言葉の森の暗唱長文は、これまでは現代文でその学年の生徒が作文を書くのに役立つようなものを載せていました。
これはこれで大事な役割があったのですが、せっかく暗唱までするのですから、今後は生涯覚えていて時どき口ずさめるようなものを暗唱長文にしたいと思いました。
そうすれば、その暗唱はやがて親子三代で楽しめるようなものになります。
聞くところによると、群馬県には上毛かるたというものがあるそうで、これは既に家族全員で楽しめる文化になっているようです。
作文に使えるような文章の暗唱が教育的暗唱で、親子三代で楽しめるような文章の暗唱が文化的暗唱と言ってもよいと思います。
教育的暗唱の長文の方は、その学年の作文の模範例文として別途読めるようにしていく予定です
さて、文化的暗唱と言っても、人それぞれに好みがありますから、選択の範囲はかなり広がります。
そこで、いくつかの基準を設けて、新しい暗唱長文を選ぶことにしました。
第一は、親子三代ですから、百年の風雪に耐えるような文章にしたいということです。
第二は、既にある程度知られているような親しみの持てるものにしたいということです
第三は、日本語の文章の暗唱ですから、できるだけ日本文化につながるものにしたいということです。
百年の風雪に耐えるとなると、やはりできてから百年以上経っているということが目安になります。
明治時代の始まりが、今から約150年前でした
明治維新は、現代日本のひとつの大きな原点になっています。
この明治時代の文化の方向が、その後の日本の大きな方向を決定づけました。
例えば、その一つが和魂洋才です。西欧の優れた科学技術は積極的に吸収するが、日本の文化の根は守るという方向が日本人の共通の意識となったのが明治時代でした。
しかし同時に、それにもかかわらず、明治以降の日本の文化は次第に西欧文化に侵食されていきました。
そこで、明治の初期をひとつの基準として、それ以前の古代・中世・近世・近代の文章を中心に暗唱長文を選定することにしました。
参考までに近代のよく知られている人物の生年です。
これらの人々は、江戸時代の成熟した日本文化を背景にしつつ、明治時代の急速な西欧化との葛藤の中で自身の精神形成をしていったのです。
勝海舟 1823~1899 文政
西郷隆盛 1828~1877 文政
吉田松陰 1830~1859 文政
福沢諭吉 1835~1901 天保
内村鑑三 1861~1930 万延
森鴎外 1862~1922 文久
新渡戸稲造 1862~1933 文久
夏目漱石 1867~1916 慶應
幸田露伴 1867~1947 慶應
鈴木大拙 1870~1966 明治3
島崎藤村 1872~1943 明治5
海外で子育てをしなければならない人は、子供の日本語教育の問題で悩まれることが多いと思います。
これまで帰国子女の保護者の相談を受けていてよく感じるのは、日本語学校のような教育機関だけでは日本語の力をつかないということです。これが、同じ勉強のように見える算数数学、英語、理科、社会などと違うところです。
海外で子育てをしながら、子供に現地の言葉も日本語もしっかり身につけさせている家庭に共通するのは、家庭で日本語を使う機会を意識的に増やしていることでした。
中には、日本語学校が近くにないので、家庭だけで日本語教育をやらざるを得なかったという人もいました。しかし、その方がよい結果を生んでいたようなのです。
家庭での日本語教育の方法は、youtubeで日本語のアニメを見る、近所の子供たちを読んで日本語のゲームをする、家庭の中では両親と日本語で話すなどでした。つまり、勉強として日本語を身につけさせるのではなく、遊びや日常生活の中で自然に身につけさせようとする工夫でした。
このことは、帰国子女に限らず、日本で日本語で生活している日本人の子供たちでも共通です。例えば、親が子供に話しかけるときは、できるだけ断片的な言葉ではなく、ひとつの文がある程度の長さを持っているような言葉で話しかけることです。国語力は、こういう日常生活の中で育っていくのです。