『一匹の動物も愛したことがなければ人の魂の一部は眠ったままである。(アナトール・フランス)』
この格言に感動したからではないのですが、一昨年の夏から犬を飼い始めました。
名前はパセリ。メスの犬です。
さぞかし、この子はわたしをいやしてくれるにちがいないと思っていました。
外出先から帰れば、転がるようにとびついてきて、大歓迎してくれることでしょう。
どこにいても、名前を呼べば飛んできて、足下にじゃれついてきたり。
もしかしたら、毎朝新聞をとってきたり、鳴っている携帯電話をくわえてきてくれるかもしれません。
そんな期待で飼い始めた子犬。期待はこっぱみじんになりました。
外出から帰ればうん○をしており、それを踏みつけて、足の裏はうん○だらけ。
その足でとびついてくるから、こっちもうん○だらけです。
おしっこの場所もいつまでたっても覚えず、おかげでうちのフローリングは黒いしみだらけになりました。
気に入らないことがあると、うなったりほえたりし、時には噛みつくのでわたしの手は絆創膏だらけ。
新聞や携帯電話をとってくるどころか、すべての家具にカジカジかみついて、ボロボロにされました。
散歩に出ると、他の犬にほえかかってけんかを売るため、うちの犬を見るとわざわざ道をかえる人もいます。
悩みました。何十冊も「犬のしつけ方」の本を買って読みました。でも何をやっても、パセリの態度は相変わらずです。
とびつかれて、鼻をかじられた日には、本気で「里子に出そうか」と思いました。
そのころです。犬好きの友人からこんな言葉を聞いたのは。
「安田さん、犬っちゅうのは15年くらい生きるやろ。最初の5年は必死にしつけや。次の5年は、まあまあ楽しい時期。最後の5年。それは介護やで。覚悟しときや」
ぼうぜんとしました。人は何のために犬を飼うのでしょう。
15年のうち、楽しいのはたった5年とは……。
しかし、それが現実。わたしは覚悟を決めました。いくらバカ犬でも、捨てるわけにはいきません。まるまる、この子の15年間を引き受けるしかないのです。
あれから2年ほどたちました。相変わらずパセリはお利口とは言えません。
回数はへりましたが、やっぱりウンチをふみつけるし、家具はかじるし、他の犬にけんかも売ります。
でも、わたしをかんだりはしなくなりました。口にわざと手を入れると、こまったような顔になって、一生懸命わたしの手を舌で外に押し出します。
散歩をすませてご飯を食べると、安心しきった顔でソファーで寝ます。寝ながらブヒーブヒーといびきをかき、時々プフッとおならをします。
変な犬。でも、わたしんちの犬です。、
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枝 6 / 節 13 / ID 10115 作者コード:yasu
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