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  9・1週は進級試験
  中身のある子供向けの本を
  読書感想文がすぐ書ける本(むり/むり先生)
  技術者のあらわした本(ふじのみや/ふじ先生)
  子どもたちへ原爆を語りつぐ本(きりこ/こに先生)
  嵐の中の母子像(ゆっきー/かき先生)
 
言葉の森新聞 2006年9月1週号 通算第949号

https://www.mori7.com/mori/

森新聞
9・1週は進級試験
 9.1週に、作文進級テストを行います。課題フォルダの字数・構成・題材・表現・主題の●印が全部できていることが合格の条件になります。(表現の項目などで「たとえ」と「ダジャレ」など二つ以上の項目が指定されている場合はどちらかができていればその項目は◎です)。キーワードと字数が採点の基準ですので、指定された字数以上で必要な項目が全部入る作文を書いていってください。中学生以上の時間制限については、今回は採点の基準にしませんが、できるだけ時間内に書き上げる力をつけていきましょう。
 手書きで作文を書く人は、項目ができたところにシールをはっておいてください。
 パソコンで作文を書く人は、キーワードを入れておいてください。
 小学生の場合は、提出する前に、おうちの方が字数と項目シールをチェックしてあげてくださるとよいと思います。
 小学2年生までの生徒は、試験は行いますが、全員進級扱いで先の級に進みます。7月以降に受講を開始した生徒も、試験は行いますが、全員進級扱いで先の級に進みます。ただし、いずれの場合も、賞状は出ますので、できるだけ字数と項目ができるように書いていってください。
中身のある子供向けの本を
 子供向けの本というと、ほとんどが物語です。もちろん物語も大事ですが、自然科学や社会科学などの本があまりにも少ないように思えます。
 しかも、その数少ない科学の本の多くは、子供向けに内容を薄めて書いているようです。言わば、学習漫画を文章にしたような内容なのです。その結果、科学の本の多くは、断片的な知識だけを提供するような作りになっています。
 私はもっと、原因や結果を構造的に考えさせるような子供向けの科学の本が登場するべきだと思っています。その点で評価したいのが、今は絶版となった「世界ふしぎめぐり」シリーズです。また、毎日小学生新聞などに掲載される子供向けの解説記事にも優れたものがあります。また、物理学者寺田寅彦のエッセイは、この分野では古典と言ってもいいでしょう。
 世間でよく売れている科学の本に共通する大きな弱点は、文章が雑だということです。知識をわかりやすく伝えるという目的のために、表現をくずしているところがあるのです。例えば、次のような書き方です。
「気孔は、二酸化炭素をすって、酸素をはき出す場所だったよね。○ちゃんが葉っぱの裏側に多いって言ってたけど、実は表や茎にも少しはあるんだよ。ただ、圧倒的に葉っぱの裏側が多いんだけどね。」
 知識を必要以上に正確に伝えようとすれば、文章はどうしてもつまらなくなります。そこで、話し言葉を多用して敷居を低くしようとしているのです。それはもちろん善意の試みです。しかし、子供の本という本来の目的から見るとやはり方向がずれているのです。
 子供向けの本は、理科や社会の知識を詰め込むために読ませるものではありません。自然や社会の構造の不思議さに感動するためにあります。そのためには、細かい網羅的な知識は大胆に省略し、肝心の仕組みだけを格調の高い文章で書く必要があります。

 今、読解マラソン用の低学年向けの本があまりに少ないので、言葉の森で少しずつ作ろうと思っています。この文章を作る際の基準は、知性・勇気・愛・ユーモアです。
 つまり、文章はまず第一に、知的でなければなりません。物語のような想像上の話ももちろん価値がありますが、もっと現実の世界に立脚した知的な文章を子供たちに伝える必要があります。
 第二に、勇気のある前向きな文章です。日本の文学は伝統的に後ろ向きの屈折した内容のものが多いように思います。読むことによって元気がわいてくるような力のある文章を伝える必要があります。
 第三に、愛にあふれた文章です。怒りや憎しみは、時に強さと錯覚されることがあります。しかし、それは本当の強さではありません。人間はあらゆるものを許すことが可能なのだということを伝える必要があります。
 第四は、ユーモアです。勉強でも仕事でも生活でも楽しさがなければなりません。日本の社会では、ユーモアは不真面目と受け取られることがありますが、暗く真面目に生きる義務はだれにもありません。みんながもっと明るく楽しく生きる権利があるのだということを伝えていく必要があります。

