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記事 719番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/25
2010年の抱負―世界の未来と子供の教育 as/719.html
森川林 2009/12/24 02:25 


 アメリカのドル印刷は、いずれ破綻を迎えると言われています。アメリカでは、ドルの崩壊と並行して、ハイパーインフレとデノミが起こる可能性があります。アメリカの国債を大量に保有している日本と中国は、どうなるのでしょうか。そのとき日本と中国は、アメリカのデノミに対して、連鎖的なデノミで対応するというのが一つのシナリオです。この結果、金融工学で作られたバブルは吹き飛び、あとには、傷ついた地道な経済が残る社会が到来します。

 世界中がこのようなバブルの再崩壊に直面しているのに、日本は今、国内の財政赤字の帳尻を合わせることに汲々としているように見えます。日本は、世界の取り組みを上回る大きな勝負に打って出る必要があります。
 そのための条件の一つは、国内の当面の団結です。民主党政権の政策には、外国人参政権の導入など疑問の残る点はありますが、現在すでに民主党政権が存在しているのであれば、その政権に協力していくことが国民のできることです。少なくとも、政策以外のことで政治家を失脚させるような暴走を認めてはならないと思います。また、民主党自身もマニフェストに明記していない法案を闇の法案として通すのではなく、公開の場で論議していく必要があります。そのために大事なことは、インターネットの自由な情報がもっと活用されることです。

 さて、バブル再崩壊後の社会は、どのようになるでしょうか。長い混乱を経て、より人間的でより自給的な社会は来るでしょう。しかし、大事なのはその長い混乱の期間をどう生きるかです。

 アメリカの衰退と入れ替わる形で、中国、インド、ブラジルが台頭すると言われています。中国の台頭の理由は、13億人という人口の需要があることです。これは、インドもブラジルも同様です。しかし、そこで作られる需要は、すでに欧米日の先進国でかつて作られたことがあった過去の需要です。
 テレビ、パソコン、自動車、エアコンなどが、すでに日本で1億人のために作られたことのある商品ならば、それがその後13億人のために作られるというのは、旧時代の仕上げとしての意味しかありません。アメリカに代わって中国が台頭すると言いますが、それは、旧時代の中での覇権の交代に過ぎないのです

 新時代は、新しい創造的な需要によって作られます。旧時代の3Cなどが主導する経済とは異なるもの、それは文化が主導する経済です。ここで連想するのは、江戸時代に育った日本の独特の高度な文化です。歌舞伎、浮世絵、陶磁器、アサガオの栽培、ウズラの飼育など、日本はユニークな文化を閉ざされた島国の中で発達させました。それらの文化を支えたものは、学力と個性を兼ね備えた人材の大衆的な教育でした。

 これまでの時代は、例えば自動車が新しい需要を創造するという時代でした。自動車産業が創造的であった時代には、他社に負けない創造的な技術開発を行い、大きな創造的利益を得ることもできました。しかし、これからの自動車産業は、既存の部品を組み合わせれば作れるようなコモディティ化された商品になりつつあります。ここでは、限界的なぎりぎりの利益で商品が作られるようになります。そのような需要がたとえ13億人分あっても、それは広く薄い利益をかき集める少数の巨大な企業に担われることになるでしょう。それは、創造的な私企業というよりも社会のインフラを担う公企業のようなものになるはずです。

 それに対して、文化の需要は、創造的であればその価値が限りなく高くなる可能性があります。この価値の高い創造する文化を作り出すところが、次の新時代を先導する活力のある地域になります。そこにいちばん近いのが日本です。

 この新時代に向けて意識的に歩みを進めるために必要な第一のことは、文化への投資を促すことです。道路や橋を作るような公共投資ではなく、創造的な文化を奨励する文化オリンピックのようなものに投資する必要があるのです。
 もちろん、建造物への投資であっても、日本の領海に多数のメガフロートを浮かべて日本の領土を広げるというような創造的な投資であれば価値はあります。大事なことは、これまでにない予測もつかないような創造的な投資を行うことです。それが財政投資を意味あるものにします。

 文化オリンピックにおける金メダルのような呼び水によって、これから無数の才能が開花していけば、文化的な創造は次第に高度化していきます。そして、それらはやがて本物の創造文化として確立していきます。
 これは例えば日本のアニメ文化の確立に見られるのと同じパターンです。日本のアニメは、すでに芸術の一つのジャンルを形成しています。同じようなことがこれから、植物の栽培、動物の飼育、新しい芸術の創造など、今の社会にまだ生まれていない分野で続々と生まれる可能性があります。これがバブルの崩壊した旧時代のあとに来る新時代のイメージです。

 とすると、今緊急に行う第二のことは、創造性を育てる教育を広げていくことです。これからの知識産業時代における創造性は、学力の裏づけのある創造性でなければなりません。豊かな知識と技能、優れた理解力、そして個性的な創造性を育てるような教育がこれから求められてくるのです。これは、これまでの競争に勝つための教育ではなく、発表する喜びを感じるための教育です。

 2010年の言葉の森の作文指導は、この学力と創造性を育てる教育に向けて作り上げていきたいと思っています。


(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)

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記事 718番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/25
褒める教育というよりも認める教育 as/718.html
森川林 2009/12/23 10:24 



 天外伺朗(てんげしろう)さんの「GNH」という本を読みました。GNHとはグロス ナショナル ハッピネス(国民総幸福度)のことです。その中に、外発的動機ではなく内発的動機で学ぶ(又は遊ぶ)ことの大切さが書かれていました。

 外発的動機の中には、競争したり強制したりすること以外に「褒める」ことも含まれます。褒めて、親や先生の求める方向に誘導するというのも、子供にとっては外発的動機で学ぶことなのです。


 言葉の森では、生徒を「褒める」ことの大切さを述べています。この「褒める」は、天外さんの本に書いてある「褒める」と言葉は同じですが、中身がちょっと違います。

 よく、生徒のお母さんに、「もっと『褒めて』(A)あげてください」と言うと、「でも、『褒める』(B)ところがないときはどうするんですか」と聞かれることがあります。

 Aの「褒める」は、「認めてあげる」という意味の「褒める」です。Bの「褒める」は、いいことをした報酬としての「褒める」です。

 よくできたから褒めるのであればだれでもやっています。しかし、その裏側には、あまりできないから叱るという発想があります。できているから褒めるのではなく、できていなくても褒める、つまりその子がそこにいることをそのままでいいと認めてあげることが本当の「褒める」なのです。


