数年前、ネット教育の大きな可能性として紹介されたMOOCは、大前研一氏の話によると、その後はあまり成功しているとは言えないようです。その原因は、オンラインという仕組みでは、受講者の意欲が長続きしないということにあります。
大前氏は、新しいネット教育の方向として、カーン・アカデミーのやり方を評価していますが、これも、話を聞く範囲ではそれほど進展するようには思えません。その原因は、やはり受講生の意欲の問題です。
日本では、ネット教育としてスタディサプリが広がっていますが、これもオンラインの授業をひとりで受講するというだけでは、勉強する目的のはっきしている生徒以外は意欲的に続けることは難しいかもしれません。
ネット教育の中には、マンツーマンの英会話教育のように、今は成功している例もありますが、これはもともとコストの高かった分野だからできることであって、教育の幅広い分野にわたって適用できるものにはなりません。
マンツーマンのネット教育は、現在は一応いろいろなところで行われていますが、それはskypeのような便利なネット環境ができたということだけに依拠した新しい教育の仕組みですから、教育環境の大きな進歩ということにはなりません。
そこで、言葉の森が今考えているのは、次のようなやり方です。
第一は、ネット教育は、家庭での親子の対話につながる形で進める必要があるということです。ネット上での先生と生徒の人間的なつながりだけでなく、家庭というリアルなつながりが背景にあって初めて地に足のついた教育ができます。
第二は、教える時間とともに、実習の時間と評価の時間を確保することです。ネットで授業を聞いて、あとで自分ひとりで勉強するという形では、改めて学習する時間をとりにくくなります。ネット上で実習の時間も確保しておくことが必要で、それをオンライン上でチェックすることも必要になります。
第三は、生徒の発表と交流の場を確保することです。勉強の意欲は、生徒どうしの交流の中で生まれます。交流の中には、勉強の中身とはあまり関係のないものも出てきますが、そういうつながりが勉強の意欲に反映してきます。
第四は、自学自習の効果的な仕組みを作ることです。これは、江戸時代の寺子屋教育の方法が参考になります。種類の少ない精選された教材で、繰り返し勉強する仕組みを作り、その結果を評価できる仕組みを作ることです。
第五に、これらの方向を支えるために、ネットとパソコンの利用の仕方をもっと簡素化することです。
これらの原則をもとに、今、言葉の森のオンエア講座では、次のようなことを行っています。
第一は、オンラインの子供たちの勉強のあと、父母との自由な懇談の場を設けることです。
第二は、子供たちがその場で実習を行い、実習の結果を最後に先生に見せるところまでを授業時間内に行うことです。
第三は、実習の結果を全員が発表できるようにすることです。そのためには、実習の課題の中に誰もが容易にできるものを入れることと、結果のアップロードを容易にできる仕組みを作ることが必要になります。
この、父母懇談、実習確保、全員発表というやり方を、今後、寺子屋オンエアとオンエア作文にも生かしていくことを考えています。