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 点数の教育ではなく、文化の教育をどう進めるか――暗唱力(7) Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
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点数の教育ではなく、文化の教育をどう進めるか――暗唱力(7) as/2742.html
森川林 2016/11/11 05:56 


 日本人は、世界の中でも珍しいほど正直な人が多いと思います。
 それは、財布などの落とし物が届けられることが多いということに表れています。

 しかし、世界の標準はたぶんそうではありません。
 見つからなければ平気で嘘をつくという人は、かなり多いと思います。世界の犯罪の発生件数の統計などを見ると、そういう国ごとの差がよくわかります。

 また、ビジネスでも普段の生活でも、賄賂が日常的に行われている国も多いようです。
 日本の場合は、江戸時代の昔から、役人が清廉潔白でした。
 江戸時代、日本に来たシュリーマンがそのことを詳しく書いています。

 さて、こういう倫理感というものは、教育でどうにかなるものなのでしょうか。
 もし、これがテストの問題で、
「人のものを盗るのはよいことですか、悪いことですか。正しい方に○をつけなさい。(1)よい、(2)悪い」
などという問題があったとしたら、どの国の人でも正解率は百パーセント近くになると思います。

 なぜ、悪いことをする人でもよい方に〇をつけることができるというと、倫理感は、知識の問題としては測定できないからです。
 これが、道徳教育を困難にさせている原因です。
 道徳というものを従来の教育の延長で行おうとすれば、このような知識の問題として出すしかありません。
 そして、すべての人が百点を取れたとしても、その社会が道徳的な社会になるわけではないのです。

 すると、そのあとに出てくるものは、罰則を厳しくするという方法です。
 これは、外見上は確かに効果があります。
 しかし、人間の性格の根本が変わらないかぎり、罰則がないところでは平気で悪いことをするということは残ります。

 そして、強力な罰則は、社会全体の共通ルールになるよりも、リーダーシップを持つ個人の恣意的な運用で実施されることが多いので、その個人がいなくなれば、また元に戻る確率が高いのです。

 では、江戸時代までの日本の社会は、この道徳や倫理のような文化の教育をどのように行っていたのでしょうか。
 教育は、理解してほしいことを知識として教えるのが基本です。
 だから、江戸時代のころも、「嘘をつくのは悪いことで、正直なことがよいこと」という知識を教えたのです。
 しかし、それを定着させる方法がありました。それは反復によって自然にそれが自分の血肉になるようにさせるという方法です。それが、素読と暗唱だったのです。

 倫理観の基礎が素読によって形成されている社会では、読み物やことわざや日常会話の中でも、その倫理観に根ざした言葉が何度も繰り返されます。
 それが社会全体の倫理観を更に強固なものにしていったのです。

 よいものと悪いものを見分ける能力は、よいものを繰り返し見ることによって育ちます。
 教育の基本は、よい言葉、よい行動、よい知識の反復で、その中でも最も身近な方法が素読と暗唱だったのです。



コメント欄

nane 2016年11月11日 6時16分 1 
 子供に、「勉強しなさい」「本を読みなさい」「字をていねいに書きなさい」などと繰り返すお母さんは多いと思います。
 繰り返し聞く言葉は、その子の人生観を形成します。
 だから、もっといい言葉を繰り返していくといいのです。
 私の母は、「天知る地知る人が知る」という言葉をよく言っていました。
 だから、自然にその言葉が自分のものの見方を形成したような気がします。
 これがもし、「嘘も方便」とか「人を見たら泥棒と思え」とか「水に落ちた犬を打て」とかいう言葉ばかりだったら、やはりそういうものの見方をするようになったと思います。そういう国もありそう(笑)


森川林 2016年11月11日 6時16分 1 
 道徳教育という言葉には、やや滑稽な響きがあります。
 それは、よいことや正しいことを教えることができるのか、また、教えることで果たして身につくのか、という疑問があるからです。
 しかし、だからといって、道徳力が自然に育つという保証はありません。
 逆に、自然に任せれば、人間は善悪よりも損得にしたがって行動ようになります。
 では、日本人の道徳観はどのようにして育ってきたのでしょうか。


jun 2016年11月11日 11時35分 2 
よいものを繰り返しインプットすることで、意識が自然とよいものに向いて、明るく前向きな生き方ができるような気がします。

sizuku 2016年11月12日 10時32分 51 
倫理観は学校で学ぶことでなく家庭で育てるものなのですね。

touko 2016年11月17日 18時19分 77 
スペインでのできごとですが・・・8歳の子どもが、他の子のかばんから物を盗みました。盗まれた子が気づいて、返すよう言っても「だって欲しいんだもん」と泣いて返すのを嫌がる。そばにいた親も「返しなさい~買ってあげるから~」といかにも「なんでこんなことうちの子に言うのよ、大したもんじゃないのに」と言わんばかり。
日本だったら、親は泣いて謝り、子は真っ青になって震える・・・というところではないでしょうか。
日本の文化・教育に基づく倫理観は、本当に他に類を見ない素晴らしいものだと思います。
古くから読み継がれている絵本や本にも、こうした文化が背景になっている作品がたくさんありますね。日本人として、こういうものを子供にしっかりと伝えていきたいと、心から思います。

touko 2016年11月17日 18時45分 77 
財布の例、本当ですね。
スペインでは、マフラーや手袋、時計なんかもちろん、5分後に気づいて引き返して探しても、ほとんど見つかりません。
仮に落とした財布が見つかるというような幸運があったとしても、現金は当然のように無くなっています(笑)

よう 2016年12月22日 23時13分 9 
暗唱がなぜよいのか。暗唱をすることの良さが、実にわかりやすく書かれていて勉強になりました。

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