 人間は、自分についてはどんなことをしていても、その自分を認めています。しかし、他人に対しては「○○してほしい」と要求し、その要求が満たされないと認めてあげることができないというところがあります。そうではなく、他人に対しても、自分を認めているのと同じように認めてあげることが褒めることなのです。


 生徒の作文に関して言うと、先生の言ったことができていればもちろん褒めます。しかし、全然できていなくても褒めます。

 書いている途中に近くを通りかかり、「おっ、もうそんなに書いたんだ」というのも褒め言葉です。それがただ2、3行書いている場合でもそうです。

 「今日は元気そうだね」というのも褒め言葉です。

 「字をていねいに書いているね」でも「おもしろそうな題名だね」でも、何でもいいのです。しかし、それは、字がていねいでなければ注意するとか、つまらない題名なら注意するとかいうことの反対にある褒め言葉ではありません。「君がそこにそうしていること自体が、先生は(又はお母さんは)すごくうれしいよ」というメッセージとしての褒め言葉なのです。


 では、そういう褒め言葉だけで、みんな上達するのでしょうか。

 そのとおりです。で終わってしまってもいいのですが(笑)、それではものたりないので、もう少し付け加えると、褒めることと並行してやっていくことは、力をつける工夫をすることです。言葉の森の作文指導の場合、それは読書や暗唱の自習です。褒めることと自習をさせることの両方を並行してやっていけば、勉強の仕方としては完璧です。

 人間には、もともとよくなりたいという内的な動機があります。その内的な動機を発揮させるためには、その子をそのまま認めてあげて、更に実行しやすい方法を教えてあげればいいということなのです。


 では、自習をさせるということは強制にはならないのか、というややこしい話が出てくる可能性があるので、そのことに関して説明すると、一つは、躾に関しては強制でも強要でも何でもありなのです。朝起きたらあいさつするとか、ご飯を食べるときはテレビは見ないとか、それぞれの家庭で決めたルールは強制しても守らせなければなりません。しかし、それは決めたルールを守るということですから、家庭によっては食事はテレビを見ながら楽しく食べるというルールにしているところもあるかもしれません。その場合は、それでいいのです。大事なことは、人間的な生活をするために決めたことは厳しく守らせるということです。「躾は厳しく、勉強(の結果としての成績について)は甘く」というのが、家庭教育で最も大切な原則です。


 もう一つは、子供の様子を親が自分の目でよく見ていれば、何が必要で何が必要でないかは自ずからわかるということです。そうすれば、それが必要な強制か不要な強制かも自然にわかってきます。

 ときどき、保護者の方からの相談で、「学校の先生にこう言われたのですが」「テストの成績がこうだったのですが」「作文の項目ができないのですが」「宿題が多くて大変なのですが」などと聞かれることがあります。先生もテストも宿題も勉強の目標も、すべて子供の外側にあるものです。そういう外側の枠だけを見て、肝心の子供自身を見ずにその外側の枠に子供をあてはめようとしている人が多いのです。

 親が子供をよく見ていれば、「先生にどう言われても、成績がどうでも、宿題なんてできなくて、あなたは今のままで大丈夫」と自信をもって言えるようになります。また逆に、「だれからもどこからも言われないけど、このことに関してはあなたは絶対にこうしなきゃだめ」ということも自信をもって言えるようになります。その自信は、その子をよく見ることから始まるのです。

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記事 717番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/25
家庭でできる作文指導とは as/717.html
森川林 2009/12/22 14:52 


 「家庭でできる作文指導」ということを考えると、何度考えても出てくる結論は同じです。「家庭では、作文指導はしない方がいい」です。

 作文は、他の教科よりも教える側の個性が強く出てきます。算数や数学で子供を教えていて、子供がなかなか理解しないのでつい怒ってしまったというようなことが一度でもある人は、作文の指導はまずしない方がいいと思います。


 といっても、作文の指導は、最初の数回だけに限ればだれでも結構うまくできる面があります。

 ちょっとしたアドバイス、例えば、「会話を入れる」「書き出しを工夫する」「擬声語や擬態語を使ってみる」「結びを工夫する」などテクニックを教えて、そのとおりに子供が書いてそれなりに上手に書けると、うまく教えられるように思います。

 しかし、これが一ヶ月、二ヶ月と続くと、途中で教える側にも教わる側にも限界が出てきます。教える側は、新しいテクニックを教えることがなくなるので、次第に重箱の隅をつつくような「直す」アドバイスを始めるようになります。子供も、最初はものめずらしさで書いていたのが、次第に同じパターンに飽きてだんだんやる気がなくなってきます。その上に、「直す」指導ですから、そのうちに書くこと自体が嫌になってきます。


 作文指導に熱心な先生に教わったクラスほど、作文嫌いの子が増えるという例があります。直す方は意気揚々と直すのですが、直される方はなぜ直されるのかわからない、そして、自分とは違う上手な子の作文ばかりが褒められる、となれば、やる気がなくならない方がおかしいのです。


 では、家庭では何をしたらいいのでしょうか。

 作文については、「教える」「直す」という発想で取り組むと、ほとんどの場合「教えすぎ」「直しすぎ」になり、教える方もくたびれ、教わる方も作文嫌いになります。

 作文の力をつけるいちばん大事な方法は、「褒める」「読む力をつける」の二つなのです。


 「褒める」はある意味で単純です。どんな文章を書いても、誤字があっても、ひたすらいいところを見て褒めてあげることです。実は、これが自分の子供になるとなかなか難しく、大体の親は、真っ先に間違いを直そうとします。間違いは、そんなに焦って直さなくていいのです。なぜ間違えたかというと、これまでの読む経験が浅いために間違って覚えているのですから、書いた結果を直すのではなく、読む経験を増やす方が先なのです。

 作文は、植物で言えば「花」のようなものです。大人はつい「花」という結果だけを見て、その「花」をどうにかしたいと考えがちですが、実はその花が咲く前の葉の茂り方、根の張り方にいちばんの問題があるのです。


