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家庭で育てる日本語教育文化 as/996.html
森川林 2010/08/19 18:40 
修 削


 日本語力を育てるのは家庭生活ですが、現在の問題は、家庭における日本語教育力が弱くなっていることです。

 江戸時代、寺子屋で素読や手習い(習字)が普及していたのは、その寺子屋の教育に対応する文化が家庭にもあったためです。

 例えば、子供が素読する文章を多くの親は知っていました。親自身も子供時代に同じような素読をして大きくなったからです。ちょうど、現代の九九のように、親が知っているから、学校で宿題として出されるだけでも、ほぼ全員が九九を言えるようになるというのと同じ家庭の文化があったのです。

 また、家庭生活でも仕事生活でも、手紙によるやりとりが頻繁におこなわれていました。手習いの練習は、手紙を書くための教育として普及していました。

 「インド式すごい勉強法」(ニヤンタ・デシュパンデ著)によると、インドの家庭では、親が子供に古典を朗読させるという昔ながらの教育文化があるそうです。学校や塾に行かなくても、家庭で朗読ができるというのは、親と子に共通する言葉の文化があるからです。

 ひるがえって今、日本の家庭に日本語を教育する文化があるかと考えると、残念ながらそれはほとんどありません。

 親が小さい子供に読み聞かせをするときでも、多く場合、本を用意して読んであげるという形です。このため、読み聞かせは親にとって負担の大きいものになります。しかし、もし親が自分が子供のころに聞かされたいろいろな昔話を知っていて、それを思い出しながら子供に話して聞かせるのであれば、この読み聞かせ(話し聞かせ)は、もっと楽に長い時間できるものになるでしょう。

 教室に通っている子供たちに、感想文の似た話の例として昔話を挙げると、多くの子供がそういう昔話を知りません。また、日常生活でよく使われるようなことわざも、知らない子がかなりいます。昔話は、テレビの「日本むかしばなし」で、ことわざは、学習漫画の「まんがことわざ辞典」で学ぶようになっているのです。

 また、現代の日本の社会では、手紙のやりとり自体がありません。そのため、日常的な言葉とかけ離れた形式やルールが生き残り、手紙を書くことが日常生活からますます縁遠いものになっています。家庭生活の中では文章を書く機会や必要がないため、子供たちが文章を書く場所は、学校の作文やレポートに限られています。しかし、その学校での機会も、それほど多いとは言えません。

 更に、親子の対話の時間が限られています。親と子が家庭で談話をする時間がなかなかとれないのです。それは、父親の帰りが遅いこと、母親も遅くまで仕事をしていること、そして、テレビが茶の間に主役になっていることが主な理由です。その結果、親が子に話すのは、勉強に関する小言のようなものが中心になっているのです。

 本当は、親が子供に、親の子供時代の話をしてあげるなどということが日常的にできれば、小学校低学年の子に対しても、中学生、高校生の子に対してもそれなりに中身のある対話ができるでしょう。しかし、そういう話が家庭で行われないのは、親子の間に家庭で話をするという文化がなくなっているからです。

 家庭で知的で楽しい対話の機会がなく、テレビを見ることが日本語の生活の中心になっているので、たまに親子が話をすると、成績のこと、テストのこと、受験のことになり、内容を深める話よりも表面的な掛け声のような話になってしまうことが多いのです。(つづく)



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