「年をとったら、思い出がたくさんある方が豊かに生きられる。お母さん方は今のうち、子どもとの思い出をたくさん作ってくださいね」
先週、ある学校説明会で校長先生がこんな話をされました。
確かに、子どもの成長はあっという間ですから、子どもと過ごす時間はとても大切なもの。でも、いざ思い出を作るとなると「どうやって作るの?」という疑問もわいてきます。
子どもが赤ちゃんだった頃のことをふと思い出すことがあります。やわらかいぽちゃぽちゃした肌や、小さくすっぽり両腕に収まった身体。「もうあの頃にはもどれないんだなあ」と思うとちょっとさびしくなったり。毎日毎日繰り返しだっこしていたことも、寝るまであやしていたことも、今にしてみればほんの一瞬のできごとだったなと。
特に印象に残っていることといえば、やはり冷やっとさせられたことです。りんごをのどにつまらせたことや、階段から落ちたことは今でも思い出しても緊張が走るほどです。
本当に、わが子が小さい時は、毎日が真剣勝負で必死だったんだなあと思います。作ろうとしてできた「思い出」はないけれど、自分がその時一生懸命に生きた証として、その日々が心にしっかりと刻まれているように感じます。
「思い出」は生徒さんの作文の中にもたくさんつまっています。特に、春休みの後やゴールデンウィーク明けは心に残ったことがたくさんあるようで、すらすらと書いてきてくれます。しかし、旅行やいわゆる「イベント」に限らず、下校途中に小さな発見をしたこと、学校でのできごと、お母さんとの会話、お父さんと遊んだことなどの中にこそ、実は大切な思い出になるようなできごとがちりばめられているとも思います。
自分の子供のころを振り返っても、自転車でたんぼに突っ込んだとか、暑い夜に寝付かれずにいたら、祖母がうちわで風を送ってくれたというような、日常のできごとばかりしきりに思い出されます。きっととっさの緊張感や、安らぎといった「感動」によって、脳に焼き付いたのかもしれません。言葉の森の課題で「下校途中の道」について書くものありましたが、「毎日繰り返されるできごと」も思い出に残りやすいようです。
身近なできごとを上手に作文にする生徒さんを見ていますと、思い出というのは、「珍しいできごと」を体験したからできるというものではなく、肝心なのは、自分の心のアンテナの張り具合によるものらしい、ということがわかります。
「来週は、作文に何を書こうかな?」
こんなふうに、日ごろから題材さがしをする習慣がつくと、アンテナも自然とみがかれてくるのだと思います。作文が上達すると、何気ないできごとの中にも楽しいことはいくらでも見つかるようになってきます。
長く暑い夏休みがもうすぐ始まります。楽しい計画がいっぱいでしょう。「それどころじやないよー。夏期講習づけだよー」という生徒さんもいるかもしれませんが(笑)
でも、それも集中してとりくめばきっとよい「思い出」になるものです。「思い出作り」とは結局「今を一生懸命生きる」ということではないでしょうか。
みなさん、体に注意して元気な夏休みをおすごしくださいね。
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枝 6 / 節 24 / ID 12709 作者コード:utiwa
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