 では、読む力をつけるためには、どうしたらいいのでしょうか。

 一つは、読書です。毎日読書をしている子は、いざ作文を書くというときに、その読書で身につけた語彙や表現を自然に使うことができます。ですから、上達も早いのです。

 小学校4年生までは、学校の宿題や塾の勉強などよりも優先して読書に取り組むことが必要です。読書によって読む力をつけた子は、勉強を始めるとその吸収力が違います。小学4年生までの勉強などは、読書力さえあればいつでも簡単に取り戻せます。


 と言っても、読書の欠点は、あまりに読書というものの幅が広く、その結果にあてがないように見えることです。

 そこで、読書と並行して行う家庭学習として、言葉の森では音読ということをすすめてきました。

 ところが、この音読を学校などでも行うようになると、弊害がだんだんと出てきました。音読のいちばんの欠点は、子供が飽きるということです。音読は、同じものを繰り返し読むことに意義がありますが、子供が飽きないように、次々と新しい文章を音読させるようになると、結局ただ声を出して読んでいるだけで音読の効果は何もありません。それぐらいなら、黙読でたくさん読んだ方がずっといいのです。


 そこで、言葉の森では音読ではなく暗唱をするようにしました。

 暗唱は、音読と比べて達成感があります。しかし、これもやり方を工夫しないと、子供に負担を与えるだけの結果になります。暗唱のいちばんの問題点は、今の親や先生の世代が自分自身で子供時代に何かを暗唱したという経験がないために、子供に暗唱をさせようとすると見当違いの無理強いをしてしまうことがあることです。

(私の父はもう90近い年齢ですが、先日話のついでに、「今教室で子供たちに暗唱をさせているんだ」と言うと、「それはいい」というようなことを言っていました。たぶん、昔の人は、勉強の仕方の一つとして暗唱ということをごく自然に行っていたので、その仕方も無理がなかったのだと思います)


 暗唱の方法は、言葉の森が考案した暗唱用紙を使う方法がいちばんやりやすいと思います。この方法ならば、紙1枚だけで簡単に暗唱の回数を数えることができます。1日10分の暗唱で、1ヶ月で1000字近い文章をすらすら暗唱できるようになります。

 年齢でいうと、小学校2、3年生ぐらいまでは、文章を数十回音読するだけですぐに暗唱ができるようになります。小学校4、5年生になると、大人と同じように理屈で覚えようとするのでなかなかスムーズに暗唱できなくなります。しかし、それでも回数を繰り返すことでだれでもできるようになるというのが暗唱という勉強法の長所です。

 子供に暗唱をさせる場合は、親も自分の好きな文章を選んで一緒に暗唱をしてみるといいと思います。大人が暗唱の勉強をすると、子供の暗唱とはまた違って、発想が豊かになってくる面があります。これは、実際に体験してみると実感できると思います。


 さて、小学生までは、読書や暗唱を中心に読むことに力を入れていけばいいのですが、中学生や高校生になると、子供自身が作文を評価してほしくなると思います。

 今の教育のいちばんの問題は、文章を書くことがいちばん要求される中学生、高校生のころに文章を書く勉強がなくなることです。その理由は、先生が文章を評価する時間がとれなくなるからです。試みに、高校生が何十人も一生懸命書いた文章を評価する仕事を想像してみるとわかると思います。とても日常的にそういう仕事はできないとわかるはずです。

 では、どうしたらいいかというと、一つの鍵は、文章の自動採点ソフトを使う方法です。言葉の森が開発した作文小論文自動採点ソフト「森リン」は、小論文の上手さを数値で評価します。日本ではまだ文章採点ソフトを中学や高校の作文小論文指導に使っているところはないようですが、これからこういう勉強法がもっと取り入れられるようになると思います。

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家庭で教える作文(55) 

記事 716番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/25
森リンで10人中9人が作文力アップ as/716.html
森川林 2009/12/21 10:37 


 9月から生徒の清書を自動採点ソフト「森リン」で採点して表示しています。
 これは、父母アンケートで、「作文力がどのくらい向上しているか知りたい」というご要望があったためです。

 11月の清書について、各学年の森リン点が1位の生徒(その生徒がまだ1回しか森リン点を出していない場合はその次の順位の生徒)の点数推移グラフを見てみました。
 その結果、10人中9人の生徒の作文力が向上していました。また点数が低下していた生徒についても、9月から11月の成績に限って見てみると、やはり作文力が向上していました。

 森リンの点数における作文力の向上は、全生徒を平均すると年間2ポイントぐらいですから、短期間ではなかなか文章力の上達を実感しにくいと思います。しかし、これらのグラフを見ていただくとわかるように、真面目に勉強している子は作文力が確実に向上しています。

 特に作文力の向上と相関が高いのが素材語彙の点数です。
 これは、作文に書く語彙の種類が増えていることを示しています。

※森リン(もりりん)は、言葉の森が開発した作文小論文の自動採点ソフトで、人間の評価との相関が高いことで知られています。

▽小1の4位の生徒(グラフの赤い折れ線が総合点。以下同じ)

▽小2の1位の生徒

▽小3の1位の生徒

▽小4の1位の生徒

▽小5の1位の生徒

▽小6の1位の生徒

▽中1の1位の生徒

▽中2の1位の生徒

▽中3の1位の生徒

▽高の1位の生徒


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森リン(103) 

記事 715番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/25
森リン大賞(作品続き) as/715.html
森川林 2009/12/20 06:31 

 昨日の記事の続きです。


11月の森リン大賞(中2の部79人中)

玉露の語り
おむふ

 姿を変えぬものが世にあるであろうか。朝、露草に淡くついていたはかなげな玉露も昼になり、陽光が強く照る刻限となるとどうだろうか。澄んだ灯明のごとき玉露はその名残すら残さず今そこに構えているのは青々とした太陽の息吹である。空のおぼろ月も、香炉の霞のような香りもいずれにせよ美しいとされるものはおぼつかずはかなげである。さらには、人の織り成した産物などにおいてはもはや幼き文鳥のよう。いくら飛べたといえどももろくはかなきものであろう。流行もまた同様のものなのではなかろうか。ちょっとした苗からたちどころにあらわれ道化師のようにひょうきんに広がり世に新参する。関心という富をおそろしくたくわえたいわば関心の金満家。そうして実った流行という穂とてこれまたはかないものである。風に煽られそよぐうちに気づいたら朽ち果て滅んでゆく。後にあるのは夜気のようなむなしき気。元来からこの穂にはなかみなどなかったのだ。関心というかりそめの想いであろう。 これぞ流行の行く末である。幾度もこの流行は吹き上がり、燃えに燃え灰となったのだ。本といったものも同じなのであろうか。もちろんそうであるが一口にそうともいえないのだ。古典というものがある。

