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未来の社会と教育の役割 as/992.html
森川林 2010/08/15 15:04 


 これまでの社会は、分業による生産、金銭による評価、生活の目標の中心としての消費、という仕組みの中で営まれてきました。これから来る未来の社会は、自給自足的で協業的な生産、生きがいによる評価、生活の中心としての生産という仕組みで営まれるようになるでしょう。

 そういう未来の社会を可能にするのは、一つには、これまでの分業生産によってもたらされた巨大な生産力です。したがって、個人や地域のレベルにおける自給自足的な生産は、機械化された工業製品やインフラのグローバルな生産と並行して成り立ちます。

 もう一つには、公開された情報によってもはや不自然な支配や統制を行うことができなくなったことによる民主主義の広がりです。未来の社会では、好むと好まざるに関わらず、純粋に技術的な理由から隠し事ができなくなります。隠し事ができないということは、裏取引や陰謀もできなくなるということです。そのような社会では、人間は互いに家族の一員として暮らすような生き方を選択せざるを得なくなります。

 今、世界はまだ生みの苦しみの中にいます。貧富の差は拡大し、民族や宗教の違いによる戦争が企てられ、争いを作り出すための無知が再生産されています。

 そして、経済の世界でも、アメリカのドル崩壊は時間の問題と言われています。日本の財政危機は、改善される展望がないどころか破綻に向かって一直線に進んでいるかのようです。中国の情報のカーテンの向こう側では、独裁政権の持つ矛盾がいつ濁流となって噴出するかわからない状態が続いています。

 しかし、このようにすべてが否定的に見える状況があるにも関わらず、人間の社会は大きく明るい方向に舵を切ったという気がしてなりません。今すべきことは、既に退場しつつある悪を排除することでも、収束に向かいつつある危機に備えることでもなく、これから来る新しい未来の展望を具体的に提案していくことのように思えます。


 これまでの教育は、分業生産の社会の中で性能のいい部品とするための教育でした。そして、人間の生きがいは、豊かな消費の中にあると教えられてきました。しかし、未来の教育は、消費する個人でなく、生産をする個人に焦点を当てたものになります。そして、その生産は、人間が部品となって行う生産ではなく、人間の全面的な自己実現として行う生産になるのです。

 これまでは、18歳での高校卒業や大学受験を目標にした教育が行われてきました。しかし、これからは、20代から80代までの人生を生きがいのある生産者として過ごすための教育が行われるようになります。人生の本番である20代以降を、幸福、向上、創造、貢献の人生として送るための教育が行われるようになるのです。

 このように大きな枠組みの変化があるにもかかわらず、小学校や中学校では、勉強の内容は今とそれほど変わらないように見えるでしょう。基礎的な教育の部分は、社会の仕組みが変わっても大きくは変わりません。

 しかし、小中学校の教育でも、次のような変化があるはずです。一つは、どの教科も満遍なく勉強するとともに、これまでの勉強の枠には入らなかった社会生活を送る上での教育も行われるようになります。どの教科も満遍なくということは、国語・数学・英語だけではなく、音楽や美術や体育や技術家庭などの技能教科も同じように主要な教科になるということです。

 また、点数の差をつけることを目的とするような不必要な難問はなくなり、将来の知的な生活に必要な知識や技能を誰もが確実に身につけられるような仕組みになります。その結果、勉強は、将来の自分の人生の創造に結びついているという実感から、遊び以上に楽しいものになるでしょう。

 中学生の後半から高校生、大学生にかけては、本人の個性、希望、得技を生かして、その長所を更に伸ばしつつ、短所となりうる部分を能率よく補強するプログラムが組まれ、個人が社会に出て価値ある生産者となるための方針が作られるでしょう。

 すべての個人が、その個性を生かした生産活動で、社会に貢献するとともに、自身も幸福を感じられるような能力を育てることが教育の目的になるのです。それは、教育というよりも文化に近いものになるでしょう。

 このようにして、地球全体が多様性に富んだ大きな学校になるような未来が、人間の社会の展望です。なぜなら、人間は限られた身体を持ち、特定の過去に制約され、不完全な言語と感情を持って生きている存在であり、人間の持つこの不完全性こそ、もしそれが教育によって本来の姿を発揮できるならば、人間の持つ最も大きな特徴である創造性を開花させる土台となるからなのです。

