「嘘をつくと閻魔(えんま)様に舌を抜かれる」「嘘つきは泥棒の始まり」などというように、「嘘をつく」ことは悪いことだと言われます。私もそう教えられましたし、子供にも「嘘はつかないほうがいいよね」と話したりします。そんなある日、息子に「『嘘も方便』って何?」と聞かれたので、ことわざ辞典に載っているような説明をしてみたのですが、小2の息子はわかったようなわからないような、微妙な表情をしています(笑)。そこで、最近読んだばかりの「赤いろうそくと人魚」の作者である小川未明について話してやることにしました。(未明は「日本のアンデルセン」ともいわれる人です。)
未明がまだ作家になったばかりのころは、たいそう貧しい暮らしをしており、3人の子供のうち、男の子を病気で亡くしてしまいます。そして上の女の子も病気になってしまいました。女の子は小学校五年生。とても勉強ができて、通信簿(通知表)の成績は全て「甲」でした。昔の成績は「甲」「乙」「丙」「丁」で評価され、甲はいちばんいいという意味です。(今でいうと「オール5」とか、「よくできる」ばかりというのと同じだったことになります。)未明も娘もこの通信簿を見て、いつも大変喜んでいたそうです。
しかしだんだん病気が重くなり、娘は学校へ行けなくなってしまいます。いくら成績がよくても、学校へ行って勉強ができなければ、よい成績をとることができません。届けられた通信簿を見てみると、いつもは甲ばかり並んでいるのに「乙」が2つもついていたのです。お父さんの喜ぶ顔が見られなければ、娘はどれほどがっかりすることだろう、ますます病気が悪くなるのではないかと、未明はとても心配します。お医者さんは、娘はもう二度と学校へは行けないと言います。このまま助からないと言われている子に、「またがんばればいいじゃないか」とはげますこともできません。
考えた末、未明は通信簿に書かれた「乙」の文字をていねいに消し、「甲」と書きかえたのです。もちろん、先生がつけた成績を勝手に変えてはいけません。しかし悪いことだと知りつつも、娘を幸せな気持ちのまま死なせてやりたいと思ったのです。娘は通信簿を見て、書きかえた2つの文字が違っていることに気がつきますが、「先生だって間違えることもある。きっとつけまちがえて書き直されたのだろう」と明るく答えたお父さんに安心し、嬉しそうに通信簿を抱きしめます。娘はそれから間もなく亡くなったそうです。
「嘘には3つあると思う。一つは『自分を守るための嘘』。あなたと妹が喧嘩をしたとき、叱られたくなくてつい言ってしまう嘘もあるでしょ?(笑)あまりいいとは言えないね。それからもう一つは『相手を騙すための嘘』。自分の利益のためだけに嘘をついて、何も悪いことをしていない人からお金や物を騙し取る人もいるんだよ。これはいちばんいけないよね。あと一つは『相手を傷つけないための嘘』。未明は、病気の子供が傷つかないように嘘をついたね。嘘は嘘だけど、これはいいんじゃないかな?」。
かなり長い説明になりましたが、話しながら私も頭の中が整理されていくのがわかりました。息子も納得した様子です。このように会話できたことで、親子共々勉強になったのだなあと、とても嬉しく感じました。
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枝 6 / 節 10 / ID 10951 作者コード:tama
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