 ドストエフスキー、ファーブルだれもが一度は必ず耳にしたことがあるだろう。こういった古典こそ良きものである。古典は古いものといった意味ではない。昔から多くの人からの人気を博し長い間したしまれてきたものである。それ故、中身が豊穣につまった珠玉のものである。流行が移り行く川ならば古典はそのかわの源泉の清水とでもいおうか。その上流行をおってばかりではならないだろう。こういった話がある。星新一のものだ。ある新しい物好きな男がいた。彼はたいへんな財産家でもあり新しいものが作り出されたとなるとすぐさまとびついていた。中に入れるテレビ、などなど次々に取り入れていたのだ。そしてその集めた新しいものを自慢するのがなによりの生きがいだったのだ。そんな中でも彼はある一つに飛びついた。人を冷凍保存することによりはるか未来までその人を保存することができるというものである。いずれ、時がたてばこの冷凍マシンから出してもらい当人にとっては未来へ来たようなもの。彼はこれまたすぐさま飛びつき早速そのマシンに入ったのだ。そしてはるか未来にたどりついたのだ。だがそこは文明もおそろしく進んでいる。彼の生きがいである自慢がなにひとつできないのだ。それから何日か未来文明を彼が少し知った後、自分の後に冷凍マシンに入った人たちが今目覚めたという一報を耳にした。彼らにならこの未来文明を知っているということを自慢できるだろう。そうたかをくくっていたがこれまた失敗である。彼の入った冷凍マシンは彼が入った後改良され記憶装置といったものがついたのだ。それは冷凍マシンに入った人が目覚めた後時代に立ち遅れないように随時文明や世界の動きを眠っている間にも脳に送り込むというものである。すなわち彼はこの世で最も遅れた人となってしまったわけだ。 ここにあるようにすぐさま流行に飛びつくというのもあまり良いことではない。

 だがこういったことわざがある。流れる水は腐らぬ。あまりに古典にこだわっていては感受性が腐ってしまうであろう。流行のものにも多大な価値があるだろう。いわば古典はふるいしきたりである。あまりに良質なものを求めていては流行の新たな世界観に目を向けることはできないだろう。その上流行のものというのは人をつなぐ潤滑油ともなりえる。流行の話を元に会話が広がったりと共通の話題をもつことができるだろう。古典ではだれもが知っているというのもごくわずかである。流行なら時代時代に様々なことをつくりあげていけるのだ。

 今古典と流行のものをどちらが読むに値するか考えている自分が急にあほらしく思われてきた。自分はどうかしていたのだろうか。古典にも、流行にも述べてきたように多くの良さがある。だが本来選択すべきは自分が気にいったものなのではなかろうか。流行にせよ古典にせよ自分の気に入ったものを読むのがなによりだろう。それこそが真に心の泉となるはずだ。

順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1玉露の語りおむふ931713768310084
2交話機能の使い方音楽大好き少年85129753647589
3人間の会話サニー84110254667687
4古典は新しい!いちごサクラ82120952596890
5適切な保護や管理ハーマイオニー811447511009580
6存在するもののつながり嵐ちゃん81189754698783
7生活とのバランス夏みかん8197951687289
8心の交流と本題ショウ81101552606793
9保護を適切に使用しよう。コーギー79111643658283
10言葉の役割ポンピー79151239567692



11月の森リン大賞(中3の部43人中)

人生の先輩
マロン

 昔話には類話というものがあり,類話の多様性は人生の問題の解決方法の多様性を示している。人によっていろいろな生き方があり,それはそれなりに面白いものだ,と昔話の知恵は我々に語りかけてくるのである。

 私は昔話からいろいろなことを学べるような生き方をしたい。「かさこじぞう」という昔話がある。売れ残った傘をおじいさんが地蔵にかけてあげる話だが,これは思いやり,優しさの大切さを示している。このように昔話は,人生において必要なことをたくさん含んでいるのだ。

 また,日本の昔話によく登場するお年寄りの話は,人生のヒントになるようなものばかりである。「亀の甲より年の功」というように長年の経験を尊び,昔話を生かしていきたい。

 そのためには,まず昔話から人生の教訓を読み取るように心がけることが挙げられる。

 昔話は小さな子どもが読む,幼稚なものだと思われがちであるが,実はそうではない。昔話は一つの教科書であると私は思う。私は,「桃太郎」では仲間の大切さを,「赤いくつ」では謙虚な気持ちの大切さを学んだ。このように私たちは物語を読んでいくことによって,知らず知らずのうちに道徳的なことが身についてくるのである。だから昔話はもっと見直されるべきである。

 日本では最近,昔話を広める動きも見られる。例えば,テレビアニメやバラエティー番組でも昔話は取り上げられているし,お菓子のおまけで小さな絵本がついていたりもする。せっかくのこうした動きを無駄にするのではなく,子どもも大人もそれを生かしていくべきではないだろうか。

 また,昔話だけでなく,価値がないと考えられがちの古いものにも多くの意味がある。やはり,日本の伝統や知恵を身につけることは日本人として生きていくうえでの基本であると思う。その地方でつくられたものを売る「道の駅」では,お年寄りの作った和菓子が人気である。海外で学んだパテシェの作るケーキもおいしいが,伝統のあるお団子は,懐かしい味がして食べると落ち着く気がする。私は,昔話から,またお年寄から学ぶことは大切であり,先の代まで受け継いでいくべきだと思った。

 第ニの方法としては,昔話の文化をしっかり保存していくことが挙げられる。近年,日本は小家族化が進み,お年寄と一緒に暮らしていない若者が増えている。これでは伝統が伝わりづらい。だから,学校や社会が,昔のことを生かせるような仕組みを作っていくことが必要である。私の小学校には茶道や詩吟の先生が来て教えてくれたし,通っていた珠算教室では,休み時間に先生がお手玉やけんだまで一緒に遊んでくれた。このように学校や会社も文化,技術の継承を積極的に取り入れるべきである。