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未来の学校 as/991.html
森川林 2010/08/14 09:58 


 今の経済の特徴をひとことで言えば、巨大な生産力、貧困化する大衆、不毛な巨大蓄積、カジノ化するペーパーマネーというアンバランスが混在している状態です。つまり豊かな生産力が、大衆の豊かな生活に結びついていないために、生産力自体のそれ以上の発展も停滞しているという状況なのです。(ここまでが前回の話)


 ベランダに植えたシイの木が、日当たりもよく水はけもよいのにあまり葉を茂らせていません。近くに寄ってよく見ると、枝にアリマキがびっしりついて、アリが忙しそうに枝を行ったり来たりしていました。

 ちょっとかわいそうですがアリマキを退治したら、数日してすぐに新しい芽が出てきました。人類が生み出した巨大な生産力を、人類すべての豊かな消費に結びつけるためには、途中にいるアリマキを退治すればいいのです(笑)。

 しかし、アリマキも生態系の中で何かの役割を果たしているわけですから、退治するとは絶滅させることではありません。木の根っこが吸収した水分を葉っぱに行き渡らせるのにさしつかえないぐらいの範囲で、アリマキもアリマキらしい人生を送っていけばいいのです。

 しかし、木の場合は、根っこと葉っぱが連動すればそれで済みますが、人間社会の場合はそう単純ではありません。なぜなら、人間は飽きる生き物だからです。

 最初は豊かな消費生活に満足していても、やがてその豊かさに飽きてきます。パンとサーカスに満足するだけではなく、もっと刺激のあるサーカスを求めるようになってきます。

 そして、やがてそこから新しいアリマキが誕生し、そのアリマキを利用するアリが登場し、アリマキを食べるテントウムシが登場してくるのです。

 もし、人間の生きがいを消費生活の豊かさの中にだけ見出そうとすれば、人間の社会は低いレベルで何度も支配と隷属と腐敗と反乱と革命を繰り返していくだけでしょう。そして、これまでの歴史の大きな流れはそうであったとも言えるのです。

 問題なのは、この支配と隷属と腐敗が、回を重ねるごとに徹底したものになっていき、その結果、そこから生まれる反乱と革命が回を重ねるごとに破壊的なものになっていったことです。

 この不毛なサイクルから抜け出る道は、人間の生きがいを消費生活の喜びの中に見出すだけでなく、生産活動の創造の中に見出すことです。

 大前研一氏は、「民の見えざる手―デフレ時代の新・国富論」の中で、国が豊かになるためには、個人が生活を楽しむグッドライフを目指すことだと述べています。いざというときのために、あの世に行く直前まで貯金を続けるつましい生活を転換して、多くの人が魅力ある豊かな生活を送るようになれば、経済も活性化し税収も増え国も豊かになるというのです。

 豊かなグッドライフを目指すことは、確かに今の日本が進むべき道でしょう。しかし、ウィークエンドのセカンドハウスを持ち、マリンスポーツと楽器演奏と海外旅行を楽しむようなグッドライフも、もしそれが消費的なレベルにとどまるならば、やがて飽きる人が出てきます。

 新しい消費生活が楽しいのは、それが新しい経験だからであって、新しいことを学ぶ楽しさと隣り合わせだからです。つまり、消費生活の楽しさは、その消費が創造的に感じられる間の楽しさなのです。

 では、永続する楽しさは何かと言えば、それは生産する楽しさです。しかし、生産が創造的に楽しいレベルになるまでには、その土台作りのための長い修行期間が必要です。消費を創造的に楽しむためには、定年後からの練習でも間に合いますが、生産の場合はそうではないのです。

 ところが、現代の社会では、若いときに創造的な生産の土台を作るような教育が行われているわけではありません。教育は、生産のための教育ではあっても、工場での性能のいい歯車となるための教育に近いのです。

 若い時期に創造的な生産の教育が十分になされていなければ、豊かな社会が到来しても、人間はその社会の中でより豊かな消費を追求し、より激しく飽きる人生を送ることになるでしょう。生産的な創造のために必要なのは長い時間です。なぜなら、人間は身体を持っているがゆえに、その身体に蓄積された過去の延長で生きているからです。

 生産的な創造の喜びは、キャッシュで手に入れるものではなく、自らの修行で手に入れるものです。この修行の場が、未来の学校の姿なのです。(つづく)

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