作文には、書きやすい題材と書きにくい題材というのがあります。たとえば、楽しい遠足、楽しい運動会などといった題名で書くのは、どんどんえんぴつも動くことでしょう。読む人を楽しい気持ちにさせる作文も、それはそれですばらしいものです。
しかし、生きていると、楽しいことばかり起きるわけではありませんね。悲しいこと、つらいことは、作文のテーマとしては書きにくいものです。でも、書きにくい言葉、それは時として深く人の心を打つ場合があるのです。私は、みなさんの作文を読んでいて大笑いをすることはしょっちゅうですが、反対に泣いてしまったことも何度かあります。
ふだん明るく元気な男の子が、「自分ではどうすることもできないことがある。それは、いつもは仲の良い両親がケンカをしてしまった時だ。それは、ぼくにとって何よりも悲しいことである。」という内容の作文を書いてくれたことがありました。毎日顔を合わせている家族であれば、たまには意見が合わずケンカをすることもあるでしょう。しかし、両親のケンカのことなど、子どもにとっては早く忘れてしまいたいことでしょうし、思い出して書くという作業はつらいものだったに違いありません。作文用紙を通して、彼の気持ちが痛いほど伝わってきました。そして、この作文はご両親の心を強く揺り動かしたようです。この作文を読んだお母様からは、「今回の内容は、親として深く考えさせられました。」とのコメントをいただきました。
また、かわいがっていたペットのうさぎが死んでしまったときのことを書いてくれた作文を読んだ時も、涙が止まらなくなりました。姉と弟で同じテーマの作文を書いてくれたのですが、このときは一つ読んでは泣き、もう一つ読んで泣き、たいへんでした。うさぎが死んでしまったのは、実は数ヶ月も前のことで、書ける心境になるまでに相当の時間がかかったそうです。二人は、泣きながら作文を書いたということですが、その後のお電話では、うさぎと過ごした楽しかった日々のことを語ってくれました。
書きにくい言葉をあえて整理して書くという作業によって、みなさんが一段と成長できるという例を、私はいくつか見てきました。だれでも、生きていく中でつらい経験をします。それを早く忘れる努力をすることも、もちろん大事でしょう。しかし、その経験をまっすぐに見つめて文章にあらわすことで、どうしようもない悲しい気持ちを整理したり、自分の心の中で一段落をつけて、次のことを考えるきっかけにすることもできるのではないかと思います。また、書きにくいテーマこそ、読み手がより深く共感できる場合が多いのです。みなさんは、悲しいお話を読んだりドラマを見て、涙を流したことがあるでしょう。つらい経験を乗り越えたという話は、読む人に勇気を与えることもあります。
毎週作文を書いていると、書くことがなくなって困るという話も耳にすることがありますが、先生を泣かせてみたい人は(笑)、書きにくい題材にもあえて挑戦してみてはいかがでしょう。
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枝 6 / 節 15 / ID 10221 作者コード:sugi
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