夜きらきら輝く道を急ぎながら、今月の新聞ではどんなお話をしようかと考えていたら、むこうからいのししの親子がやってきました。私は犬の散歩中でしたから、実はとてもあわてたのです。犬といのししは相性が悪いと言われていますし、つい先月もいのししに大きな犬が角でつかれて死んでしまったのです。それに、いのししのお母さんはこどもをつれていると、とても攻撃的だとも聞いていました。私は二匹の犬を連れていたので、一匹をなんとか抱えて、大きい方をひっぱって引き返すことにしました。
ところが後ろからもいのししがやってきたのです。一本道でいのししにはさまれ、横に逃げるところもありません。どうしようとどきどきしました。自分の腕に鳥肌がっているのがわかりました。そのとき後ろの一匹狼ならぬ、一頭いのししが「ぶほっ、ぶほっ」と声を出したのです。大きい方の犬は超マイペースなので、いのししが現れようと、ほかの犬がやってこようと、われ関せずとばかりに知らん顔なのですが、そのときだけはふと顔をあげて、めったにほえたりしないのに小さく「わん」といいました。まるでいのししの声にこたえているようでした。小さいほうの犬も私の腕の中で暴れていたのですが、とびおりて「くうーん」と鳴きました。
一体彼らの中でどんな会話があったのか、知る由もありませんが、その後大きな方の犬が珍しく私をぐいぐい引っ張るのです。引っ張られるままについていくと、いのししたちは道をあけてくれるかのように動きだしました。私はとても不思議な気分になりながら帰ってきたのです。
いるかやさるが会話をしているらしいとは言われていますが、動物たちには相互に通じるなにか信号のようなものがあるのかもしれません。ゴミ置き場をあさったり、スーパーの袋を持っている人をおそったりと、凶暴な面ばかりが強調されているいのししですが、動物の本来のすがたもしっかり見なくてはいけないんだと感じた夜でした。
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枝 6 / 節 12 / ID 8843 作者コード:sumomo
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