「褒めすぎではないでしょうか」「これでうまくなるのでしょうか」親御さんから、そんなご意見をいただくことがあります。そこで、今回は保護者の方に褒める指導についてご理解をいただきたく、考えるところまとめてみました。
まずは、最近読んで気になった本の話から。『信じて待つ 子育てのコツ』(大塚美智子著 日本文教社刊)に、こんなエピソードがありました。
自閉症の真美ちゃん(仮名)は4年生。学校では2,3歳の赤ちゃんのような扱いを受け、「何もできない子」と思われていました。ところが、心を開いたO先生だけにはすばらしい文才を見せるのです。「なぜO先生だけに?」と尋ねられ、彼女はこう答えます。
「真美は、どの先生ともお勉強したい。でも、真美のことをできると思って応援のエネルギーを注入してくれる人でないと、できないのです。だって、私は自信がないからできないのです。」(要約)
ここを読んで、私はハッとしました。ある週の作文指導を思い出したのです。その週は、生徒さんたちの作文に、普段より朱を多めに入れて返却していました。今から思うと、「そろそろ次の段階に」と指導者としての「欲」が出たのでしょう。しかし翌週、いつものように電話をかけても、何だか子どもたちの声に元気がありません。電話の向こうで小さくなっているような感じすら受けます。失敗です。「真美ちゃん」の言葉で、私はあの時「子どものエネルギーを奪っていたのだ」と気づきました。
また、先日「8歳のヘレン・ケラーの写真発見」 (3月6日毎日新聞夕刊)という記事の写真が目にとまりました。友人宅の庭でくつろぐドレス姿のヘレンと彼女を見つめるサリバン先生。まるで印象派の絵から抜け出したように優雅です。しかし、私が釘付けになったのは、サリバン先生の視線の強さです。「あなたは絶対にできるようになるのだ」と確信に満ちた目でした。
真美ちゃんの先生とサリバン先生。この2人には共通点があると思います。それは、子どもに「あなたはできる」というメッセージを送り続けたということ。このメッセージは「愛情」と言いかえることができるかも知れません。私たちが陥りがちな「間違いを正す」「できないことを数えあげる」方法とは正反対のやり方です。私は、この「できるというメッセージ」こそが、作文指導での「褒める」ということにあたると思います。子どもは、まだ「自分探し」を始めたばかり。自信たっぷりに見えても実は不安定です。周囲の評価に大きく影響されます。だからこの時期に「まるごと肯定される」体験はとても重要になってくると思います。そうすることで、自信がつき、チャレンジする意欲が生まれ、次の成長へと自分で進むことができるようになるからです。実際子どもの可能性は測り知れません。
またの機会にぜひ詳しくご紹介したいのですが、「おいしいものの表現力」や、「会話のうまさ」、「独特の鋭い感じ方」、「行間に真心が伝わる文章」など、生徒さんはそれぞれすばらしい宝物を持っています。それはご両親が一番よくご存知でしょう。ただ、自分の子だと謙遜してしまい褒めないだけです。その代わりと言ってはなんですが、だからこそ、私は生徒さんの「光る」部分を見つけると、「こんなにすばらしいあなたに気づいて!」と鏡のように返したくなります。もちろん時には鏡の角度を変え、子どもに「まわりの景色」を見せる導きも大切と思っています。
でも、まずは「自分はもう大丈夫」というところまで「誉めて」自信をつけさせること。褒めることは、私から生徒さんへの「応援のエネルギー」注射です。
だけど、実は一番たくさんのエネルギーを注入してもらっているのは私の方なのかも知れませんね。いつもありがとう!若さが保てるのもみんなのお陰でーす(笑)。
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枝 6 / 節 11 / ID 12311 作者コード:utiwa
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