夕方の家族のお喋りは、大いに盛り上がります。お父さんは、いま取り組んでいる仕事の話をいろいろしてくれます。お母さんも、よく勉強していて、お父さんの専門分野についていろいろな質問をします。
お母さんも、自分の趣味の仕事を持っているので、その話をすると、今度はお父さんがいろいろな質問をします。もちろん、ここにK君も加わります。夕方のお喋りは、にぎやかな討論会のようでした。
僕は、こんなに面白い話を毎日していれば、テレビやゲームなんていらないなと思いました。
夕飯の食卓は、野菜が盛りだくさんです。ほとんどは、自宅で育てているもののようです。
庭がなくてもベランダや窓ガラスで栽培できる野菜が増えているので、どこの家庭でも、野菜は自宅で作っているようです。
肉類はあまり食べないらしいので、僕が、
「どうして」
と聞くと、
「食べられる動物の身になったら、かわいそうだからだよ」
と、K君は笑いました。未来の社会の人は、他人ばかりにではなく、動物に対しても共感する気持ちを持っているようです。
ちょうど社会全体が、他の人も他の動物も含めて、一つの家族のように相手のことを考えているから、わざわざルールを作ったり取り締まる人を作ったりする必要がないのだと思いました。
僕は、日本の歴史を学んだとき、徳川綱吉が出した「生類憐みの令(しょうるいあわれみのれい)」を悪法のように教わっていましたが、未来の日本の学校では、綱吉の精神は逆に評価されているということでした。
食事を始めると、窓からリスや小鳥が入ってきました。これらの小動物の中には、ベランダの巣箱で暮らしているものもいるようです。
人間の間にまじって、リスや小鳥がテーブルの上には上がらずにちゃんと横で待っています。
ペットとして飼われているわけではないので、つかまえたり手でさわったりすることはできませんが、手の届くぐらいの近さでみんなにぎやかにえさを食べていました。
近所の家の中には、トンビやフクロウと一緒に住んでいる家もあるようです。
寝る時間になっったので、ベッドに行こうとすると犬がついてきました。ゴンタという名前で、3歳のゴールデンレトリバーです。
K君は、いつも犬と一緒に寝ているようです。
「今日は、君がゴンタと一緒に寝たらいいよ」
と、K君が言いました。面白そうなので、僕は、
「うん、ゴンタおいで」
と言いました。
今日一日いろいろ新しい経験でくたびれたので、僕は、ベッドに入るとすぐに寝てしまったようです。
朝、スースーという音で目が覚めると、僕の目の前に、寝ているゴンタの顔がありました。僕は、ちょっとふざけて犬の真似をして、ゴンタの鼻をペロリとなめました。ゴンタは、ぱちりと目をさましました。(おわり)