 「古代への情熱」の著者であり,ドイツの考古学者のシュリーマンは,子どもの頃に絵本で読んだトロイ戦争を信じ,独力でトロイの都や遺跡を発掘した。私たちも子どもの頃読んだ昔話やそこから学んだことを忘れてはならない。

 確かに現代の最新の知識や技術を生かすことは大事である。医学などはそうでないと全く進歩しないし,流行の本を読むことは楽しく,新しいものは合理的で便利である。しかし一つ一つの昔話,お年寄りの話にはそれぞれ伝統と昔ながらの知恵,メッセージが詰まっている。「読書は人間を豊かにし,討議は人間を役立つようにし,文章を書くことは人間を正確にする」という言葉があるように,私たちはもっと昔話から生き方を学んでいくべきではないだろうか。昔話は私たちの人生における先輩であり,昔話の数だけ人生があるのである。

順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1人生の先輩マロン89146459798590
2環境を守る前に☆shooting st8690169788692
3自分の生きる意味きへあ83110253636990
4デジタル的、アナログ的野球小僧81105557919983
5模倣ゆうちゃり~81104246727293
6清書うずら79105749828987
7昔話は道徳の本ゆりん7991747607186
8思い出の引き立て役とまと7898447596487
9才能の数ちこちこ7785947616984
10まねちな7576946596890



11月の森リン大賞(高1高2高3社の部120人中)

方法への抵抗
PINK

 レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンというバンドは、あらゆる権力や制度に対して抵抗することをメッセージとしている一軒古臭いロックの定義を持ち続けているロックバンドだ。戦う相手は権力の末端で起こる暴力や、組織化された内部の理不尽な事態であり、またそれらを「機械」と名づけているのだ。ヴァレリーは「方法」が支配し偉大な個性は不要になると書いている。「方法」は誰にとっても反復不可能なものであり、その「方法」さえ用いれば、同じような結果に辿り着くのだ。我々の細部まで浸透しきった機械が、我々から個性を剥奪する方法なのだ。我々は、方法に抵抗し個体性を持ち続けるべきだ。

 そのための方法として第一に、いわゆるマニュアルに頼らないことだ。たいていどんな物にも事にも、「取扱説明書」或いは「見本」たる物がついてくる。しかし、その手本や見本に頼りすぎると、自由に発想を広げ、試していく応用力や創造力が養われなくなってしまう。勉強でも、教科書に書いてある通りの解法を使えば問題が解けるのは当たり前だが、自分の脳味噌をフルに使用し、捻りに捻って考え出した解き方を実践してみるほうが後々自分の力となり返ってくるに違いない。そもそも、とりあえず数学の公式を覚えて当てはめてみたら合っていた、などという思考自体が頼り過ぎている。社会に出れば、公式に当てはまることばかりではないのだ。時には自分で考えて行動したり、計画を立てなければならない場合もあるだろう。マニュアルはあってないようなもので、個々に合わせて応用して(あるいは変えて)いかなければならない。料理においても、レシピ本に載っていた通りに作れば確実な味は作り出せるかもしれないが、いつまでたってもその一つ上の段階へ進むことが出来ない。「我が家の味」であったり、コクがあるいつもと違った美味しさなど、自力で辿り着く味があるはずだ。今でこそ自分が考えたレシピをインターネット上で公開するサービス等も存在するが、「オリジナル」を作り出す努力も必要なのだ。お手本にもたれ掛ったままでは、いつまで経っても成長が見られないのは言うまでも無いだろう。

 第二の方法として、正しい結果よりも、そこに辿り着くまでの過程を重要視する社会を築くことだ。それが例え偶然であれ、結果が出ればそれで良しとする今までの社会の風潮を変えていかなければならない。世の中は結果を評価することに慣れすぎて、それまでの試行錯誤した過程を評価することにはなんら関心を抱いていない。競争化社会が当たり前の世の中はいわゆる「結果主義」なのである。大学受験でも、某有名国立大学に合格すれば賞賛され、失敗すれば慰められる。その「合格」という目標に向かって努力した姿勢は評価される割合が少ないのである。不合格は不合格で、いくらその人が「頑張りました」と言っても結果が変わってくるわけではない。だが、人間として大きく成長できたことに間違いは無いだろう。その成長を正当に受け止め、評価し合える社会にしていかなければならない。歴史に名を残す偉大な発明家エジソンは、「1+1はなぜ2になるのか」という疑問を持ったが、自分なりに考える生徒や若者を大事にする社会を作っていくことが必要なのだ。

 確かに、今までの知識を活用していく事も効率を上げることに関しては重要かもしれない。結果を出すことも、企業や受験生らにとっては悩ましい問題でもあり目標でもあるだろう。しかし、我々は、ゴールに到達するために努力するのではなく、ゴールまでのプロセスにこそ真の目標があるのだ。(自作名言)方法に飲まれて個性を見失うくらいなら、自分らしさを大事にして生きていくほうがよっぽど人間らしい生き方なのだと私は思う。

順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1方法への抵抗PINK91153263798692
2その広告はターミネーター88137758697895
3謙虚いすも87134266677390
4見せかけの道徳心キューピー86145154698292
5お家に仕えよカエル84105962617496
6古典と流行しんご83105751707690
7経験は最良の教師おめか82111952667292
8井から一歩飛び出せピカチュウ8092349747984
9昔話の研究を(感)まいう7914005210211187
10創造することばコッペパン79100648596887



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森リン(103) 

記事 713番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/25
11月の森リン大賞(作品) as/713.html
森川林 2009/12/20 06:12 

 昨日の記事の続きです。


11月の森リン大賞(小1の部57人中)
順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1やぎのほんやさんみりんまりん61477394350100
2おしゃれロボットのクッちゃんきふゆ6041241465687
3楽しかったどんぐりひろいきとは6033538435489
4ひみつきちきほや6025539435389
5鶴見緑地にえんそくききら6033139465286
6ぶんかさいおはなちゃん5940243465274
7やっとみつかった私のだいじなサブバックきとめ5935638475280
8秋だ!うれしいな、ピョーン!とらたいがくん5943939464979
9がっこうであそんだこときたと5932942434881
10くじらぐもの親子みるく5952438474887



