)子供が読んで楽しめるように、できれば面白く書くこと(ダジャレなども入れて)
でお願いします。

 投稿は、オープン教育の掲示板か、facebookグループでお願いします。
 投稿の締め切り、15日まで。(18日までに編集し、19日に印刷し郵送する予定です。)

▽日本の行事と文化
https://www.mori7.net/ope/index.php?k=31
▽オープン遊び
https://www.mori7.net/ope/index.php?k=4

▽行事と季節の家庭学習
https://www.facebook.com/groups/gyouji/
▽親子で遊ぼうワンワンワン
https://www.facebook.com/groups/wanwanwan/

この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
実行課題(9) 
コメント11~20件
……前のコメント
総合学力クラス 森川林
子供は、暇そうにしているのがいちばんです。 年がら年中がん 6/22
記事 5107番
さまざまな勉強 森川林
勉強は、作文と読書と算数数学と歴史を中心にやることです。 6/21
記事 5106番
作文力がこれか 森川林
作文力をつけるために必要なのは読書と対話。 出力の前に入力 6/19
記事 5105番
作文を書くとき 森川林
 接続語と助動詞は、実は重要です。  中学生や高校生で、文 6/18
記事 5104番
国語は、読む力 森川林
国語の力をつけるための音読は、1冊の問題集を繰り返し読むのが 6/16
記事 5103番
国語力は、テク 森川林
国語力をテクニックで身につけようという考えそのものがあさはか 6/14
記事 5100番
本当の勉強は、 森川林
子供は、自然に成長していれば、みんな時期が来ればそれぞれにが 6/12
記事 5098番
これから大学生 森川林
MMさん、ありがとうございます。 これは、10年以上前の記 6/12
記事 820番
これから大学生 MM
先生の書かれていることは今読んでもそのまま通じます。 10 6/11
記事 820番
毎週作文を書く 森川林
作文の勉強というのは、負担の大きい勉強です。 だからこそ、 6/11
記事 5097番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
Re: 標準新 森川林
 これは、確かに難しいけど、何度も解いていると、だんだん感覚 12/2
算数数学掲示板
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習