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読解力をつけるには as/514.html
森川林 2009/06/07 11:56 


 読解力とは何でしょうか。よく使われる言葉ですが、意味が漠然としています。

 文章を読んで理解することは誰でもできます。しかし、なぜその理解力に差があるのでしょうか。その差は、一つには理解の速さです。もう一つは、理解の深さです。

 これらの差が、鋭く表面に出てくるのは主に国語のテストにおいてです。読解力が焦点になるのは、日常生活ではなく、国語のテストの中でなのです。

 日常生活の中では、読む力があるかないかということは、あまり表面に出てきません。生活の中では、間違って読み取ったことでも、あとで修正できます。また、問題自体易しいものが多いのが通常の生活です。難しい問題に直面したときでも、わからないときはよくわかる人に聞くことができます。また、多くの場合、自分の専門にだけ詳しければ、大体のことは間に合います。つまり、読解力はなくても、知識でカバーしたり経験でカバーしたりできるというのが日常の生活です。

 ですから、生活の中での学力とは、読解力がそのまま出てくるのではなく、柔軟性とか、他人との協調性とか、持続力などが、その人の総合的な学力として表れてきます。しかし、国語のテストでは、柔軟性や他人との協調性や持続力などは評価に含まれません。そこで、読解力のエッセンスが国語のテストにおいて焦点になってくるのです。


 国語のテストということを、入試問題で考えてみます。というのは国語のテストの中には易しい問題もあり、そういうテストでは日本語が普通に理解できればできてしまうものも多いからです。

 入試問題は、差をつけるためのテストですから、敢えて何割かができないような問題として作られています。

 難関中学の受験で多いのが、長い文を読ませる形の問題です。これは、読解力を主に速さの面から評価するテストです。一回読んだだけですぐに頭に入るというような読み方のできる子が、読解力の速度のある子です。そして、この速さは、主にそれまでの読書量に比例しています。

 難関大学の入試で多いのが、難しい文章を読ませる形の問題です。高校の入試は、中学と大学のちょうど中間にあり、長い文を読ませる面と難しい文章読ませる面の両方が重なっています。

 難しい文章読ませるということについては、二つの難しい文章が考えられます。一つは、見た目の難しい文章、つまり読みにくい文章、いわゆる悪文といわれるものです。もう一つは、本当の難しい文章です。入試問題では多くの場合、見た目の難しい文章と本当に難しい文章が混ざり合った形で問題が出されます。

 では、本当に難しい文章とはどういう文章なのでしょうか。それは、一言で言えば、発見や創造のある文章です。つまり、これまでの読書生活あるいは実生活の中で、接したことのないような新しいものの見方や考え方をその場で理解する力が難しい文章を読み取る力なのです。


 ここで、私の個人的な例を挙げます。学生のころ、サルトルの「存在と無」を読みました。哲学のジャンルの本を読んだのはそのサルトルが初めてだったので、中に書かれている用語がなかなか理解できませんでした。「即自存在」「対自存在」「即自かつ対自存在」という概念を理解するのに、図をかいたり別の言葉で言い換えたりしてやっと何とか頭に入りました。その後、この概念がヘーゲルから出ていることを知り、ヘーゲルの「精神現象学」や「大論理学」を読みましたが、このときも新しい概念が次々と出てきてかなり苦労しました。

 同じように、さまざまなジャンルの古典と呼ばれる本を読んでいくと、古典というものに共通する本質がだんだんわかってきました。古典とは、その時代にそれまでになかった新しい発見や創造を提案した本だったのです。

 これらの本を読んでいくうちに、新しい概念が出てくる難しい文章もだんだん早く読み取れるようになってきました。そして、読解力というものは、決して学校時代の国語のテストで評価されるだけでなく、生涯進歩していくものだということが実感できたのです。