 このようにしていったん作った文章も、決して固定的なものにせずに、多くの人の声を取り入れながらどんどん修正していく予定です。
 文章の修正という点では、オープンソースの面白い試みがあります。ある人が文章を書いたとすると、その文章に対してほかの人がいろいろな修正を提案していいのです。その文章の管理者(多くは作者)は、ほかの人からの提案を受け入れ更にいい文章にしていきます。この文章は、完成ということはありません。永久のβ版としてだれでもが利用できる形で公開されています。
読書感想文がすぐ書ける本(むり/むり先生)
 みなさん、こんにちは!夏休み楽しくすごしていますか?
夏休みも後半に入って、宿題なんてほとんど終わっていますよね(?)
でも、もしかすると「読書感想文はまだ」なんて人がいるかもしれません。今月はそんな人のために、読書感想文がすぐ書ける本の紹介をしましょう。


「盾(シールド)」 村上 龍著

この本をおすすめする理由が3つあります。

1.短く、読みやすい

 どんなに良い本でもあまり長いものは、今から読んでいたのでは時間がかかって困りますよね。この「盾(シールド)」は一見ほとんど絵本のようです。実際、各ページにイラストがあってとても読みやすく、読む速さに自信があれば、1、2時間くらいで、自信がなくても3時間もあれば十分読めるでしょう。



2.感想文が書きやすい

 この本はコジマとキジマという2人の男の人の小学5,6年生から、50歳くらいまでの人生を描いています。ですから、小学生にとっても中学生にとっても、大人にとっても、自分の性格や生活と2人の人生を比べて考えることがしやすいと思います。つまり、自分と似ている部分、違う部分を主人公2人から探し出したり、似た体験を探したりしやすいということです。「自分だったら」と考えたり、「似た体験」が書けると、感想文はとても楽になりますよね。
大人になった主人公たちの生き方から、「自分はこうしたい」という生き方の主題を見つけるのも、おもしろい作文になると思います。



3.買ってもらいやすい

 せっかくいい本だと思っても、そういう本は図書館では普通貸し出し中です。
本屋さんにはたくさんならんでいますが、1冊1000円以上する本は、なかなか買ってもらえないかもしれませんね。
でも、そんな時「お父さん(お母さん)、この本買ってよ。今年は『村上 龍』の本で、夏休みの感想文を書きたいんだ。」と言ってみましょう。
「何、お前もう『村上 龍』なんて読むのか?お父さんも好きだったんだよ。よしよし、買ってやろう。」と、言ってくれるに違いありません。
ついでにお父さんは「『ノルウェイの森』良かったなぁ。」なんて言いだすかもしれませんが、「お父さん、それは『村上 春樹』だよ。」と指摘するのは、買ってもらった後にしましょう。
夏休み後半の読書感想文は、とにかく「買ってもらう」ことが大切です。買ってもらいさえすれば、宿題の追い込みや夏期講習後半戦の忙しいさなかに、図書館に返却に行くこともありませんし、新学期ぎりぎりになっても大丈夫です。(でも、宿題は余裕もって仕上げましょうね)


 ところで、この本はぜひお父さん、お母さんにも読んでもらってください。この本は絵本のような形ですが、お父さん、お母さんにもとてもおもしろい本です。お父さん、お母さんによっては、半日くらい自分の人生を振り返って考え込んでしまうかもしれませんが、そんなお父さん、お母さんの意見も作文に取り入れてみるのもいいかもしれませんよ。
技術者のあらわした本(ふじのみや/ふじ先生)
 
 先日、時間があったときに、図書館や古本屋を回りました。今住んでいる町の図書館は、ちょっと元気のない雰囲気なのですが、古本屋の勢いがすごいです。誰かが読み終えて、「もう、いらないや」と手放した本。どんな名作でも、マンガやゲーム、雑貨と一緒に、単なる流行商品として扱っている店の場合、お客として利用する自分に、後ろめたさを感じることも。でもときには、「おお、この本がこんな値段で!」といううれしい出会いもあります。

