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発表する文化の先にあるもの as/562.html
森川林 2009/07/20 20:16 


 王様は言いました。「おいしいものが食べたい」。そこで、腕に自信のある国中の調理人が様々な料理を作りました。ところが、優勝したのはめざしでした。という漫画を昔読んだことがあります。

 ラーメンとカレーとチャーハンで、どれが一番かと問うことはできません。好き嫌いという主観的なことは言えますが、どれが最もすぐれているかという順番をつけることはできません。

 芸術作品も同じです。「久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」と「かにかくに渋民村は恋しかりおもいでの山おもいでの川」と、どちらがすぐれているかという問いは、普通はしません。

 もちろん、何のために評価をするのかという目的が明確であれば、その目的に沿った評価や点数化はできますが、目的がないときの点数化というのはできないのです。

 しかし、このような芸術作品にも、ある方法で順位をつけることができます。それはその時代の人気投票によるものです。例えば、好きな料理でカレーが350票、ラーメンが320票と票が入れば、順位が決まります。つまり、主観が集積したものが客観性になるというのが投票の理論です。

 作文も似ています。ある目的に沿った評価として見れば作文にも点数がつけられますが、感動する作品を客観的に評価することはできません。できるとすれば、人気投票のような形です。作文には、それぞれ味があるからです。

 これは、読む学力の評価と書く学力の評価の違いと考えることができます。読む学力は、目標が限定されているので、テストで点数化することができます。書く学力は、テストや点数化にはもともと不向きで、ただ発表することが書くための動機になります。読む学力は、いい点数をとることが、書く学力は、人に見てもらうことが、その動機となっているのです。

 これまでの社会では、テストの文化が大きな比重を占めていました。しかし、これからの社会では、発表の文化が大きく広がっていきます。

 しかし、実は発表の先にもう一つ別の文化があるのです。

 なぜ花はきれいに咲き、なぜ鳥は美しく歌うかといえば、それは昆虫や仲間を引き寄せるためという目的があるでしょうが、それだけでは説明しきれないものがあります。花が咲き鳥が歌うのは、生存のためという目的を超えて、美を表現すること自体が嬉しいからなのです。それは、自分が花や鳥の気持ちになるとわかります(笑)。

 「葉隠」に、剣術の修行の段階についての話があります。まず、弱くて自信がないとき。これは、使えません。次に、ある程度強くなり自信もつき、人の長所や欠点がわかるようになり、いろいろ批評もしたくなる時期。このころになると、役に立ちます。しかしその先に、人の長所や欠点だけでなく、自分の長所や欠点もわかるようになり、自信はあるが黙っている時期があるそうです。

 普通の人はここまでですが、さらにその先に、どこまでいっても無限に進歩の先があることが分かり、ひとりで進歩し続ける境地があるというのです。

 読む学力は、テストや点数で評価できます。これは、剣術で言えば、人の欠点もわかり批評もしたくなる時期でしょう。しかし、その先の書く学力は、評価ではなく発表自体が動機になります。剣術で言えば、自分の長所や欠点もわかり自信はあるが黙っているという時期でしょう。しかしさらにその先に、無限の進歩があるというような境地に達するような時期がやってくるのだと思います。それが、テストの文化、発表の文化のあとに来る道の文化です。

 カレー、ラーメン、チャーハン、それぞれに個性があるというのは発表の文化です。その先に、カレー道、ラーメン道、チャーハン道という無限の進歩をめざす境地があります。

 王様の料理コンテストで優勝しためざしの先に待っているものもまた、めざし道という道の文化なのだと思います。

(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)

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中高一貫校の作文入試は、長さと速さと誤字のなさがポイント as/561.html
森川林 2009/07/19 10:26 


 中高一貫校の作文入試は、長さと速さと誤字のなさがポイントです。

 作文の評価には多くの例外がありますが、一般に、作文の字数と実力との間には、かなり高い相関があります。しかも、中高一貫校の作文入試では、速度が要求されます。学校によっては、30分で800字書くなどという課題のところもあります。大人では、この時間ではほとんどの人が書き上げることができません。そして、800字の作文で誤字が一つもないということも、普通の大人ではほとんどの人ができないと思います。

 では、その三つの対策を述べていきます。

 まず、作文の長さについては、材料をふやしていくことが必要です。そのために、予想される課題について家族で対話をして、ほかの人の体験や感想を聞くということが役に立ちます。また、実際に自分で作文の中に書いたことのある実例や表現は、作文試験に使いやすくなります。材料をふやすためには、何度も書いて、書きなれるることが必要です。

 次に、速度についてです。速度速くするコツは、全体の構成を先に考えることです。これが、言葉の森の指導の特徴です。書きながら考えるのではなく、考えてから書くという書き方をしていきます。

 しかし、考えると言っても、構成に5本も10分も書けるわけにはいきません。課題を見たら、全体の流れをすぐに考え、それを作文用紙の余白にメモとして書きます。そのあと、書いている間は、時どきそのメモに戻りながらほとんどノンストップで書いていきます。したがって、普段の練習でも、消しゴムは極力使わないようにして書きます。考えてから書くという書き方をするためにも、やはり書きなれることが必要になってきます。

 第三に、誤字を少なくすることについてです。作文の評価は、採点者の負担が大きいので、少しでも誤字があった作文はその場でボツという評価がされます。誤字の減点は、最も大きいのです。一ヶ所の誤字は大目に見られることもありますが、二ヶ所誤字があればまず合格は難しくなります。

 しかし、この誤字は、実際に自分で作文を書いてみないと、どういう誤字があるのかわかりません。作文の中に使ってしまう誤字は、普通の漢字の書き取りの練習では直せません。誤字をなくすためには、やはり何度も書いて他の人に指摘してもらう必要があります。一般に、高校生の作文で800字の文章に一ヶ所誤字がある人は、毎週作文を書いても必ず800字で一ヶ所程度、新たな誤字が出てきます。この誤字がなくなるのに、ほぼ1年近くかかります。それぐらい勘違いして覚えている誤字は、自分の力では直しにくいのです。

(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)


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