 本の中には、単に知識が増えるだけの本と、発見のある本とがあります。また発見のある本の中にも、小さな発見のある本と、大きな発見のある本とがあります。

 入試問題で出されるのは、大なり小なり発見のある文章なので、ここで難しい文章、つまり新しい概念を読み取る力があるかないかが問われてきます。


 では、難しい文章を読み取るための勉強はどのようにしたらいいのでしょうか。実は入試問題は、そういう文章の宝庫なのです。

 問題集に載っている問題文を読むと、それぞれの問題文が小さな発見のある文章であることが多いので、読む力のある子は読んでいて面白さを感じるようです。

 高校生が、言葉の森で勉強していて、高校3年生になると急に文章力がついてくるというケースがよくあります。これはなぜかというと、受験勉強で現代文の難しい文章を読むようになるので、難しい文章を読む力がついてきて語彙力と思考力が深まるからです。

 難読力をつけるには、入試問題の問題文を読んで理解するということが最も手軽で最も本質的な勉強法です。そして、文章の中で理解できないところがあれば、先生に聞きます。これは必ずしも国語の先生でなくてもいいのです。読解力のある大人であれば、難しい文章をやさしく解説することができます。

 この勉強法は、数学や英語の勉強法と同じです。数学や英語でも、わからない問題やわからない文を、問題の解法や文の構造から理解し直すことが学力になります。


 国語の入試問題は、読解力を評価することが大きな目的になっていますが、その読解力の評価にも、二つの形があります。

 一つは、記述型の問題で評価される読解力です。もう一つは選択式の問題で評価される読解力です。

 実はその文章を本当に読む力があるかどうかは、記述型の問題でなければ把握できません。選択式の問題は、選択のテクニックも必要になります。逆にいうと、読む力が低くても、読むテクニックあればある程度正解が得られるというのが選択式の問題の特徴です。ところが採点が大変なので、記述型の問題よりも選択式の問題が多いのです。


 国語の家庭学習というと、すぐに漢字の書き取りのようなことを連想する人がいますが、漢字力は、国語力のごく一部です。国語力の本質は読解力で、その読解力は、もって生まれたものではなく、学習によって身につくものです。

 しかし、読解力の本質を知らないと、問題集を解くような勉強で読解力がつくと思ってしまいます。ただ問題を解いて解説を聞くような勉強では、読解力はつきません。塾に行っても国語の成績が上がらないとよく言われるのは、塾では問題を解かせる形の勉強になりがちだからです。


 では、音読や暗唱がいいかというと、音読や暗唱そのものの意義もありますが、それ以上に大事なのが、何を音読し暗唱するかということです。

 昔からある有名な文章、例えば「平家物語」や「日本国憲法」を読めばいいというのではなく、発見や創造のある文章を読むところに読解力と思考力を深めるポイントがあります。昔からある有名な文章を読む意義は、文化に接するという文化的意義であって、読解力を高めるという教育的意義とは別のものだと分けて考える必要があります。


 音読と黙読の違いは、音読の方が反復しやすく定着度を高めやすいが、黙読の方が早く楽にできるという点にあります。

 問題集の問題文を毎日読む勉強をする場合、音読ではくたびれるので黙読でいいのですが、勉強の自覚がまだ不十分な年齢の間は、黙読では読み方が形骸化します。多少苦しくても、音読で読み続けた方が中身のある勉強になります。

 要約という勉強法も国語の力をつけるためには有効ですが、要約をチェックする人がいないと勉強が進まないという欠点があります。

 いい勉強法とは、教材や先生の制約がなく、本人の力で進めていけるものです。要約よりも、文章を音読し暗唱し、その暗唱した文章を筆写するという勉強を基本にした方が勉強の能率が上がります。


 また、要約も何を要約するかという要約の対象選びが最も重要です。よく「天声人語」の要約ということが言われますが、「天声人語」では文章が内容的に易しすぎます。難読という点でものたりなさがあるのです。やはりいちばんいいのは、発見と創造のある入試問題の問題文です。

 ただし、入試問題を作成する人自身も、読解力の本質を知らないことが多いので、ただ読みにくいだけの悪文を問題文としていることもあります。入試問題の文章ならどれでもいいのではなく、ある程度大人が文章を選択してあげる必要があります。


 以上まとめて言うと、読解力には二種類あり、一つは速さの読解力、もう一つは深さの読解力です。

 速さの読解力は多読によって身につくので、読書量を増やしていく必要があります。

 深さの読解力は難読によって身につくので、入試問題集や難しい本を理解できるまで読むというような勉強が必要になります。


 これらの本質を押さえた上で、読解力をつける勉強をしていってください。


(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)
マインドマップ風構成図
 記事のもととなった構成図です。