11月の森リン大賞(小2の部94人中)
順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1ハロウィンパーティーパルキア6847344556490
2山のぼりに行ったことアルセウス6662347446787
3ぼくのコレクションともひ6684641466483
4アンディが休んだこときけひ6644138476190
5わたしとてつぼうひなた6661442465990
6楽しかった全校遠足タカ6576741506680
7おまつりきそお6546038466390
8じきゅう走大会の練習ぷっくりん6539741476180
9みかこちゃんおゆな6563342445989
10楽しかった学芸会なかず6539942475890



11月の森リン大賞(小3の部129人中)
順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1びっくりとドキドキの連続!緊張した宇宙飛行士体験ダイヤモンド7880146818893
2おつかいに行ったよまめっち7194043506589
3大切な中身ていへ7075848485595
4プルプルたまごまきしろみ6978138457684
5私の先生はスーパーマンスヌーピー6969046516479
6買い物はおおさわぎパルキア69152942486487
7おもしろいたまごやき作りなっち6954042486293
8まい子を見つけたおかいものみゃんこ6990441476181
9いたずら大好きねいろ6989647476184
10買い物楽しいなみいこ6979941486089



11月の森リン大賞(小4の部129人中)
順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1めずらしい都電アルセウス7866347749086
2お母さんありがとうネッシー7878062548984
3いつものバスアンピッピ7777743648781
4電車の旅くっちゃん7668142658890
5夏の太陽の味リラックマ76114342498195
6ハプニングがよく起こるBBQシャーロック・ホームズ7680544617489
7一人だけの日帰り旅行まーりん7699844637293
8ジャポニカとインディカみっくまっく7678547557189
9かしきりバスとろ線バスかこちゃん7589841517792
10お米ばんざい!はなはな7470746558083



11月の森リン大賞(小5の部140人中)

親子の好きな本
けん道少年

読書はまず、学問にとっても必要である。本を読むことによって得られる利益は、自分自身では経験することのできない経験、それを教えられることである。例えばロビンソン・クルーソーのように、無人島で一人ぼっちになったとき、どういう気持ちになり、どういう行動をするのかがわかる。さらに、ワシントンの伝記を読めば、誠実に世の中のためにつくそうとした人の喜びと苦しみがわかる。

僕もこの話のように、好きな本がある。その本は、『ハリーポッター』である。その本は最初は自分が魔法使いだと何も知らなかったハリー・ポッターがホグワーツという魔法学校で魔法を学び、最後には自分の両親を殺したヴォルデモート卿(通称:例のあの人)を倒すという話である。この本で面白いのは、魔法使いの決闘で、呪文で戦うところだ。

『ハリー・ポッター』などのSF(サイエンスフィクションの略)作品で好きな作品は、『スターウォーズ』『ジュラッシクパーク』『20世紀少年』などである。『ハリーポッター』シリーズで面白かった作品は、『不死鳥の騎士団』だ。葦編三絶とはいかないが、もう5回以上はとっくに読んでいる。でも、一番面白いのは、やはり最新作『死の秘宝』である。買っておいてよかったと思う時は、発売のした日から数日たち、図書館に行って『死の秘宝』の予約リストを調べてみると、ズラ~と、途方もない人数がならんでいたのを見たときだ。本を買っていなければ、二ヶ月ぐらい待ち、一週間で返すというようなことになっていただろう。

僕が好きな本は、たいてい父が買ったか、図書館で借りてきたものである。その中に、『風のひみつ基地』もある。『20世紀少年』は、映画化したときに兄が、

「あれ、みんな読んでるで、買おうや。」

と言ったのが始まりで、とても面白く、今では13巻まで持っている。父はよく歴史の本を買ってくるので、父が好きな本は歴史かと思えば、「子どものなだめ方」という本も借りてくる。でも両方おなじなのは、ハリー・ポッターのようにぶ厚く、字が細かく読み応えのある本だということだ。だからそれがあてはまる本が、父は好きなのだと思う。(僕に借りてくる本もぶ厚い)

父と僕つまり親子では好きな本がだいたい同じということが分かった。好きな本を多く持っていれば、社会に役立つと思うので、図書館からいろいろ借りてこようと思う。

順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1親子の好きな本けん道少年7998147818786
2科学的態度の出発点まかじろう79111844608587
3木肌にふれて遊ぶことの大切さサスケ7997346587486
4私の生活に科学的態度をみいちゃん7998446597090
5科学的態度 けん79108951587087
6とろける甘さしもん7878947708381
7最高な気分あんこ78105146496895
8「科学的態度」を読んでの感想文ドレミ7890453546889
9自分の好きな本とはゆうと7784146637295
10登りぼうの思い出ふっくー7797546527181



11月の森リン大賞(小6の部144人中)

写真のいらないアルバム
闇の女帝

それは、うっすらと埃が積もっていた。ふう~と息を吐くとやっと表紙が読めた。どうやら、母が日本語を勉強する時に使用した辞典のようである。出版1974年。随分古いものである。紙は変色していて折り曲げた後が多数あった。匂いはちょっと黴臭くあまり好きになれない感じだった。中をパラパラとみてみると、日本語の横に中国語で意味と例文が記されてあり、いかにも私を使ってと訴えているようであった。背表紙はぼろぼろで、書いてある文字はもう薄れて何が書いてあったか分からないほどであった。しかし、この古ぼけた本の威厳はちっとも薄れておらず、むしろ逆に威厳が増しているような気がした。自分より年上の物と対面するのは案外感激するものであるが、この辞書だけは違った。自分の方がちっぽけに思えてくる。何というのだろうか、小さい辞書なのに手に乗せるとずっしりとした重みは、今まで私が送ってきた12年の人生の重みを遥かにしのぐものだった。様々な時代の中で使われたこの辞書の激動の人生を考えると、非常に自分が縮小してしまう。

