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言葉の森のビジョン(その4) as/1015.html
森川林 2010/09/09 09:02 



 言葉の森のビジョンの図解説明の最終回です。やっと(笑)。




 これからの教育、特に子供時代の教育は、どのような形で行われるのでしょうか。

 これまでの学校の一斉授業形式の教育は、現在既に行き詰まっています。それは、消費生活の多様化に伴って家庭環境が多様化し、ある子供はゲーム漬け、ある子供はテレビ漬け、逆にある子供は豊かな読書や対話の環境と、子供たちを取り巻く家庭環境の格差が拡大してきたためです。

 学校の一斉授業は、均質の子供たちを教えることを前提にしていたため、同学年でも出発点に大きな相違のある子供たちの教育に対応することができなくなっていったのです。

 しかし、一斉授業の人数を少なくするという方向は、ある程度の効果はあるものの事態の本質的な解決にはつながりません。少人数化の到達点はマンツーマンの個別教育ですが、1人の子供を教えるために1人の大人が必要になるという状態を小中学校の基礎教育の分野で行うというのは、やはり不自然です。

 ここで参考になるのは、江戸時代に行われていた寺子屋の教育法です。寺子屋では、先生1人が小1から小6のころまでの年齢の異なる生徒十数人を毎日早朝から昼過ぎごろまで休みなく教えていました。しかし、そのころの寺子屋の絵を見ると、教える先生はいかにも暇そうに本などを読んでいます。一方子供たちは思い思いに遊んだりふざけたりしています。

 そのように雑然として学ぶ生徒と、特に何を教えるでもないような余裕のある先生という光景にもかかわらず、江戸時代の寺子屋教育は日本の子供たちの教育に大きな成果を上げていました。それは、寺子屋教育の基本が、教える教育ではなく学ぶ教育だったらからです。

 未来の社会の基礎教育も、このように子供たちの自学自習を基調としたものになるでしょう。そして、勉強の喜びは、競争に勝つ喜びではなく、自分の勉強の成果を発表する喜びに変わっていきます。

 また、教育が子供たちの人生に結びつくという点から、教育は学校の中に閉ざされたものではなく、地域と家庭にもっと深く結びついたものになるでしょう。更に、教える役割は先生が一手に引き受けるものではなく、年長の生徒が年少の生徒を教えるなど、生徒どうしの交流や協力を生かしたものになるでしょう。




 このような未来の教育の費用はどのようになっているのでしょうか。基礎教育は、すべての子供の教育を保証するという立場から、限りなく無償に近いものになっていきます。

 しかし、すべての教育がより低価格になるかというとそうではありません。教育が修行社会のダイナミズムの中核になるためには、ある意味で限りなく高価格になっていく必要もあるのです。

 さて、ここで、話は変わって、価格というものについてのこれまでのいくつかの考え方を見てみます。

 第一は、「よりよい品をより安く」というダイエー型の価格の考えです。この考えは、豊かな消費生活を万人が享受できるようにするという哲学に根ざしたものでした。

 第二は、これとは反対に、「適正価格で適性利潤を」という松下電器型の価格の考えです。松下幸之助の考えは、技術の発達のためには適度な価格と適度な利潤が必要だという哲学に基づいたものでした。

 第三は、「付加価値をつけてより高く」というバブル時代の考えです。日本でも、不要なおまけやサービスをつけて価格を高めることが企業の戦略のように考えられていた時期がありました。

 第四は、「価格破壊でひとり勝ち」という考えです。低価格を可能にする低コストは、多くの場合何らかの形で人件費の低下と結びついています。低価格は、消費者にとっては恩恵ですが、低コストを生み出すために不要になった労働力を、より高コストで活用する場を社会が作り出していかないかぎり、恩恵とともに失業という摩擦も伴っています。

 明治政府は、急速な近代化の波で多くの職業が不要になる際に、さまざまな工夫で失業対策を行いました。例えば、大井川に橋がかかるようになった結果不要になった川渡しの新しい職業として、近隣の山々の茶畑開墾を押し進めました。

 企業は、自社の利益のために低価格・低コストを追求します。しかし、それに対して個人が自助努力でリストラされないように工夫するというだけでは、社会の仕組みとしてはあまりにも不安定です。政治の役割は、規制を緩和するとともに、その規制のない自由競争の結果生まれる摩擦を、より高い次元で新しい発展に結びつけて個人を救済することです。

 さて、以上のように考えると、望ましい価格の考え方がわかってきます。それは、一つには、古い経済を代表する分野に対してはできるだけ低価格で、しかし、低価格による摩擦の少ないように社会全体で工夫していくということです。もう一つは逆に、新しい経済を代表する分野に関してはできるだけ高価格で、人も物も金もふくらませて更に発展させていくことです。




 現在の教育には、三つの面があります。

 第一は、基礎教育の面で、これは、江戸時代の寺子屋のように、能率のよい低価格と低コストと高い効果を目指していく分野です。

 第二は、これからもしばらく続く受験競争の面で、これは、高い効果を優先する結果、中価格と低コストで成り立つ分野です。

 第三は、これから生まれる向上と創造の教育という面で、これは、新しい発展の可能性を拡大していくために、人と物と金を集める高価格と低コストを目指す分野です。つまり、未来の産業は高価格の魅力のあるものになることによって、社会全体の利益を新たに生み出していくのです。

 共通しているのは低コストですが、その低コストを低い人件費で成り立たせるのではなく人件費はむしろ高めに設定するとともに、基礎教育については低価格・低利潤で、受験教育については中価格・中利潤で、向上と創造の教育については高価格・高利潤で対応するというのが今後の教育の価格の考え方になっていくと思います。




 言葉の森の目指す将来のビジョンはどういうものでしょうか。(やっとタイトルとつながった(^^ゞ)

 それには四つの面があります。それを山の姿になぞらえて説明してみます。

 第一は、山の頂上にあたるところで、ある特定の分野におけるダントツに優れたオンリーワンの教育です。

 第二は、山の中腹を取り巻く雲にあたるところで、その教育を言葉の森だけが直接担うのではなく、一般の多くの指導者を養成することによって行うという仕組みです。

 第三は、山の裾野(すその)にあたるところで、頂上のダントツの教育を支えるために全教科のバランスのとれた学力を育てる教育です。

 第四は、山の麓(ふもと)の湖にあたるところで、教育を、地域と家庭における生徒と保護者と先生の相互の交流を通して行うという仕組みです。


 今、言葉の森は、生徒を教える教室から、先生を育てる教室へと大きく変化しようとしています。その場合の先生とは、大きな組織に守られた専門職としての先生ではなく、地域で生活する子供たちと同じ場面で生活する(しかし、自ずから権威と親しみのある)共同生活者としての先生です。

 そして、その先生もまた、保護者から教育の分野だけを専門に引き受ける、閉ざされた専門家ではなく、父母や地域の人々とともに子供の教育に協同して取り組む一種の羅針盤としての役割を果たすような意味での先生なのです。


 言葉の森は、この秋からいくつかの地域で通学教室を展開します。それは、通学教室というスタイルが、これからの日本の子供たちの教育にとってより必要になると考えたからです。

 その考えの根底にあるのは、日本の社会を守り発展させるために、今何が必要かという歴史と社会の認識です。(これまで書いてきた話です)

 マネーを価値観の中心とした社会は、これから次第に自己向上の価値観を中心にした新しい社会に変わっていくでしょう。その変化を加速させるために、言葉の森もこれからがんばっていきたいと思います。

 (長い文章を読んでいただきありがとうございました。)



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