小学5年生の作文課題に、「島の動物と大陸の動物」の感想文があります。この文章の中に、「矮小化」という言葉が出てきます。先日、それを要約の中で漢字で書いていた生徒がいました。
これを見たとき、もしこれが受験作文で、本人がこの言葉を自然に漢字で書いていたとしたら、作文を評価する試験官の印象点はかなり高くなると思いました。
大学入試の作文(小論文)でも同じです。
レベルの高い文章を書ける子は、語彙力が違います。
内容的には同じことを書いていたとしても、内容よりも語彙力の差が印象点の大きな差になるのです。
なぜ語彙力が印象点の差になるかというと、難しい言葉を使っている子は、その言葉が使われているような難しい本を読んでいることが推測されるからです。
語彙力は、読書で身につくもので、辞書で身につくものではありません。
語彙力をつけるために、辞書的な勉強をさせる本もあります。
昔、大学入試用の本として人気のあった「術後集」などがそうです。
しかし、理解するための語彙と使用するための語彙は性格が違います。
辞書的な勉強で身につくのは、理解する語彙です。
使用する語彙は、本のようなある程度の長さのある文章の文脈の中で読まれる必要があるのです。
受験間近の人は、今から難しい本を読んでいる時間がないと思います。
そういう人のために能率のよい方法があります。
一つは問題集読書で、もう一つは親子の対話です。
問題集読書の方は、何度も書いているので省略して、親子の対話について説明します。
親子の対話で第一に重要なのは、題材です。作文のテーマに関連するお父さんやお母さんの体験談を話してあげるのです。
入試問題の物語文では、心の葛藤の場面がよく出てきます。
「本当はAにしたいが、Bにした」というようなある意味で日本的な場面がよく出てくるのです。
この葛藤の場面を実感を持って受け取るためには、子供自身の似た経験がなければなりません。
その似た経験を補佐するのが、両親の似た経験を聞くことなのです。
親子の対話で第二に重要なのは、主題です。作文のまとめ段落での感想に、お父さんやお母さんだったらこう書くということを話してあげるのです。
子供の感想で最も単純なのは、「楽しかった」「うれしかった」「面白かった」などの感覚的な感想です。これに、「また○○したいです」が加わることもあります。
しかし、入試の作文では、これよりももっと高いレベルで感想を書く必要があります。そこで、語彙力の差が出てきます。
その語彙力は、頭を絞っても出てきません。もともとそういう語彙が頭に入っていないからです。
「術後集」のような辞書を使うわけにはいきません。理解する語彙は、使用する語彙にはならないからです。
しかし、お父さんやお母さんという身近な人の言葉として聞いた語彙は、子供の使える語彙になります。
小学5年生以上で受験が身近になってからは、特に親子の対話が重要になります。
小学5年生以上で親子の対話を盛んにするために、小学1、2年生のころから対話の習慣をつけておく必要があります。
小学1、2年生のころは、親と話をするのが楽しい時期なので、対話の習慣をつけやすいからです。
その対話の習慣をつけるきっかけになるのが作文の課題です。
子供が作文の課題に関連して、お父さんやお母さんの似た話を取材してきたら、体験談をたっぷり話してあげるのです。
そして、小学5年生以上の子が、「感想をどう書くかなあ」と聞いてきたら、お父さんやお母さんだったらこう書くということを話してあげるのです。
子供は、その話を聞いて自分の受け入れられるものを受け入れます。決して親の言ったことを無条件に採用するわけではありません。
しかし、子供が自分で受け入れたものは、その子の使用できる語彙として定着していくのです。
言葉の森が受験作文に強いと言われるのは、こういう家庭での協力のノウハウが指導の背景にあるからです。