先日、時間があったときに、図書館や古本屋を回りました。今住んでいる町の図書館は、ちょっと元気のない雰囲気なのですが、古本屋の勢いがすごいです。誰かが読み終えて、「もう、いらないや」と手放した本。どんな名作でも、マンガやゲーム、雑貨と一緒に、単なる流行商品として扱っている店の場合、お客として利用する自分に、後ろめたさを感じることも。でもときには、「おお、この本がこんな値段で!」といううれしい出会いもあります。
今月は、そんな中から、7月に読んだ本をご紹介します。
『生涯最高の失敗』/田中耕一
そう、ノーベル賞で一躍有名になった「田中さん」が書いた本です。授賞後は、真面目そうな風貌(ふうぼう)と「苦労人」としての生い立ち、ユーモアのある言動ばかりが注目されていた「田中さん」ですが、受賞はけっして、マスコミでくり返し報じられたキャラクターが生んだ成果ではありません。
世界的な賞を授けられるにはやはり、それなりの鍛錬と努力がありました。自分の進むべき方向を見誤らず、おごらず。仲間の協力を得ながら謙虚に仕事を続けたからだということがわかります。
大雑把にいうと、試薬の誤りがきっかけだったノーベル賞。「失敗は成功の元」の例として語られることもありますが、田中氏は「失敗」についてこう語っています。
「人間、自分がいま現在できることを100%として、それを実行しようとして失敗すると、落ち込みますよね。そうすると、今度は90%くらいをめざして、それで良しとするようになってしまう。でも、たとえ目標を90%に抑えても、やはり失敗することはあります。失敗の原因は、かならずしも自分にあるわけではありませんから。(略) すると、さらにめざすところを低く設定する……。こういう良くない循環に陥ってしまう可能性があります。
(それではいけないと)、はじめから200%をねらっても、それでは失敗ばかりしますから、もう少し手軽な、110とか120%あたりをめざしてみる。それなら、たとえ目標を達成できなくても、ちょっと高望みしたから仕方ないな、と考えることができて、あまり落ち込まないですみます。
ところが、120%だとたまに、できてしまうことがあります。そのような経験を積み重ねていくと、いつのまにか、120%があたりまえになります。それを繰り返していくと、120%から150%、200%へと、どんどん伸びることだってできる」
どうでしょう。田中氏はこのように考え、積極的に歩んできているのです。著書では、これで人前で話すのが苦手な“あがり症”を克服することができたと続けていますが、おそらく、勉強や仕事の面も同じように進めてきたのでしょう。
もう1冊。これも、技術者のあらわした本です。
『負けてたまるか!』/中村修二
青いクリスマスツリー、見たことがありますか。この光は、電球より消費電力が少なく、球切れの心配もない発光ダイオードによるもので、最近は信号機、ネオンサイン、携帯電話にも使われています。20世紀には不可能だと言われていた、この「青色発光ダイオード」を、徳島県にある小さな会社に勤務していたときに独力で開発した中村氏。しかし、会社は彼の功績を認めず、裁判になります。
一兆円規模の市場を持つ、大発明、大成功をひとりでなしとげたのですが──。
裁判の過程はともかく、中村氏自身は成功について、このように述べています。
「私の場合の成功パターンは、『孤独と集中』である」
会社で新しい研究を始めると、最初のうちはものめずらしさで話題になるものだ。しかし、なかなか結果が出ないと、仲間たちは「なんや、つまらん」と次第に周りから去って行く。自分のところを訪れる人もまばらになったそのとき、中村氏は考えたのです。
「この静寂(せいじゃく)がいい。集中するためには、孤独という環境が必要なのだ」
そして、毎日、アイデアを試し、失敗し、またチャレンジし、失敗。という、彼にとっては理想的な(笑)規則正しい環境を手に入れたそうです。もちろん、精神的にはどん底に落ちていくことは自覚しつつ。しかし、うなだれてやる気を失ったりはしません。研究に集中し続け、頭の中がどんどん冴え渡っていったそうです。引き続き仲間たちからの声にはまったく耳を傾けることなく、みずから孤立状態を作り出し、さらに失敗を重ねていく。失敗は大歓迎だ。落ちていけばいくほど集中できる……のだそうです。
そして、ついに結果を出し、「青色発光ダイオード」の光を手にするのです。
上で述べた田中耕一氏の研究のやり方と比較すると、対照的な印象がありますが、じつは二人とも、周囲に対するアピールの仕方が違うだけで、根は同じところにありそうです。
それは、ひとつのことを見定めたら、決して揺るがない精神力。そして、自分のしていることを評価するのは、まずは自分自身であったということです。有名になりたいから、人がいいといっているからで判断をしていないのは、同じです。そのため、どちらも、「変人」と見られていた時期があったようです(しかし、それにも気づかず、あるいは気にならない)。
長い夏休み。物語や小説の本もいいですが、研究をしている人が書いた本を手にとってみるのも、おもしろいですね。すばらしい成果をあげている人は、視点がユニークで、文章に具体性があって興味深く読むことができますよ。
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枝 6 / 節 11 / ID 9986 作者コード:huzi
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