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教育の骨格としての国語 as/678.html
森川林 2009/11/12 09:54 

 △教室のペット犬、名犬ユメ(7ヶ月)

 国語はいろいろな教科の一つとして考えられています。しかし本当は、国語はOS(オペレーティングシステム)のようなものです。このOSの土台の上に、様々なアプリケーションソフトとしての各教科があるという構造です。
 別の言い方で言えば、国語の本質は哲学です。哲学といっても、専門家が研究する哲学のような狭い意味の学問ではなく、ものの見方、感じ方、考え方の骨格を育てる学問としての哲学です。
 世間では、国語の勉強のこのような本質が誤解されているために、国語の勉強の目指すところがはっきりしていません。例えば、読解の勉強について言うと、物語文、説明文、意見文などの先に古文や漢文があるようなカリキュラムが組まれていることがあります。また、作文について言うと、やはり物語文、説明文、意見文の先にビジネスで使う文書などが位置づけられていることがあります。そうではなく、考える学問としての国語という原点をはっきりさせておく必要があります。

 学校で学ぶ教科の精選も、国語というOSを育てることを中心に行う必要があります。今の時代に役立つアプリケーションソフトは何かという視点で考えると、例えば金融の知識は役立つが漢文の知識は役立たないというような考えが出てきます。そうではなく、考えるための学力を育てる教育として何を優先させるのかということを考えていく必要があるのです。
 国語は、学問のOSとしての性格上、勉強の時間によってあまり差がつかないという特徴を持っています。国語の実力は、勉強の度合いよりも知的生活の度合いに比例しています。これに対して、英語や数学は勉強の度合いに比例しているので、点数の差が大きくなりやすいという特徴を持っています。このために、テストの中で利用しやすい教科として英語や数学のウェイトが高まっています。
 しかし、本当の学力の差は、国語力の差として表れます。その国語の実力を育てる方法を一言で言えば、難読と復読です。


(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)

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頭をよくする日本語を世界の共通語に as/677.html
森川林 2009/11/10 21:21 

 △11月3日文化の日の朝

 未来の世界における日本の役割を考えると、次のようなことがわかります。第一に、軍事力ではアメリカがトップの位置を占め続けるでしょう。第二に、経済力では、工業生産の分野での覇権は次第に中国やインドに移行するでしょう。また、金融の分野では、欧米に一日の長があるという状態が今後も続くでしょう。
 このような中で日本が優位に立てる分野は、知力、技術力、精神力など文化力といわれるもので、この文化力が政治力や経済力に波及する未来というものを考えることができます。

 日本文化のすぐれている点としてよく取り上げられるものに次のようなものがあります。江戸時代の識字率は当時の世界の最高水準の70-80%を達成していました。戦後、世界でもまれな一億総中流化という経済文化状況が生まれました。現在、格差は拡大したと言われながら大衆の知的水準の高さは世界の中でも際立っています。それは例えば、ごみ収集の方法の徹底などというところに表れています。また、世界の先進国の中で最も治安がよいというのも日本の長所としてよく言われるところです。一言で言えば、すぐれた庶民、一般大衆がいるというのが日本文化の特徴なのです。

 この原因は、実は日本語にあります。よく言われる例ですが、日本語の特徴として左脳で自然の音を聞くということが挙げられます。このため日本語では擬声語や擬態語が発達し、自然を人間化して見るという見方が生まれました。この自然の人間化が、自然との一体感や自然を大切にする気持ちを生み出したと考えられます。
 しかしそれ以上に大事なのが、漢字とかなが混在している日本語という特徴です。漢字が表意文字で主に絵として描けるような名詞を表すのに対し、かなは表音文字で主に動きや関係を示す助詞や助動詞を表すという役割分担が日本語では自然に行われています。
 このことは一方では、日本語の複雑さの大きな要因になっています。一つの言葉に音読みと訓読みの両方があり、その音読みと訓読みにもまた多様な読み方があります。例えば「下」という一つの文字でも、「か」「げ」「した」「しも」「さ(がる)」など多くの読み方があります。しかし、他方では、この漢字かな混じりで多様な音読み訓読みという性格が、あとに述べるように日本語のすぐれた特徴にもなっているのです。

 世界中のほとんどの言語は、英語に代表されるような表音文字の言語です。表音文字では、言葉が意味を示さないので、視覚の助けを借りて一目で理解するというようなことが得意ではありません。そのため、表音文字では論理の展開で物事を理解するという方法が主流になりました。
 欧米流の三段論法では、A→BでB→CならばA→Cである、という理解の仕方をします。しかし、視覚の助けを借りられる表意文字の日本語では、A即Cというような見方を一瞬ですることができます。
 「武士道とは死ぬことと見つけたり」(葉隠)というような言い方は、日本人ならば、その意見に対する同意不同意を別にすればそのまま理解することができます。しかし、表音文字の欧米人は、その意見に対して「WHY」という質問をするでしょう。
 デカルトは、「我思う故に我あり」と言いました。葉隠の著者は、「武士道とは」に「WHY」と聞かれても途方に暮れるでしょう。「見つけたり」と言っているものに「WHY」と聞かれても答えようがないからです。しかし、デカルトは、「我思う」に「WHY」と聞かれれば、その理由をこと細かに説明したはずです。その説明が「方法序説」という著書でもあったのです。
 物事を論理の展開を通してでなければ理解できない表音文字に対して、表意文字は物事を視覚的、空間的に一目で理解するという長所を持っています。これが、日本人が、理解力の点で欧米人よりもすぐれていたという一つの背景になっていたのです。
 更に、世界の他の言語に比べて音素数が少ない日本語は同音異義語が多く、耳で話を聞いているときでも常に視覚的に言葉を思い浮かべなければなりません。それが日本人の視覚的発想の訓練にもなりました。言葉そのものではなく、思いやりや察し合いという文脈の中で言葉を理解することが得意なのも、この日本語の特徴によるものだと考えられます。

 では、表意文字の本家である中国語はどうなのでしょうか。中国語は、全部が漢字なので、かなのような表音文字のある日本語に比べて漢字を操作しにくいという面があります。日本語では、助詞や助動詞のかながニュアンスの違いを表します。「国破れて山河あり」は、中国語では「国破山河在」です。これをもっと日本語的に言うならば、「国は破れてしまって山河がある」と詠嘆調に言うこともできますし、「国が破れても山河はある」と意志的に言うこともできます。日本語が、かなという水の上に漢字というタイルを浮かべているような水性の言語だとすると、中国語は、漢字のタイルがびっしりと敷き詰められた土性の言語だと言うことができます。このため、中国語はタイルを操作することが難しく、自由な発想を広げることが日本語に比べて行いにくいのです。このことは、中国語でダジャレというものがあまりないというところにも表れています。日本語は、全部が表意文字の中国語語に比べると、想像力に富んでいるということが特徴になっているのです。
 日本語は、すべてが表意文字の欧米語に比べると理解力の点ですぐれていて、すべて表意文字の中国語に比べると想像力の点ですぐれている。これがこれまでだれも指摘しなかった日本語の秘密です。
 理解力と想像力ですぐれているという日本語の特徴は、逆に言えば、漢字かなまじり文という複雑さと裏腹の関係にあります。漢字かなまじりの複雑さをわかりやすく整理して、日本語を世界の人にとって学びやすい言語にすれば、それは、世界の文化にとって大きな朗報となるに違いありません。


(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)

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