ログイン ログアウト 登録
 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 545番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/28
知性も、代謝による動的な平衡で as/545.html
森川林 2009/07/03 10:36 



 「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著・講談社現代新書)の中で、著者は、生命の本質は、単なる自己複製ではなく、代謝による動的な平衡ではないかと述べています。


 自己複製だけであればウイルスも行っています。ここから連想されるのは、スパムメールです。スパムメールも、ウイルスと同じように、自己をコピーして増殖し、しかもより広がりやすいように進化をします。しかし、そこには何か価値ある中身を維持しようとする生命の積極的な意志は感じられません。

 さらに、スパム的な書き込みというのも最近増えています。しかし、ウイルスに対する最も効果的な対策が免疫を作ることであるように、スパムに対しても、たくましい免疫力を作ることが最良の対策であるように思います。


 さて、ネズミの実験で、餌に標識となる物質を組み込んだものを三日間与え、その結果を見たところ、ほとんどの標識が体内のあらゆる部位に見つかったということです。つまり、三日間でほぼすべての餌がアミノ酸となり体内に蓄積され、その分だけ古いタンパク質が分解されて対外に排出されたということです。

 人間の細胞も、毛髪や爪などの固い細胞も含めて、常に内部では物質が入れ替わって動的な平衡を保っています。


 ここから私は、人間の認識についても、同じことが言えるのではないかと思いました。

 「三日書を読まざれば、すなわち面目憎むべく、語言味なし」という言葉があります。この意味は、三日本を読まないと、顔つきに品がなくなり、言うことに味わいなくなる、ということです。

 人間は、身体だけでなく、ものの考え方も、動的な平衡を保っています。日々の学習や読書によって、生き方や考え方という「細胞」も常に新しく入れ替わっているのです。


 塙保己一は、18歳のときに始めた般若心経の暗唱を晩年になっても続けていました。本多静六も、晩年に新たにドイツ語の勉強を始めました。本多静六の勉強法は、何度も反復して暗唱できるようにするというものでしたから、たぶんドイツ語もそのように勉強していたのでしょう。

 食事が健康な身体を維持することに役立つように、読書や暗唱というものも、健康な知性を維持するために必要なのです。


 ところで、動的な平衡を維持するためには、そのもとになる枠組みが必要です。

 生命のもう一つの特徴として、タンパク質の枠組みを作る際の不可逆的な進行というものがあります。

 身体は、ジグソーパズルのピースのように様々な形のピースが組み合わさって作られます。

 ある重要なピースが欠けていても、その穴をカバーするようなほかの組み合わせ方ができて全体が正しく形成されるという柔軟性が生物の身体にあります。

 しかし、ピースがないこと自体は問題ないのですが、なまじ不完全なピースが組み合わされると、それがあとで身体上の障害になってきます。しかも、いったんできた組み合わせは不可逆的なので、あとから修正することはできません。


 このことを人間の認識の形成に当てはめてみると、幼児期にバランスのよい文化の環境の中で育つことが人間の精神の成長にとって重要なのではないかということがわかります。

 それは、ひとことで言えば、伝統的な人間関係、伝統的な子育てということです。


 日本で昔から行われていた伝統的な子育てと、成長してからの日々の読書や暗唱という二つの面が、人間らしい生活をするために必要なのではないかと思いました。



(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)


マインドマップ風構成図

 記事のもととなった構成図です。


この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
教育論文化論(255) 

記事 544番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/28
フラット化する世界と日本語力 as/544.html
森川林 2009/07/02 08:53 



 「フラット化する世界」(トーマス・フリードマン著 日本経済新聞社)には、世界のフラット化に伴い変化する社会の実例が様々に描かれています。


 フラット化する世界とは、山や川で小さく隔てられていた世界がフラットになり、一挙に地球上の人口65億人の世界が目の前に広がるようになった世界です。


 商業の世界でも、昔、商圏人口数十万だった店が、インターネットの市場に進出し日本中1億2千万人をマーケットにして急成長しているというケースがあります。

 しかし、顧客がフラット化して数十万人が数億人になるということは、逆に言えば、ライバルもフラット化してそれだけ広がるということです。

 現在、インターネットの世界では、世界一の企業しか生き残れないという状況が生まれています。昔は、地域で一番であれば、その地域で生き残ることができました。今は、世界で一番でないと世界市場では生き残れないというになっているのです。