 昔、中国ではとても貧しく辞書を買うお金もなかった、そのため、辞書は代々その家系に伝わる非常に重要なものだったのである。この辞書は、母方の祖父や祖母なども触れて、実際に使ったいわば宝だったのである。祖父や祖母から母へ受け継がれた辞書は、母に知恵を捧げ、母が日本で日本人とコミュニケーションをとれるようにしてくれた。そう思うと、辞書を抱きしめて頬ずりしたくなった。この辞書の匂いも折れているところもみんな好きになれた。そしてこの辞書の匂いも折れているところもみんな好きになった。そしてこの辞書はいずれ私の物になるだろう。今度、私が中国語を学ぶときに役立つであろう。この辞書は未来の先生である。大事にしなければと思った。

 父にも古いものがある。学生時代につかった英語辞典である。父は英語を自由自在に操れるわけではないが、きっと学生時代は大いに役立ったに違いない、そして母と同じように知恵を授けたに違いない。私にも古いものがある。生まれたときに被った、生年月日がしるされている帽子である。今では私の小指と薬指しか入らないほど小さい。しかし、この帽子が私が生まれたという証なのである。

 古いものは、あるときふっと現れると手に取った私たちにさまざまな思い出を思い出させてくれる。今回も母は辞書を見て懐かしがっていた。人間にとって、古いものは写真のないアルバムである。

 もう一度、抱きしめて私は辞書を本棚に戻した。

順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1写真のいらないアルバム闇の女帝86105064708386
2自然と人間きちこ85102562768983
3自然の裏にご注意マーブルチョコレート81131252809383
4楽しい木登りゼウス81116947536584
5世界を救うにはあまぐり8094447808489
6古い物のあり方なつみかん80149949607981
7わがままはおやめ!さもないと…ことのは791639518810592
8自然の美しさサッカー少年79115642759490
9里山からのメッセージこんぺいとう79113147629386
10登ってくつろぐピルル79126247609287



11月の森リン大賞(中1の部75人中)

ミミズがある生態系にを読んで
文鳥

 ダーウィンは、ミミズの研究に基づき、ミミズが有機土壌の形成に大きな貢献していると述べた。これは、ミミズが地中を絶え間なく動き回ることで土の中に穴が出来、水はけや空気の通りが良くなるなどの利点から言われている。また、有吉佐和子は小説、『複合汚染』を執筆し、人間が自然を痛めつけた結果、自分達にひどい影響が及んでいる現状を詳しく書いている。ロンドンではミミズを利用した生ゴミの処理を行おうとしている。

 小さい生物にもそれ相応の役割があり、また、なくてはならないものだと考える。

 よく、小説を書いていて思うことがある。登場人物の中でも、主要キャラ、準主要キャラ、そしてサブキャラと分けることが出来る。主要キャラとは主人公、あるいは師弟愛のようなものを書くのなら主人公の師匠、というような設定になる。準主要キャラとは主人公のクラスメート、RPGのようなものならば主人公のパーティーのメンバー、あるいはラスボス(最後に出てくる強いモンスター、あるいはラストボスの略)といったところだろうか。そして、サブキャラとは過程で出てくる雑魚モンスターや村人Aといったような役である。RPG物の小説を書くと、このサブキャラがかなり重要になる。なぜなら、雑魚モンスターがいなければパーティーのレベルはあがらない。そもそも、その小説自体にスリルや緊迫感がなくなる。ラスボスが出てくるまで、ヤッホホトゥラララの世界といのはかなりほのぼのとした冒険小説である。雑魚モンスターがでてきて、

「うあー!!こいつ、何気につえええ!!!」

とか、

「うああああ!?戦闘不能?!回復魔法やって・・・!!」

とか

「ははっ弱いぜ!!大したことねえな、ふはははははは!!」

とか言っている所をフハハハ(とは言わない)とラスボスが出現するからこそ、RPG小説、あるいはゲームの面白さはある。村人Aもパーティーにヒントを与えてくれる重要な役職である。とどのつまり、どのキャラも大事な役であり、なくてはならない存在なのである。どんなに出るページが少なかろうが、セリフが少なかろうが、勇者に10秒で叩き切られるようなモンスターだろうが関係はない。全てが重要キャラである。その中の話の中心となるのが主要キャラというだけの話なのだ。

 また、小さな変化がこれからの運命を大きく左右するターニングポイントになり得る事も多い。

 地球の表面温度はこの100年間で摂氏およそ0.4℃から0.8度ち0.4℃上昇している。0.4℃という数値は、はっきり言ってそれほどたいした数値ではないと思う人もいるかもしれない。しかし、200年後には1.2℃、300年後には1.6℃・・・となる。おそらく今の地球は昔よりも温暖化の進行も早くなっているのでそれほど遠い未来でもないかもしれない。もしかしたら、私達が生きている間に地球は窮地に陥るかもしれない。そう考えると、小さな変化も無下にはできない。

 確かに、主要キャラや人物はなくてはならない存在であり、いなければ物語は進まない。しかし、それを支えているのは出番が無いキャラの縁の下の力持ちだということを忘れてはいけない。国も、総理大臣だけでは成り立たない。それについてくる民、つまり国民がいなければ成り立たないのだ。

 『雑草はまだその美点を発見されていない植物だ』という名言があるが、小さい者には小さい者なりの役割と価値があることを理解すべきだ。

 小さい者は、物事に必要不可欠であると考える。

順位題名ペンネーム得点字数思考知識表現文体
1ミミズがある生態系にを読んで文鳥91143966838886
2謎の宿題地口行灯なまず大使89121963798481
3ミミズがある生態系にひよこ88119161708283
4地球を支える小さな肥料たちきとみ87144456658196
5不透明な言葉hikari87130972687983
6自然の凄さピプリー87125259657886
7今を生きる事の大切さたけたけ86129662647683
8どんなものにも価値がある201系86122849667393
9鼠のひと押しまーくん85112657627786
10小さなものの大きな役割まりい8197751797986



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森リン(103) 

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11月の森リン大賞決まる as/711.html
森川林 2009/12/19 20:18 


 11月の清書の森リン大賞が決まりました。

 今回の「山のたより」には、小4までの生徒にはベストテンの作文の題名と得点だけを掲載しました。小5以上の生徒にはベストテンの題名と得点のほかに1位の作品を掲載しました。

 上位の作品の掲載を少なくしたかわりに、それぞれの生徒の自分自身の作文(パソコンで入力した清書)の過去10ヶ月分の得点と過去2か月分の清書を掲載するようにしました。