 今月は、そんな中から、7月に読んだ本をご紹介します。
 『生涯最高の失敗』/田中耕一
そう、ノーベル賞で一躍有名になった「田中さん」が書いた本です。授賞後は、真面目そうな風貌(ふうぼう)と「苦労人」としての生い立ち、ユーモアのある言動ばかりが注目されていた「田中さん」ですが、受賞はけっして、マスコミでくり返し報じられたキャラクターが生んだ成果ではありません。
 世界的な賞を授けられるにはやはり、それなりの鍛錬と努力がありました。自分の進むべき方向を見誤らず、おごらず。仲間の協力を得ながら謙虚に仕事を続けたからだということがわかります。
 大雑把にいうと、試薬の誤りがきっかけだったノーベル賞。「失敗は成功の元」の例として語られることもありますが、田中氏は「失敗」についてこう語っています。

 「人間、自分がいま現在できることを100%として、それを実行しようとして失敗すると、落ち込みますよね。そうすると、今度は90%くらいをめざして、それで良しとするようになってしまう。でも、たとえ目標を90%に抑えても、やはり失敗することはあります。失敗の原因は、かならずしも自分にあるわけではありませんから。(略) すると、さらにめざすところを低く設定する……。こういう良くない循環に陥ってしまう可能性があります。
 (それではいけないと)、はじめから200%をねらっても、それでは失敗ばかりしますから、もう少し手軽な、110とか120%あたりをめざしてみる。それなら、たとえ目標を達成できなくても、ちょっと高望みしたから仕方ないな、と考えることができて、あまり落ち込まないですみます。
 ところが、120%だとたまに、できてしまうことがあります。そのような経験を積み重ねていくと、いつのまにか、120%があたりまえになります。それを繰り返していくと、120%から150%、200%へと、どんどん伸びることだってできる」

どうでしょう。田中氏はこのように考え、積極的に歩んできているのです。著書では、これで人前で話すのが苦手な“あがり症”を克服することができたと続けていますが、おそらく、勉強や仕事の面も同じように進めてきたのでしょう。

もう1冊。これも、技術者のあらわした本です。
『負けてたまるか!』/中村修二
 青いクリスマスツリー、見たことがありますか。この光は、電球より消費電力が少なく、球切れの心配もない発光ダイオードによるもので、最近は信号機、ネオンサイン、携帯電話にも使われています。20世紀には不可能だと言われていた、この「青色発光ダイオード」を、徳島県にある小さな会社に勤務していたときに独力で開発した中村氏。しかし、会社は彼の功績を認めず、裁判になります。

一兆円規模の市場を持つ、大発明、大成功をひとりでなしとげたのですが──。
裁判の過程はともかく、中村氏自身は成功について、このように述べています。

 「私の場合の成功パターンは、『孤独と集中』である」
会社で新しい研究を始めると、最初のうちはものめずらしさで話題になるものだ。しかし、なかなか結果が出ないと、仲間たちは「なんや、つまらん」と次第に周りから去って行く。自分のところを訪れる人もまばらになったそのとき、中村氏は考えたのです。
 「この静寂(せいじゃく)がいい。集中するためには、孤独という環境が必要なのだ」
そして、毎日、アイデアを試し、失敗し、またチャレンジし、失敗。という、彼にとっては理想的な(笑)規則正しい環境を手に入れたそうです。もちろん、精神的にはどん底に落ちていくことは自覚しつつ。しかし、うなだれてやる気を失ったりはしません。研究に集中し続け、頭の中がどんどん冴え渡っていったそうです。引き続き仲間たちからの声にはまったく耳を傾けることなく、みずから孤立状態を作り出し、さらに失敗を重ねていく。失敗は大歓迎だ。落ちていけばいくほど集中できる……のだそうです。
そして、ついに結果を出し、「青色発光ダイオード」の光を手にするのです。

