ログイン ログアウト 登録
 インターネットと教育(その2) Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 1245番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/24
インターネットと教育(その2) as/1245.html
森川林 2011/04/24 04:15 





■インターネットの本質



 人間は、コミュニケーションのツールをさまざまに発展させてきました。コミュニケーションとは、ある人が他の人に何かを伝えることです。伝える方法は、声が主なものでしたが、やがてその音声を伝える喉が、拡声器になったり、狼煙(のろし)になったり、手旗信号になったり、電話になったり、マスメディアになったりする形で発達していきました。

 社会の歯車を作ることが教育の主要な目的であった時代は、コミュニケーションの送り手は一方的に送り手のままで、コミュニケーションの受け手はいつも受け手のままでした。能率のよい伝達のために、同じ教材を同じ年齢の生徒に同じように教えるというプランテーションのような教育が求められていたのです。

 しかし、今、時代は大きく変わろうとしています。これからの教育に必要なものは、個人の個性に合った多様なニーズであり、そのニーズに対応するための多様なシーズです。Aを欲する人にはAを提供できる人が対応し、Bを欲する人にはBを提供できる人が対応するという多様なコミュニケーションが成立する社会では、教育は、雑木林(ぞうきばやし)のような姿になります。その雑木林の教育を可能にするコミュニケーションのツールがインターネットという新しい表現手段です。

 インターネットは、これまで、情報を検索するツールや、情報を発信するツールとして使われてきました。それも確かにインターネットの重要な役割ですが、今後はそれ以上にSNS的なコミュニケーションのツールとしての役割が増大していきます。つまり、大量の情報を収集する役割や、大量の情報を発信する役割以上に、多様な情報を相互に多様にやりとりするという役割が大きくなってくるのです。



■インターネットと教育



 プランテーションの農業は、最適の作物、最適の肥料、最適の栽培サイクルを、人間が高度に管理できるという発想で運営されています。その発想は、過去の工業時代の考え方です。

 これに対して雑木林では、あるところではハチが蜜を集め、あるところでは鳥が果実をついばみ、あるところではキノコが朽ちた木を分解しています。丈の高い木と低い木が混在し、日当たりのいいところに生える植物と日陰を好む植物が棲み分けをしています。そこに見られる生き物相互のコミュニケーションは、あまりにも多様なのでだれも管理することはできません。そして、縄文時代の日本人は、このような雑木林の中で自身も多様なひとつの生物として生活を営んでいました。

 雑木林のような教育とは、全体を管理する中枢を必要とする教育ではなく、教育の多様な需要と供給が相互のやりとりの中で最適の折り合いをつけていく教育です。

 しかし、ここで問題になるのは、既に成長した社会人は多様性を自己責任で取捨選択できるとしても、成長の途上にある子供たちは、多様性の中に放置することができないということです。それは、人間が動物とは違って、もともと不完全であるが故に創造的であるという特殊な性質を持つ存在だからです。

 例えば、わかりやすい例で言えば、もし子供たちに、「人間は自分の好きなことをして成長していくのがいちばんいいのだから、学校では自由に何をしてもいい」という教育を行うとしたらどうなるでしょうか。一部の子供は、そこで自分の個性を生かした自己学習をするかもしれませんが、大多数の子供はいつまでも娯楽の中に埋没し、自己教育の土台となる基礎的な知識や技能を身につけることはできないでしょう。

 アメリカのサドベリー・バレー校は、子供たちに何も教えない学校として知られています。そこでは、子供が自ら何かを学びたいと言ったときだけ、先生がその何かを教えるという方法をとっています。しかも、何を学ぶかは子供たちの選択に任されています。だから、十代の半ばまで遊び続ける子もいます。しかし、子供たちはいつか必ず自分からあることに関心を持ち、その関心を生かすために学び始めるというのです。

 サドベリー・バレーは、勇気のある実験ですが、この方法を未来の教育の中心的な方法とすることはできません。サドベリー・バレーの教育が可能だったのは、その学校が社会から隔絶された環境にあったからです。縄文時代の環境の中で、縄文時代に必要な生活を営むのであれば、特に体系化された教育の方法論は必要ありません。

 しかし、現代の社会では、子供たちは、ゲームやテレビやスポーツや音楽などの多様な娯楽に囲まれた環境で暮らしています。しかも、現代は、社会生活を送るのに必要な知識も、学問上の知識も年々増えている時代です。このような社会に生きるためには、自由な多様性の中核となる教育の方法論が必要になるのです。

 その方法に欠かせない要素は、第一に知的であることです。感覚や運動という要素は大切ですが、それらは知性の土台があってこそ人間的な感覚や運動の能力になるからです。

 第二に創造的であることです。単に理解することや単に多数の知識を持つことは、与えられた役割を果たすための教育であって、それは自分が主体になる教育のひとつ前の段階の教育だからです。

 第三に成長対応的なものであることです。成長対応とは、例えば幼児は幼児なりに、小学生は小学生なりに、中学生高校生大学生も、それぞれの年齢に応じて学び進歩できるものであることです。

 これら三つの要素を兼ね備えているものが作文教育です。

 だから、未来の教育は、作文の学習を中核として、作文の勉強を進めるために、読書も、他の教科の学習も、感覚も、運動も、多様な経験も必要になるという総合的なものとして行われていきます。そして、作文のような個性的なものを教えるためには、工業時代の一律の教育ではなく、顔の見える個人による対話の教育が必要になります。その多様な対話をコミュニケーションの面から支えるツールが、インターネットのSNS的な性格を発展させたものになるという関係にあるのです。



同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
教育論文化論(255) 

コメント欄

コメントフォーム
インターネットと教育(その2) 森川林 20110424 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
ぬねのは (スパム投稿を防ぐために五十音表の「ぬねのは」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
教育論文化論(255) 
コメント1~10件
読解問題の解き Wind
面白かった 10/11
記事 4027番
長文の暗唱のた たろー
この世で一番参考になる 9/30
記事 616番
「桃太郎」を例 匿名
役に立った 8/15
記事 1314番
日本人の対話と 森川林
ヨーロッパの対話は、正反合という弁証法の考え方を前提にしてい 8/6
記事 1226番
日本人の対話と よろしく
日本人は上に都合がよい対話と言う名のいいくるめ、現状維持、そ 8/5
記事 1226番
夢のない子供た 森川林
「宇宙戦艦ヤマトの真実」(豊田有恒)を読んだ。これは面白い。 7/17
記事 5099番
日本人の対話と 森川林
 ディベートは、役に立つと思います。  ただ、相手への共感 7/13
記事 1226番
日本人の対話と RIO
ディベートは方法論なので、それを学ぶ価値はあります。確かに、 7/11
記事 1226番
英語力よりも日 森川林
AIテクノロジーの時代には、英語も、中国語も、つまり外国語の 6/28
記事 5112番
創造発表クラス 森川林
単に、資料を調べて発表するだけの探究学習であれば、AIでもで 6/27
記事 5111番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習