(急いで書いたのでうまくありません)

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受験に役立つ、題材で勝負する作文の書き方 as/513.html
森川林 2009/06/06 10:40 


 上手な作文の一つの重要な要素として、題材の値打ちというものがあります。
 題材の値打ちということを、言葉の森では個性、挑戦、感動、共感、ユーモアに分けて考えています

 帰国子女の入試では、課題のスタイルがどこでもかなり似ています。その課題は、海外での体験を通して学んだことを書くというものです。これは帰国子女の入試に限らず、志望理由などを書かせる課題でも似た傾向があります。

 ここで、題材としての体験の値打ちということが出てきます。以下、題材の値打ちということを六つに分けて説明していきます。


 第一は個性です。ある帰国子女の生徒は、海外での体験として、初めて海外の学校に行ったとき先生や友達が優しくしてくれてうれしかったと書きました。しかし、これは、自分の体験ではなく、優しくしてくれた先生や友達の体験です。自分らしさがあまり出ていないので、このような体験では文章が弱くなります。

 個性というのは、自分の体験を書いていくということです。海外の学校で、自分が新しい友達を作るために何か工夫をしたというようなことが書いてある方がその子の個性が出てきます。


 第二は挑戦です。カナダにホームステイに行ったとか、ハワイでイルカと泳いだとか、北海道で激流の川下りをしたとかいうような作文の題材は、値打ちがありそうな気がします。しかし、本人にとっては初めての挑戦であっても、だれかにつれられて行ったのであれば、あまり挑戦のある体験にはなりません。
 挑戦というのは、敢えて自分が何かをしたということです。例えば、止められたのに行ったとか、みんなと違うところに行ったとかいうようなことが挑戦の体験になります。結果として人と違うことをしたということではなく、ささやかであっても動機として挑戦したという姿勢があればいいのです。


 第三が感動です。これは、必ずしも自分自身の体験でなくても、感動の実例となることがあります。心の洗われるエピソードというのがそれです。自分が心から感動したということが書いてあると、その感動が読み手にも伝わります。
 例えば、「盲導犬が電車の中でフンをしてしまった。犬も盲人も途方にくれていたところ、乗客の一人がさっと寄ってそのフンを片付けてくれが。私にはとてもできることではないので感動した」。こういう話が書いてあると、本人の体験ではありませんが、その感動は読み手にも伝わります


 第四が共感です。共感というのは、人間なら誰でもしてしまうよくある失敗というようなことです。例えば、「電車の中で席を譲ろうとして何度か声をかけようとしたが、恥ずかしくてできなかった」というような例です。このようなことは、小中学生なら誰でも経験したことがあります。また大人でも、そういう子供時代の気持ちはよくわかります。このような例が書いてあると、そこに読み手が共感をします。

 しかし、失敗した話や悲しかっただけの話は、文章が暗くなることもあります。共感の中にも前向きの考え方が盛り込まれている必要があります。


 第五はユーモアです。しかしユーモアは、受験の場合には不要です。それに受験のときにユーモアのある実例を書こうという余裕はあまりありません。


 第六は、本人の体験ではありませんが、ハロー効果というものです。ここで両親が登場します。

 お父さんやお母さんの挑戦体験や感動体験が子供の作文中に書かれていると、読み手はそこにその子のよい面を感じ取ります。ひとつには、そういう家族の会話が成り立っていることに対する評価です。もう一つには、父母の生き方が子供の生き方にもつながっているだろうという漠然としたプラスの感覚です。

 言葉の森では、作文の入試の準備として、毎週の課題を両親が読み、子供に似た例を話してあげることを勧めています。お父さんやお母さんが話した子供時代の似た例は、受験で使えることも使えないこともあります。しかし、これは子供の人生に必ず大きな影響を与えます。


 私の母は昔、何かの折によく「天知る、地知る、人が知る」ということを言っていました。また、「人間はみんな、天照大神の子供なんだから」(それは違うだろ(笑))ということもよく言っていました。子供時代に親から聞いたことは、その後の人生のバックボーンになっていくような気がします。


(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)

マインドマップ風構成図

 記事のもととなった構成図です。



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