 どの学年の作品も力作でした。小学校低中学年の生徒の作品には、ほほえましいものが多く、この子供たちが大きくなって自分の小さいころの作文を読む機会があったら懐かしい思いがするだろうと思いました。

 例えば、小3の生徒の作品の中に、次のようなものがありました。

====▽(引用ここから)

(アインシュタインのように)えらい人になっても、小学生がまるで友だちのように親しくなるように、やさしくしたいです。
 でも、やっぱり、みんなも、お母さんも言っていました。
「やっぱりおしゃれして行かないと、はずかしいよね。へんな服で行くと、変な人だと、思われてしまうからいやだと思うよ。」
 と笑っていました。
 私の子どもも、アインシュタインのような心にしたいです。アインシュタインは、身なりにかまわず、はずかしがらず、えらくて、プリンストンの名物教授にもなれるくらい、頭がよくて、とても親切だという話を、私の子どもに、してあげたいと思います。

====△(引用ここまで)

 アインシュタインの話を読んでの感想文を清書にしたので、3年生では長く書くのが難しかったと思います。(3年生はまだ感想文を書くのは早すぎる学年ですが、言葉の森ではその後の学年の準備として感想文の指導をしています)

 今学期勉強した項目の中に、「聞いた話似た話」というものがあったためだと思いますが、お父さんやお母さんに取材して書いた部分があります。この「聞いた話」がごく自然で飾り気がなく、「やっぱりおしゃれしていかないと、はずかしいよね」というお母さんの会話の中に、普段からの楽しいコミュニケーションの様子が感じられました。

 この子は、きっと将来、この長文のアインシュタインのように謙虚で優しい人になることでしょう。


 中学生や高校生の上位の作品には、読書好きの子の書いたものが多かったようです。作文の中に書かれている語彙を見ると、その学年ではあまり使わないような難しいものが自分なりに消化されています。こういう子供たちが成長して、それぞれに自分の意見を書いていくということを考えると、とても頼もしい感じがしました。

 中学1年生で最高点の作文を書いた生徒は、自分で小説を書いているようです。与えられた課題をRPGの物語という個性的な実例で書いていました。

====▽(引用ここから)

 ダーウィンは、ミミズの研究に基づき、ミミズが有機土壌の形成に大きな貢献していると述べた。これは、ミミズが地中を絶え間なく動き回ることで土の中に穴が出来、水はけや空気の通りが良くなるなどの利点から言われている。また、有吉佐和子は小説、『複合汚染』を執筆し、人間が自然を痛めつけた結果、自分達にひどい影響が及んでいる現状を詳しく書いている。ロンドンではミミズを利用した生ゴミの処理を行おうとしている。
 小さい生物にもそれ相応の役割があり、また、なくてはならないものだと考える。
 よく、小説を書いていて思うことがある。登場人物の中でも、主要キャラ、準主要キャラ、そしてサブキャラと分けることが出来る。

(中略)

 RPG物の小説を書くと、このサブキャラがかなり重要になる。なぜなら、雑魚モンスターがいなければパーティーのレベルはあがらない。そもそも、その小説自体にスリルや緊迫感がなくなる。ラスボスが出てくるまで、ヤッホホトゥラララの世界といのはかなりほのぼのとした冒険小説である。雑魚モンスターがでてきて、
「うあー!!こいつ、何気につえええ!!!」
とか、
「うああああ!?戦闘不能?!回復魔法やって・・・!!」
とか
「ははっ弱いぜ!!大したことねえな、ふはははははは!!」
とか言っている所をフハハハ(とは言わない)とラスボスが出現するからこそ、RPG小説、あるいはゲームの面白さはある。

====△(引用ここまで)

 作文を書くという勉強を自分なりに楽しんでいることがわかります。文章力のある子の作品は、一回一回がそれぞれ力作なので、書くたびに考えが成長していくという感じがします。

 ときどき大学生になった子が教室に来て、自分の中学生や高校生のころの作文を読む機会があると、「あのころの方がよく考えていたなあ」と言うときがあります。難しい文章を読んで自分なりに考えて書くという機会はやはりなかなかないのだと思います。

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森リン(103) 

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受験作文には、飛び切りの実例と表現で as/710.html
森川林 2009/12/17 09:46 


 受験の数ヶ月前になってから作文の試験のために受講するという方からよく聞かれます。「今からでも実力はつきますか」。答えは、もちろん「もう実力はつきません」。

 作文力が数ヶ月で上達するということはありません。これが数学などの教科であれば、一ヶ月みっちり勉強することで劇的に成績を上げることもできます。しかし、作文は、それまでの生活の中で積み重ねてきた経験や読書や考えたことの総合的な力ですから、短期間で実力が変わるということはないのです。

 しかし、「今持っている実力で最高の作文を書くようにすることはできます」ということも言います。本当は、大事なのは実力ですから、そういう裏技的なことはしたくないのですが、昔言葉の森の生徒だったという人などに、どうしてもと頼まれるとなかなか断れません。

 あるとき、やはりそういう生徒が来ました。昔言葉の森の生徒でその後海外に行き、今度帰国して大学入試で小論文の試験を受けるのだそうです。試しに作文を書いてもらうと、高校生レベルの文章が全然書けません。絶対に合格しない実力でしたが、指導を始めることにしました。

 出されそうなテーマで何本か作文を書いているうちに、いい体験実例がいくつか出てきました。そのうちの一つに絞り、「いいか。どんなテーマが出てもこの体験実例を書け」(笑)。更に何本か書いているうちに、いい表現といい感想も出てきました。これも同じく、「どんなテーマが出ても、この表現と感想を書け」。ほかのことを書くとボロが出てくるので、最高の実例と表現と意見だけで字数を埋めるようにしたのです。

 その後の練習は、いろいろなテーマを、同じ実例と表現と意見で書いていく練習です。その結果は、奇跡的に合格。試験の場で、その子の最もいい面だけを出してきたのです。もちろん入学後は苦労すると思うので、「これから本をしっかり読むんだよ」と言っておきました。

 以上は極端な例ですが、この書き方は、受験で作文を使う人には同じように当てはまります。作文試験のコツは、自分の最もいい面を文章として出していくことです。言葉の森新聞にも書きましたが、特に表現の工夫は今からでもできるので、自分なりの最高の表現を用意して試験に臨むようにしてください。

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