上で述べた田中耕一氏の研究のやり方と比較すると、対照的な印象がありますが、じつは二人とも、周囲に対するアピールの仕方が違うだけで、根は同じところにありそうです。

それは、ひとつのことを見定めたら、決して揺るがない精神力。そして、自分のしていることを評価するのは、まずは自分自身であったということです。有名になりたいから、人がいいといっているからで判断をしていないのは、同じです。そのため、どちらも、「変人」と見られていた時期があったようです(しかし、それにも気づかず、あるいは気にならない)。

 長い夏休み。物語や小説の本もいいですが、研究をしている人が書いた本を手にとってみるのも、おもしろいですね。すばらしい成果をあげている人は、視点がユニークで、文章に具体性があって興味深く読むことができますよ。
子どもたちへ原爆を語りつぐ本(きりこ/こに先生)
 私が住んでいる広島では、毎年8月6日の原爆記念日には、街全体が静かな空気に包まれます。朝の平和の鐘の音に始まり、夜の灯篭流しまで、一日を反省と祈りと希望の気持ちで過ごします。
みなさんも、学校で平和についてのお勉強をしたり、戦争についての本を読んだりしていることでしょう。広島市子供図書館では、「子供たちへ原爆を語りつぐ本」を紹介しています。母の会と図書館が合同で選定しているのです。ここで一部を紹介したいと思います。

 【ヒロシマ、八月、炎の鎮魂歌(レクイエム)】 大野 允子著 ポプラ社
とう子さんは、タバコ工場で働く動員学徒。8月6日の朝も工場へでかけました。その朝、一発の爆弾が、広島の街を焼きつくして……。15歳のとう子さんの目を通して、あの日の広島を描いた本。

 【広島にチンチン電車の鐘が鳴る】 きむら けん著 汐文社
男性のほとんどが軍隊に行ったので、電車の車掌や運転手は、女学校の生徒たちの仕事でした。電車が大好きな浩作は、運転手の姉が自慢でした。ところが、8月6日の朝に……。浩作の目を通して、戦時下に生きた少女たちの日常を描いた本。

 【ゲンinヒロシマ】 中沢 啓治原作 木島 恭脚本 講談社
中沢さんの被爆体験を描いた漫画「はだしのゲン」を舞台化したものの脚本。私も、「はだしのゲン」の漫画は、小学生のころ何回も何回も読みました。
嵐の中の母子像(ゆっきー/かき先生)
 みなさんは「8月6日」は何の日か知っていますか?
 答えは、広島に原爆(げんばく)が投下された日です。広島の小・中学校では、ほかの県と少し違って、この8月6日当日か、その少し前に、平和学習を目的とした登校日があります。その平和学習を終えた息子が「原爆ドームを見たい」というので、8月8日に行ってきました。原爆の日に近かったせいか、とても人が多く、なかでも外国人の多さにおどろきました。みなさんの中には、テレビや教科書で「原爆ドーム」という建物を見たことがある人もいるでしょうね。世界遺産にも登録され、とても有名です。
 ところで、この原爆ドームがある平和公園の中には、いろいろな慰霊碑(いれいひ)や像が建てられています。旅行で訪れた人は時間がなくて、なかなかこれらを見る時間がないかもしれませんが、ぜひ、これらの像も見ていただきたいと思います。たくさんの像の中で、私の心に一番強く残っているものは「嵐の中の母子像」という平和記念資料館の前に建っている像です。私は今までに10回ぐらい平和公園を訪れていますが、実はこの像のことを知ったのは昨年です。母親が右手で赤ちゃんを火から守るように抱き、左手でもうひとりの子どもを背負おうと前かがみになっている姿の像です。タイトルの通り、原子爆弾が落ち、そこら中に火の手が上がり、まさしく嵐の中を生き抜こうとする母と子3人。母親の手は男の人並みに大きく、太く、がっしりしています。こんな戦争に負けてたまるものかという母親の強さが伝わってきて、同じ母親として涙がこみあげてきました。そして、同時に私の横ではしゃいでいる我が子を抱きしめたくなりました(実際には、人目もありできませんでしたが……)。
 原爆ドームだけでなく、ぜひ、この像のことも知ってもらいたく、今回、載せました。
 
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