 これは、個人のレベルでも起こりつつあります。例えば、これまで日本の中で12倍の倍率で競争していたものが、世界が相手になると一挙に650倍もの倍率になるということです。(日本の人口が1億2千万人、世界の人口が65億人と考えた場合。実際にはもっと多い)

 例えば、相撲の世界では、今、日本人以外の力士が上位を占めています。日本人の中で競争するのではなく、世界の中で競争するという状況が、スポーツの世界では一足先に生まれているのです。


 大学も、これからは、日本で名前の通った大学であっても、世界では通用しないというケースが増えてきます。名前ではなく実力で勝負する、というのがフラット化された社会の特徴です。

 このような世界で仕事をしていくためには、アウトソーシング化される仕事や、オートメーション化される仕事とは異なる仕事の能力を持つことが必要になります。

 これまでは、日本でしか通用しない仕事でもやっていくことができました。これからは世界で通用する仕事でなければやっていけません。

 しかし、さらに言うと、これからは、日本人でなければ通用しない仕事があるというふうに考えることもできるのです。


 例えば、ある世界的な企業が社員を募集するときに、「ただし、左脳で虫の声を聞ける人を優先する」というような条件がついたとすれば、650倍の倍率は、一挙に12倍にまで下がります。左脳で虫の声を聞くことができるのは、日本語を母語とする人だけだからです。


 日本文化の特徴は、製造業(ものづくり)の文化という考えがありますが、これまで、あまり表に出なかった特徴として、実は、高度な文化的教育の文化という面もあるのです。

 フラット化した世界における日本の未来は、高度な教育文化を国内の需要で循環させていくとともに、海外のフラット化した経済を利用し、そして、日本文化そのものを高度な商品として世界に輸出するという形になると思います。

 このときに、大事なことは四つあります。

 第一は日本語力です。日本文化を自分のものにするためには、日本語の学習というのが土台になります。

 第二は読む力です。生涯学習の基本は、新しい概念を次々に読み取る力だからです。

 第三は書く力です。考えたことを発表する力がこれからはますます要求されてきます。

 第四は自分の専門的な能力です。しかし、専門的の能力がただ一つだけしかなければ、それがオンリーワンになる割合は65億分の1です。複数の専門能力を組み合わせることができれば、自分の個性はもっと有利に発揮できるようになります。

 フラット化する世界は、個性が求められる世界なのです。


(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)


マインドマップ風構成図

 記事のもととなった構成図です。



この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
教育論文化論(255) 
コメント141~150件
……前のコメント
作文用紙の廃止 森川林
 新たに記事を追加しました。  小学5、6年生の生徒にも、 6/19
記事 4771番
作文用紙の廃止 森川林
 記事を追加しました。  なお、7月からの新学期については 6/19
記事 4771番
優しい母が減っ からあげ
うちはお母さんが怖いけど僕の将来の為だと思って素直に聞いてい 6/18
記事 979番
作文力のない子 森川林
 ゆきちさん、コメントありがとう。  作文が苦手だと思う理 6/16
記事 4480番
作文力のない子 ゆきち
読書は大好きで大好きでたくさん読みました。 でも、作文はと 6/16
記事 4480番
2023年の夏 森川林
 2023年の夏期講習は、暗唱、読書感想文、受験作文、国語読 6/7
記事 4756番
小学3、4年生 森川林
 ありがとうございます。  この本は、結構内容が深いので、 5/30
記事 4752番
小学3、4年生 しげか&
この本教えていただき、私も友人に勧めて、友人の子も読んで、ま 5/30
記事 4752番
読書感想文コン 森川林
 ChatGPT時代には、大勢の人数の中から一人を選ぶとか順 5/29
記事 4751番
声掛けは否定語 森川林
 あと、言わない方がいい言葉のひとつは、でも。  子供が何 5/27
記事 4748番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習